61:まずはあのアマガエルの件から。
クリスが唇をはなした瞬間。
私とクリスの名を呼ぶ、沢山の声が聞こえた。
ウィルとジェラルドと沢山の魔法騎士。
ウィンスレット辺境伯とその部下である魔法騎士と騎士達。
王都から駆け付けてくれた父親とその部下である魔法騎士と騎士達。
さらに。
王家の紋章がついた、真紅のサーコートと王旗が見える。
国王陛下直属の近衛兵だ。
国王陛下の守護霊獣であるハヤブサがここにいるのだ。
迎えに来たのだろう。
しかしなぜハヤブサがここへ来たのか?
その理由は、私のところへ駆け寄った父親から、教えてもらえた。
でもまずは、あのアマガエルの件から。
「ええええええええ! このアマガエルは、セスの守護霊獣なのですか!?」
着慣れない甲冑姿の父親は、苦々しく頷いた。
抱き合っての再会を喜んだ後、黒い森から出るため、私は父親と並んで歩き出していた。
「まったく、セスは実の姉にとんでもない執着を見せ、本当に困っている。しかも守護霊獣の召喚は、3年次に行う儀式なのに、独学でやり遂げた。16歳で守護霊獣の召喚が出来たというのは……将来魔法騎士になれる素質を持っているから、喜ばしいことだ。しかし守護霊獣を召喚したその理由、それはニーナの行動監視のためだったというのだから……」
弟のこじらせ具合には、もう親子揃って頭を抱えるしかない。
だが結果的には、弟のこの行動が、大いに役立つことになる。
弟のセスは、守護霊獣であるアマガエルの召喚に成功すると、王都で探偵を雇った。そして先にブルンデルクへ探偵を送り込み、私の監視を始めさせた。
その間に、私が贈った栞についた香りや皮脂などをアマガエルに覚えさせ、帰還を命じるまで、私を……ストーカーするように命じた。
自身の守護霊獣に、実の姉のストーカー行為を命じる弟なんて、前代未聞だ。
ともかくそのアマガエルを探偵の元へ、魔法で転移させた。
転移させた……。
王都からブルンデルクへ、守護霊獣を転移させる。
これは既に、16歳の使う魔法の域を超えている。
セスは私への想いを拗らせた結果。
とんでもないほど、魔法を極めていた。
そしてブルンデルクにいる探偵の元に転移させられたアマガエルは、私をストーカーするため、黒い森へ放たれる。
探偵は仕事柄、どんなに弱い魔力でも検知するという、魔法の精度を高めている。その結果、アンジェラに連れ去られた私の微弱な魔力を、黒い森で感知していた。
黒い森の噂は、探偵も知っている。
だから本当は、近づきたくなかったのだが……。
セスは探偵に、相当金を積んでいたようだ。
暗くなった黒い森に、探偵はアマガエルを放った。
つまり、私が黒い森から逃げ出そうとしたあの時。
私が見かけた、馬車から降りてきたシルクハットの男性。
あれはセスの雇った探偵だったのだ。
セスは探偵からの報告を聞き、黒い森について調べた。
当然、銀狼の恐ろしい噂も、知ることになる。
しかもアマガエルは、黒い森で明らかに徒歩とは違う速度で移動しているが、黒い森から出ることはない。一体何が起きているのか。
不安を感じたセスは、アンソニーとジェシカに連絡をとった。
丁度その頃、ウィンスレット辺境伯家は、大騒ぎになっていた。
詳しい情報は、アンソニーもジェシカも分からない。だがとにかくコンカドール魔術学園で、事件が起きた。その事件に、ウィルと私も巻き込まれたらしいと。
屋敷には続々と魔法騎士や騎士が集まり、ウィンスレット辺境伯も忙しそうにしている。そしてアンソニーとジェシカは、ウィンスレット辺境伯と話そうとしたが、彼はすぐに部下を連れ、家を出て行ってしまった。
しかも「部屋から絶対に出ないように」と言われ、学園からも「明日は休校」と連絡が入っている。
アンソニーとジェシカが、ウィンスレット辺境伯と話せたのは、翌日のお昼過ぎだった。
一方の弟のセスは……。
翌朝になっても、アンソニーとジェシカが、ウィンスレット辺境伯と話せていないことに、業を煮やした。そこで父親に、直談判しようとした。
しかし父親は、既に王家とウィンスレット辺境伯から連絡を受け、ブルンデルクへ向け出発していた。弟が私に執着していることを、父親はもちろん知っている。よって余計な心配を、セスがしないようにと考えた。つまり父親は、セスにブルンデルクへ向かっていることを、黙っていた。私が行方不明になっている件も、あえて伏せていた。
父親が何処に行ったのか、セスは母親に泣いて問いただす。母親は根負けし、事の次第を明かした。
ウィルは戦闘を通じ、アンジェラの正体に気づいていた。ギリス王国の気まぐれの魔女――ギリス王国の奇跡の子であると。
すぐさまウィルは、アンジェラについて情報収集を行った。
ウィルと言えば、クリスに関する情報を集めるのに、見事な手腕を発揮している。その類まれなリサーチ力で、アンジェラが過去におかした事件の数々についても、わずかな時間で調べ上げた。そしてそのアンジェラに、私が攫われたと、私の父親に話していた。父親は当然、このことを母親に話している。
母親から話を聞き、すべてを知ったセスは……。
私が死の危機にあるのではと思った。
そこで手紙の配達専用の使い魔を使役し、父親宛に手紙を送った。
使い魔は、移動中の父親に、すぐ手紙を届けた。
父親はセスの手紙を見て驚きつつも、私の居場所が分かったということで、すぐ様ウィンスレット辺境伯と連絡をとる。
こうしてウィンスレット辺境伯とウィルは、私が黒い森にいると、知ることになった。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
ストーカーセスが大活躍でした!
次回は「まさにSSランク」を公開します。
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