60:人智を超えている
気になる疑問をクリスに尋ねる。
「ねえ、クリス。同時進行、って何をしていたの? 転移魔法で移動していた、アンジェラからの求婚という名の追跡や攻撃をかわしていた、私の中のクリスに関する記憶を隠そうした。これだけでもすごいのに、まだ他に何かをしていたの……?」
「はは。改めて指摘されると、僕は気が多いね。元来、男性は、同時進行が苦手なはずなのに。そうだね。今回この黒い森で、四聖獣を召喚するために必要なクリスタルが手に入ったのは、偶然ではない。あれは同時進行の中で、僕が隠したものなんだ」
改めて思う。
大魔法使いってすごい。人智を超えていると。
いや、当時、まだ18歳だよね……?
18歳でそんなことを同時進行で!?
「僕のあの時の予定は、三つあった。順番に話すよ。幼い頃から僕は、この国のあちこちへ出かけ、いろいろと情報を調べていた。もちろんこの国について詳しく知るという目的もある。でも実は四聖獣を召喚するのに必要なクリスタルを、探していた。王家では、四聖獣を召喚するのに必要なクリスタルを保有している、ということになっていたけど、実は違う。
ざっと400年前ぐらいかな。四聖獣が、メリア魔法国に召喚されたのは。その時は、4人の魔力の強い者により、召喚されたと伝えられている。でも召喚後、王都へクリスタルを戻さなかった。今となってはなぜ戻さなかったのかは、不明だけど」
クリスが、困ったことだというように、首をすくめる。
こんな表情のクリスを見るのも初めてのことで、自然と胸はキュンと高鳴る。
そしてサラリと、四聖獣は四人の魔力の強い者により召喚されたとクリスは言ったが。
そう、そうなのだ。
四聖獣は一体召喚するだけでも、相当な魔力を消費する。
一人で四聖獣全てを召喚するなんて……クリスだからできた偉業だ。
「僕は国王陛下にクリスタルを4つ揃え、献上するつもりでいた。それは物心ついた時から、そうしようと思っていた。でもなかなか見つからず、苦労していた。ところがとある人物と出会ってね。3つのクリスタルを見つけ出すことに、成功した。さらに最後の一つ、雷獣を召喚するために必要な、白のクリスタルの欠片の場所も判明した。つまり白のクリスタルは、ここ黒い森のこの場所、ネモフィラの花畑の中に隠されていた。
ニーナと再会し、プロポーズする。そして黒い森から、白のクリスタルの欠片を回収し、王都に戻る。4つ揃ったクリスタルを国王陛下に献上し、ニーナとの婚約を認めてもらい、大魔法使いの任を拝する。この三つが僕の予定だった。それはアンジェラの出現で、変更を余儀なくされたけどね」
またもサラリと言っているけれど。
当時、18歳のクリスは、一人でそんなことをやり遂げようとしていたの!?
私は11月で18歳になるが、とてもそんな偉業を打ち立てるなんて、無理だ。
「本当は既に見つけていた3つのクリスタルは、王都へ置いておくべきだった。でもね、クリスタルは互いに共鳴する。手元にクリスタルがあると、どこかに隠されているクリスタルが、見つけやすくなる。だからつい、持ち歩いてしまった……。結果としては役立ってくれたけれど。でもあの時は……少し焦ったね。アンジェラにクリスタルのことがバレたら大変だ。悪用されかねない。だから転移しながら、それぞれを隠していった。それはもう最大限の魔力を使い、絶対にアンジェラにバレないようにしながらね。その結果、アンジェラに追い込まれた時は、同化魔法を使い、解除を放棄し、解術を設定したら、魔力切れになる状態へ追い込まれてしまった」
クリスって完璧そうに見えて、ちょっと抜けている。
ゲームでは、パーフェクトヒューマンとして描かれていたのに。
でも、どこか抜けてくれていることに、安心できるのも事実。
本当に完璧だと、近寄りがたく思ってしまうだろうから。
「銀狼の姿になって、体を休めた後、魔力は回復しなかったの?」
「回復はしたけどね。ただ、銀狼は守護霊獣。ストックできる魔力量も僕らとは違う。その上、僕と同化することで、通常とは違う状態だったから……。とても普段使えるような魔力を、使える状況ではなかった。僕も銀狼も」
「だから頭の中で魔法の詠唱をできても、魔法を使うこともしなかったわけね」
「そうだね。何度もニーナを助けたくなったけど、何もできず、辛かったよ」
そう言ったクリスが、私をぎゅっと抱きしめた。
「もう、そろそろ時間かな。みんなが来た後は……。しばらくニーナとは、二人きりになる時間は持てないかもしれない。だから……」
甘く囁いたクリスは、私の顎をクイと持ち上げると。
優しく唇を重ねた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「まずはあのアマガエルの件から。」を公開します。
実はある人物が大活躍していましたΣ( ºωº )
それでは引き続きよろしくお願いいたします!!
ブックマーク登録いただいた読者様。
いいね!をくださった読者様。
応援、ありがとうございますo(⁎˃ᴗ˂⁎)o
【御礼】
誤字脱字報告してくださった読者様。
ありがとうございます!


























































