68:やらかしてしまった~9年前の春~
その翌日からは、まさに薔薇色の日々だった。
クリストファーは、どうせ王都に帰る。
帰れば私のことなど忘れる。
その気軽さから、初日には引いていた一線を、二日目には取っ払った。
まず本当の姿を、クリストファーに見せた。
つまり、花畑に行くまでは18歳のニーナの姿で。
花畑につくと、8歳のニーナに戻った。
三日目には、完全にノーガードだ。
悲惨な末路につながる、マジパラの攻略対象の一人、という警戒心で見るのを、止めていた。代わりに、ただの自分の推しとして、見るようにした。
私の変化を、クリストファーも感じていたのだろう。
三日目以降は、会話の最中に、私のおでこをツンとしたり、手に触れたり、頬に触れたりと、スキンシップもするようになった。それは子供が会話の中でするようなもので、異性うんぬんとは、関係のないものだ。そうとは分かっていても、中身は大学四年生の私は、いちいちドキドキしてしまう。
四日目には、お互いにお菓子を持参していて、それを交換し、食べながら、楽しく会話をした。
それどころかクリストファーは「はい、ニーナ、口を開けて」そんなことを言って、タルトを食べさせてくれて……。
もう、悶絶死するかと思った。
クリストファーは、まだ少年なのに。
マジパラの青年クリストファーと変わらないぐらい、男の色気を感じてしまう。
二度会うことはない推しとの、いい思い出ができたと、喜びを噛みしめた。
◇
それは、出会って五日目のことだ。
かなり打ち解けたので、クリストファーは、なぜこの国のあちこちを旅しているのか、その理由を明かしてくれた。
「探し物をしているの?」
「うん。それはこの国にとって、とても大切なもの。でも昔、それを使った人が、元の場所に返していなくて。それを探している。何かあった時に、この国を守るのに、必要なものだから」
「それって、四聖獣を召喚する時に使う、クリスタルのこと?」
四聖獣については、マジパラをプレイしていれば、誰でも知っていることだ。マジパラのオープニングムービー、そこでは、メリア魔法国について語られている。
王立イエローウィン魔法学園があるメリア魔法国は、4つの聖獣により守られている。
王都に危機がある時、聖獣が現れ、国を守る。でも今は平和な時代。
王都には美しい花が咲き誇り、新入生たちが
入学式の開始を、今か今かと待ちわびている――。
そんな感じで。
そしてゲームのイベントで、四聖獣を召喚するのに必要なクリスタルを探す、というものもあった。
「……ニーナ、よく分かったね。失礼だけど、伯爵家の令嬢が、ましてや8歳の君が知っているなんて……。驚いたよ」
クリストファーがそう言った時点で、気づくべきだった。でも気が緩んでいた私は、うっかりこう口にしてしまう。
「氷獣の召喚に必要な碧いクリスタルは、永久凍土が残る、ブルンデルクの隣の都市、レイククリスタルに。風獣の召喚に必要な、透明なクリスタルは、西の要の都市アクスブルクに。炎獣の召喚に必要な赤いクリスタルは、温暖で過ごしやすい都市として知られるフィアマールに。雷獣の召喚に必要な白いクリスタルは……」
そこでようやく気づく。
クリストファーが息をのんで、フリーズしていることに。
ヤバイ……。
クリスタルの在り処って、世間一般には知られていないことなのでは!?
「白いクリスタルは……えーと、どこにあるのかしらねぇ?」
「ニーナ、どうして分かるの?」
「え、え、え、え」
「マジパラというゲームのイベントで、クリスタル探しをしたことがあるから」と回答できるわけはなく。なぜそんなことを知っているかと問われた時、多くの悪役令嬢が口にしていそうな言葉で答える。
「そ、それは、その、時々、夢の中で、この世界のいろいろなことが分かるから」
「夢……?」
キョトンとするクリストファーは、なんと可愛らしいのだろう。
マジパラでは見せたことがない推しの表情に、キュン死そうになる。
なんとかそれを堪えて答える。
「そ、そう。夢で見るの」
「予知夢みたいなものなのかな」
「そ、そう。そんな感じ。その夢は、当たる時もあれば、ハズレることもあるわ」
魔法が成立する世界だからだろうか。
前世でこんなことを言っても、信じてもらえないだろうが……。
「そうなのか。ニーナは魔力も強いのに、予知夢も見ることができるなんて、すごいね」
信じてもらえた!
クリストファーが、ピュアだからかもしれないが。
「他にどんな予知夢を見たことがあるの?」
そう問われると、何か答えた方がいいと思うのだが……。
クリスタルのような、スケールの大きな話は、やめた方がいいだろう。
もっと些末などうでもいいことであり、今この場でへぇーと思っても、すぐに忘れそうなことを話すことにした。
例えば、王立イエローウィン魔法学園で、王太子と筆頭公爵家の嫡男は、クラスメイトになること。王都で揚げないドーナツのお店が流行ること(マジパラでは、このドーナツ屋に、放課後集合することが多かった)。王立イエローウィン魔法学園で行われる、芸術祭の人気投票では、僅差でクリストファーが、王太子を抑え1位になること――などだ。
「なんだかクリスタルに比べると、とてもピンポイントな予知夢だね。しかも僕のことも含まれているなんて、驚きだよ」
本当に些末なことを口にしたのに、クリストファーは眩しそうに私を見る。
申し訳ない気持ちになりながら、苦笑していたのだが……。
「……予知夢では、知りたいと思う未来も、見たりできるの?」
突然、真剣な眼差しで尋ねられた。
真面目な顔のクリストファーは、これはこれで凛々しくて、素敵なのである。
マジパラでお馴染みの青年クリストファーより、まだあどけなさがある今のクリストファーは、可愛くてそしてかっこいい。というか推しなのだから、どんな表情でも、素敵に見えるのは当然で。
そんなことを思いながら、軽い気持ちで答えた。
「見たいと願い、見ることができることもあるわ。でもダメな時は、ダメね」
「ではニーナ。今晩、僕とニーナは将来どんな関係なのか、見てみて」
「!!」
そうきたか、と思った。
でも答えは、夢で見るまでもなく分かっている。
明後日で、この楽しい時間は終わる。
クリストファーは王都へ戻り、私は王都から遥か離れたこの北の地で、18歳まで過ごす。
クリストファーはやがて大魔法使いになるし、その後ヒロインとも出会うだろう。ヒロインと結ばれるか、ハートブレイクするか、それは私にも分からない。
ただ、確実なこと、それは……私とは、二度と会うことはない。
そう分かっていたが、クリストファーがあまりにも真剣なので「分かった、試してみる」と答えていた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
少年クリストファーとの甘々な日々。
いかがでしょうか(〃ω〃)
次回は「彼の想い~9年前の春~」を公開します。
それでは引き続きよろしくお願いいたします!!
【おまけ企画の続き】不明の方は2/14の後書きcheck
バレンタインで読者の皆様は
どの男性キャラにチョコを贈りましたか?
今日は各男性キャラからお返しとして
御礼のメッセージが届いています!
1 アンソニー
チョコレート、ありがとう。
僕は失恋したばかりだから……。
君からのチョコレートに
とても励まされたよ。
これからも僕も応援してもらえると
とても嬉しいな。
2 ウィル
チョコ、上手かったよ。
サンキュー。
僕も今はフリーの身だ。
今度の舞踏会
君をエスコートさせてもらおうかな?
3 ウィンスレット辺境伯
まさか君からチョコレートをいただけるとは。
実に光栄です。ありがとう。
ブルンデルクへお越しの際は
ぜひ訪ねてください。
街を案内しますよ。
4 ジェラルド
あなたから頂いたチョコレート。
美味しくいただきました。
一人の騎士として
あなたの気持ちを嬉しく思います。
ありがとうございます。
5 セス
本当は……
ニーナお姉様からのチョコを
期待していたのですが……。
でも……。
よく見るとあなたのその笑顔
ニーナお姉様に似ているかも……。
フフ。
ありがとうございました。
6 ウィルが探す謎の彼
素敵なレディ。
僕のためにチョコレートを選んでくれて
ありがとう。
とても嬉しかったな。
御礼にネモフィラの花を贈るよ。
お楽しみいただけましたか?
一カ月前はまだクリスの正体が判明していませんでした。
そう考えると物語はかなり進みましたが
更新ボリュームがカタツムリですみません!
ちょこちょこサプライズ更新も頑張るので
引き続きのお力添え、何卒よろしくお願いいたします。
ちなみに異世界供物こと
『異世界召喚されたら供物だった件~俺、生き残れる?~』
でもバレンタイン&ホワイトデー企画をしています。
ホワイトデーでクッキーをもらった!
マカロンをもらった!
選ばれたお菓子には、実は意味があった!?
こちらでは、ホワイトデーで選ばれたお菓子により
ヒロインの反応が変わっています。
ちょっとした豆知識にもなるので
良かったら併せてご覧くださいませ~
https://ncode.syosetu.com/n0117hx/