72:視線を逸らしたら、キスをするから
「ニーナ、おはよう」
クリスがいた! 足元に銀狼もいる。
「お、おはよう、クリス……」
これでも伯爵家の令嬢なのだ。
こんな風に駆け出してしまうなんて、ちょっとはしたないよね。
慌てて速度を落とし、ゆっくり歩き出すと。
クリスの方が駆け寄り……。
「ニーナ」
ただ名前を呼んでいるだけなのに。
なんて甘い声なのだろう。
もうその一言だけで、力が抜けてしまう。
そんな状態なのに。
さらにぎゅっと抱きしめられた。
その瞬間、透明感のある清楚な香りに包まれる。
クリスのこの香り、本当に素敵。
それに衣装も完璧です!
白いファーが付いたライラック色のローブは、昨日と同じだが、その下は白シャツに、モーブ色のタイとジレ、そしてズボン。濃い紫色のフロックコートを着ている。
マジパラでも見たことのある素敵な装いに、胸が高鳴る。
「昨晩はゆっくり眠れた? 夢で、昔の記憶はよみがえった?」
ゆっくり体を離しながら、クリスが輝くような笑みを浮かべる。
「! まさに夢で、クリスに初めて会った日から一週間分の記憶を、みていたの! ……もしかしてクリスの魔法?」
「うん。眠っている間に、記憶がよみがえるよう、調整しておいた。僕がどれだけニーナを好きか、思い出してくれた?」
「……それはもちろん」
答えているうちに、顔が赤くなるのを感じる。
「そうやって照れるニーナは、本当に可愛いね」
クリスが頬に優しく触れる。
当然、心臓がドクンと大きく反応する。
「朝食まで、まだ時間があるよね。そこのベンチに座ろうか」
まるで前からそうしているかのように、私の手をとると、クリスはベンチへと歩き出す。
その手はとても温かく、すべすべで、触り心地が良かった。
私とクリスがベンチに座ると、銀狼は、クリスの足元で丸くなる。
「……ニーナが銀狼を見ると、なんだかジェラシーを感じる」
「えっ!?」
「冗談だよ。ところでニーナ。目にかけた魔法は、解術してもらっていたのだね」
ライラック色の瞳が、私の目をのぞきこんだ。
うわあぁぁぁぁ、いきなり、ち、近い!
「そんなに顔を赤くして……。ニーナ、僕の心臓を破壊する気かい?」
「!!」
それは私のセリフで……。
視線を逸らしながら「目の魔法はウィルが解術してくれたの。でも数日前のことよ。それまではずっと眼鏡をかけていたから……」と答える。
「そうか。ウィル……。腕をあげたな。それなりに複雑な魔法を使ったのだけど。でもまだ12歳だったからな。甘かったか」
クリスが笑っていると分かり、チラッと見ると、すぐにあの切れ長の瞳と目が合う。
距離が近いので、この美し過ぎる視線には耐えられない……。
またも視線を逸らそうとすると、両手で頬を包まれた。
「ねえ、ニーナ、どうして視線を逸らすの?」
「……! そ、それは……距離が、距離が近い上に、クリスがかっこよすぎるから……」
「じゃあ、また視力を悪くする?」
クリスが耳に顔を近づけ、甘く囁く。
思わず「ひゃっ」と変な声をあげてしまい、クリスが楽しそうに笑う。
「冗談だよ。でも見慣れてもらわないと、困るな。そうだ。視線を逸らしたら、キスをするから。覚悟して」
「!?」
「あ、早速逸らしたね。そうか、ニーナはキスをしたかったのかな?」
「そ、そんな、 」
いきなりのキスに、息をするのを忘れ、クリスの唇がはなれた瞬間、慌てて呼吸をする。
「もう、ニーナ、可愛すぎる」
クリスがぎゅっと、私を抱きしめる。
あ、でもこの状態なら、ドキドキはするけど、いろいろと耐えられるかも。
そう思い、この体勢がいいというつもりで、両手をクリスの背に回すと……。
「嬉しいな。ニーナが僕を、抱きしめてくれている」
その言葉に、ドキドキが加速される。
私の心臓、大丈夫だろうか!?
心臓は心配だが、クリスの腕の中は……。
天国です。楽園です。最高です。
そんなことを思いつつ、クリスに尋ねる。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
甘々警報発動中(*/▽\*)
投稿作業中、ニヤニヤしていました。
皆さんは読んでいてどうでしたか?
次回は「そんな可愛い顔をしても、ダメだよ」を公開します。
それでは引き続きよろしくお願いいたします!!
いいね!をくださった読者様。
応援、ありがとうございますo(⁎˃ᴗ˂⁎)o

























































