59:被害者から加害者へ
「どうしてそんな発想になってしまったのか。それは本人のみぞ知るところだけど、アンジェラは、この世界で一番強い魔力の持ち主と結婚し、その子供を産めば、すべて終わると考えるようになった。以来、いろいろな国を渡り歩き、魔力の強い男性を見つけると、品定めをするようになる。自分の基準にあわない男性は消し、基準にあっても満足できないと消す。そんなことを繰り返していた」
被害者だったアンジェラは、気づけば加害者になっていた。思わずぶるっと震えが走る。
クリスが心配そうに、私を抱きしめた。
「そんなアンジェラに、あの花畑で会ってしまった。アンジェラは、花畑に僕が残していた魔力の痕跡に気づいていた。そして僕の魔力の強さにも、気づいていた。だから待ち伏せしていた。ある意味、あの花畑は学園の敷地に取り囲まれて良かったと思う。もしそうでなければ、ニーナがアンジェラに捕らえられた可能性があるから。……結果的に捕らえられてしまったけどね……」
クリスは申し訳なさそうに私を見た。
「大丈夫よ、クリス。それより続きを聞かせて」
その瞬間、またも頬にキスをされ、全身が熱くなり、意識を失いそうになる。
クリスってキス魔……!?
「ただ、あの花畑で会った時、アンジェラは変身魔法を使い、教師のふりをしていた。そして僕を卒業生だと勘違いしたフリをして、話しかけてきた。僕自身、忍び込んでいる立場だったから、どこか気後れしている部分もあったのだろう。アンジェラだと気付かず、話に付き合ってしまった。様子がおかしいと思った時には、記憶をのぞかれていた」
「記憶をのぞく!?」
「『奇跡の子』同士には『共鳴』というテレパシーみたいなものがあり、なんというのだろう。お互いの精神領域に踏み入ることができる。もちろんそれは簡単にできることではない。お互いに信頼した者同士で、できることだ。僕はあの時、アンジェラを教師だと思い、気を許していたから、うっかり入り込まれて……。その瞬間、異変に気づき、奇しくも僕もアンジェラの過去の記憶を見ることになった。さっき聞かせたのが、そのアンジェラの記憶だ」
そう言うとクリスは、私の頬を撫でた。
キスではなく、頬に触れただけなのに。
まるでキスをされたかのように、胸が高鳴ってしまう。
「アンジェラがとんでもない思考の持ち主であると分かった瞬間、ニーナに危険が及ぶと思った。僕の精神領域への侵入は、すぐにシャットアウトできた。それにその後のアンジェラとの会話から、ニーナに関する記憶は、見られていないと分かった。なにせ『婚約者もいないのでしょう。恋も愛も何も知らない。ぜーんぶあたしが教えてあげるから♡』なんて言っていたからね」
まさかクリスがアンジェラの真似をするとは思わず、つい笑ってしまう。
私の笑顔を見たクリスは「ニーナの笑顔は本当に可愛い」と、まるで銀狼のように、自身の鼻で私の鼻に触れる。その瞬間、クリスとの距離がとんでもなく近くなり……。心臓がドクンと大きく脈打つ。わ、私の心臓、大丈夫だろうか……!?
「ニーナは、僕と約束した花畑の場所が分からなくて、あちこち探し回っているかもしれないと思った。絶対にニーナを、アンジェラの目に触れさせてはいけない。なにせアンジェラは、僕を手に入れたいと思っている。ニーナのことを知れば、何をするか分からない。だから僕は転移魔法でアンジェラから逃げるのと同時に、ニーナから遠ざけるようにした。その転移を続けながら、魔法を使い、ニーナから僕の記憶を隠すことにした。万が一に備えてね」
「離れている相手に、魔法をかけることができるのね」
「うん。でもそれは簡単なことではない。例えば僕が王都からニーナに魔法をかけようとしたら……。できなくはないが、少し厳しいかな。距離がかなりあるからね。でもあの時は僕もニーナもブルンデルクの地にいたから。その程度の距離なら、僕の魔力であれば、魔法の行使は可能だ。
ただ、あの時は転移魔法で移動しながらだった。それでもニーナの中の僕の記憶は、隠していくことができたと思う。でもいろいろ同時進行だったからね。アンジェラに追い込まれてしまった。そしてニーナからすべての僕に関する記憶を隠し切れず、中途半端に記憶が表出した状態になってしまった」
なるほど。だから何かを約束したという、中途半端な記憶が残ることになったのね。
謎が一つ、また解明したが。
気になることはまだまだある。
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