57:オリエンタル美女の選択
「魔法をかけて」
「何……?」
「クリス、あなたが自分にかけていた魔法よ。まずは私の守護霊獣を転移させて。あなたのかけた防御魔法の外側にいる。あたしは黒猫と同化する。そして解除を放棄するという魔法を行使するわ。解術方法は『あたしのことを損得なしで心から愛した者からのキス』にする。それで戻して頂戴。あたしの素敵な母国、ギリス王国へ」
こんなことを言い出すとは、さすがに思わなかったのだろう。
クリスは驚き、ため息をついた。
私も驚いたが、この突拍子もない提案の裏には、アンジェラの切実な思いが隠されている気がした。
だから思わず。
「アンジェラの言う通りにしてあげても、いいのかもしれない」
思わず独り言のようにそう言ってしまった。するとクリスは……。
「ニーナは本当に優しいね。アンジェラのせいで沢山怖い思いをしたのに」
「でもクリスに会うことができたから」
「分かったよ。ニーナがそう望むなら」
クリスはぎゅっと私を抱きしめる。そして。
「分かった。アンジェラ。君の言う方法に応じよう」
そう答えたクリスは、いとも簡単にキットゥを転移させた。するとアンジェラは、同化魔法を自身にかけた。美女の姿が消え、キットゥが花畑にポツンと座っている。さらに解除を放棄すると……。解術方法は『アンジェラのことを損得なしで心から愛した者からのキス』という魔法を、クリスがアンジェラにかけた。この魔法をかけるのに、かなり時間がかかっているので、相当難易度が高い魔法であることはよく分かった。
キットゥと同化したアンジェラには、拘束魔法をかけるとともに、そのまま眠りの魔法もかけられた。『奇跡の子』は頭で念じるだけでも魔法を使えてしまうゆえの処置だ。
それが終わると、クリスは四聖獣を帰還させ、さらに展開していた防御魔法を解除する。そして自身の魔力へと変換していた様々なエネルギーを、元へと戻していく。
そのまま自分の魔力にもできるのに、そうしないところがクリスらしいと思えた。
これですべて終わったのか……。
辺りはすっかり暗くなり、空には美しい星空が広がり、月も綺麗に見えている。
「ニーナ、ウィルやジェラルド、王都からの応援、ウィンスレット辺境伯の部隊、君の父親を含め、みんなここへ向かってきてくれている。でもここを見つけるまでには、まだ少し時間がかかる。だから話をしよう」
そう言うとクリスは、魔法で宙に炎の塊を浮かべた。
炎の塊は、まるで明かりのようであり、そして温かさをもたらしてくれる。
それでも、まだ冷える季節だったので……。
「銀狼みたいに、ニーナが冷えないよう、寄り添いたい。こっちへ来て」
ライラック色の瞳を輝かせ、微笑まれると「ノー」なんて言えない。
もしかしてクリスが発する言葉は、すべてが魔法なのではないかと思えてしまうぐらいだ。
ネモフィラの花畑に腰を下ろしたクリスは、腕の中に私を抱き寄せ、自身のローブでさらに私を包み込む。透明感のある清楚な香りが鼻孔をくすぐり、その体温、力強さを感じ、ドキドキが止まらなくなる。もう推し云々の状態はとっくに超越し、目の前に現実として存在するクリスに、メロメロになっていた。
足元には守護霊獣である銀狼が丸くなり、その頭の上にハヤブサが止まり、目を閉じている。アマガエルは辺りをジャンプして、楽しそうに鳴いている。少し離れた場所で、キットゥと同化したアンジェラも眠っていた。
「さて。ニーナはいろいろ知りたいことでいっぱいだろう。でも疑問の半分の答えは、君の脳の中にある」
「え、どういうこと!?」
驚いてクリスの顔を見上げる。
見上げた瞬間に、あの整った顔が目に飛び込んできて、軽い眩暈を覚える。
クリスの顔をまともに見られる日なんて、やってくるのだろうか……?
「僕はニーナの記憶を消したわけではない。隠しただけだよ」
ウィンクしてクリスが微笑み、心臓が止まりそうになった。
そんな私の頭を優しく撫でると、クリスは3年前のあの日のことを話し出した。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「いけないことをした罰が当たったのかな」を公開します。
明日もプチサプライズ!?
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