6:逃げ場がない‼
夕食の席では、ウィリアム第三王子の話題で持ちきりだった。
どうやら辺境伯家であるウィンスレット家にも連絡なく、いきなりウィリアムがやってきたようである。しかも滞在しているのは、筆頭公爵家の避暑のための別荘。
ブルンデルクは夏でも比較的湿度が低く、気温だけ見るとそれなりだが、汗だくになることはない。だから避暑地としては人気で、王都に暮らす貴族の中で、この地に別荘を持っている者は多い。
とはいえ、昔は敵国だったギリス王国と国境を接する場所なので、王族の別荘はさすがにない。だからこそ、ディクソン筆頭公爵家が所有する別荘に、ウィリアムは滞在しているのだろう。
ちなみに我がノヴァ家は、ブルンデルクに別荘は所有していない。
なぜならウィンスレット辺境伯がいるからだ。
ウィンスレット辺境伯家の邸宅がある敷地は、正直、ノヴァ家よりうんと広い。王都は地価が高いというのもある。その点を差し引いても、ウィンスレット辺境伯家の敷地は桁違いだと思う。
北方の防衛拠点となっており、過去の功績もあり、ウィンスレット辺境伯家に与えられている権限は大きく、領地もとんでもなく広い。当然、屋敷の敷地も広大。敷地内には、母屋の他に離れが四つもある。
離れという言い方になっているが、母屋と遜色のない邸宅で、現在、利用されているのは一つだけ。将来的にジェシカの双子の兄であるアンソニーが結婚したら、離れの一つが自宅として与えられるのだろう。
そんなことを思いながら、私はウィンスレット辺境伯をチラリと見る。
ウィンスレット辺境伯は戦闘の最前線に立ったこともある猛者で、その姿は威風堂々として風格がある。見るからにマッチョで、メリア魔法国の国旗と同じ、ブルーを基調に白いラインが襟や袖や裾に施された隊服を身に着けており、これぞザ・軍人という装いだ。
ダークシルバーの髪とグレーの瞳も貫禄にあふれている。
そのウィンスレット辺境伯がおもむろに口を開いた。
「ディクソン公爵家が所有する別荘はそれなりのものだ。もちろん、悪くはない。だが、王族の方が滞在するには物足りない。だから我が家の離れの一つに滞在しないか、打診をした。すると『ぜひに』と返信があってね。明日、皆さまがやってくることになった。明日の夜はウィリアム第三王子との夕食会。三日後に晩餐会、五日後に舞踏会を開催することになった。ジェシカ、ニーナ、失礼がないよう、一番上質なドレスと宝石を身に着け、出席するようにするのだぞ」
ウィンスレット辺境伯からそう言われた時、私はナイフとフォークを手から落としそうになった。
恐るべし、ゲームの抑止力。
まさかフラグが折れる1年を切ったこの期に及んで、こんな攻勢をかけてくるとは……。
しかも、逃げ場がない!!
王都の我が家に戻れば、ユーリアと王太子が待っている。まさに飛んで火にいる夏の虫になってしまう。かといってウィンスレット辺境伯家にいても、ウィリアムが私を王都へ連れ帰ろうと画策するのだろう。
ど、どうしたらいい?
ウィンスレット辺境伯家は、安全地帯と思っていたのに。
この話を聞いた後、食事はろくに喉を通らなかった。
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次回は「王子様のようなもう一人のいとこ」を公開します。
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