71:夢から醒めて
「思い出した!!」
私は大声でそう叫び、ベッドから飛び起きる。
部屋の中は、まだ薄暗い。
サイドテーブルのランプをつけ、時計を見ると、もうすぐ5時半だった。
すべて、思い出した。
クリスの言った通りだ。
記憶は消されたわけではない。隠されていた。
それを今、夢という形で、すべて追体験することができた。
ウィルも私も、完全に誤解している。
魔力を抑える魔法も、遠視にする魔法も、私が悪役令嬢になるのを回避するために、クリストファーに……クリスに頼んでかけてもらっていた。
クリスの名誉に関わる。
ウィルとちゃんと話して、誤解をとかないと。
でもまだ時間が早い。
私は夕食を終えるなり、すぐに眠ってしまったが、みんなは違うはずだ。
皆がベッドにはいったのは、きっとかなり遅い時間。
まだみんな、寝ているだろう。
かといってハッキリ目が覚めてしまったし、二度寝する気にはなれない。
今日、学校は休んでいいと、父親から言われている。
それは私の体を気遣ったのと、さらわれてから何があったのか、話を聞くためだ。
よし。とりあえず着替えよう。
ベッドから起きると、着替えを始めた。
◇
制服以外の服に袖を通すのは、久々だ。
何を着るか迷ったが、自然とライラック色のドレスを、手に取っていた。
スカート部分はオーガンジー素材で、立体的な小花が散りばめられている。
クリスの瞳と、同じ色のドレスを着ている。
ただそれだけで、なんだか胸が高鳴った。
胸の高鳴りと同時に、クリスとキスしたことを思い出す。
銀狼とのキスは……。
あれはおっかなびっくりだった。
でも人の姿を取り戻したクリスとのキスは……。
優しくて温かくて安心できるのに、胸が高鳴るキスだった。
もっとクリスを感じていたかったのに、みんなが来てしまったから……。
ちょっと残念だった。
でもみんな助けに来てくれたのだから。
そんな風に思ってはいけない。
それにしても。
じわじわと実感してしまう。
私、クリスと、あの大魔法使いクリストファーと、キスをしてしまった……!
いまだ、夢のようで信じられない。
マジパラでは1位、2位を争う人気攻略キャラなのに。
……しかし。
悪役令嬢を回避するためにかけてもらった魔法も、一緒に解除されている。これは、大丈夫なのだろうか……?
断罪イベントとなる、卒業式後のプロムは、まだまだ先なのに。
そんなことを思いながら、朝の散歩へと向かう。
さすがに昨日の今日なので、屋敷の敷地から出るつもりはない。
敷地内の庭園へと向かう。
外は明るくなってきているが、まだヒンヤリと、冷たく感じる。
でも雀もチュンチュン鳴いていて、清々しい。
ハヤブサやアマガエルのことを、懐かしく感じる。
ハヤブサは、あの場で国王陛下直下の近衛兵が、預かっていた。
アマガエルは、父親がポケットにいれ連れ帰っている。
わずか二日だが、守護霊獣と知らずに、ハヤブサとアマガエルと過ごしたわけだが……。
一緒にいてくれると、心強く感じた。
守護霊獣の召喚をやりなおせると、ウィルは言ってくれている。
やり直せるなら、勿論、やり直したい。
そして……。
今度こそ召喚、成功させたいな。
薔薇が咲くアーチの方を見ると、その先に噴水広場が見えてきた。
「!!」
今、噴水のそばを、銀狼が通り過ぎた。
もしかしてクリスがいる……?
急にドキドキしてきた。
早歩きから駆け足となり、薔薇のアーチを駆け抜ける。
アーチを出ると……。
この後、もう1話、公開します!
準備出来次第、公開します。11時半までに公開します!
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