54:怒り心頭
その時。
「クリス、最弱女―っ」
とんでもない叫び声がした。
声の方を見ようとすると。
「見ない方がいい、ニーナ」
耳元で囁き声が聞こえ、同時にクリスが私の目を手で覆った。そして次の瞬間。
「いったい、どういうこと!? それに何なのよ、この辺り一帯の防御魔法は! 本気であたしを殺す気なの!? 十の陣形で十の防御魔法を展開するなんて、どこにそんな魔力があるのよ! それになんでそんな最弱……な、どうして!? どうして、魔法を解除したのよ!?」
アンジェラの金切り声が、聞こえてくる。
その声、口調から、相当怒っていることが伝わってくる。
ただ、そこまで怒るのも……納得せざるを得ない。
だって……。
クリスは防御魔法を10個展開し、しかもそれがすべて十の陣形だったと、アンジェラは指摘している。それは……確かに驚くし、怒るはずだ。
何よりクリスが展開している防御魔法は……。
流星群のような、防御といいつつ、攻撃型に近いものが、多いような気がする。
そうなると、今のアンジェラの姿は……。
「アンジェラ、ここには僕の大切なレディがいる。少しは身だしなみを整えてもらえないかな。僕も目のやり場に困る」
「……ちっ」
舌打ちしたアンジェラは、無言になる。
やはり。
アンジェラは瞬時に回復魔法を使える。
だがクリスの展開する攻撃型の防御魔法は……。
間違いなく、とんでもない威力。
いくら瞬時に魔法を使えるといっても、回復が追いついていないのだろう。
クリスが目隠ししてくれて良かった。
「もう大丈夫かな。ニーナ、手を離すよ」
頷くとゆっくり、クリスが私の目から手を離した。
すると。
まだまだ遥か遠く、私が展開した防御魔法の後方に、アンジェラの姿が見える。
あの日と同じ、アラビアンナイトを思わせる衣装で、相変わらず妖艶な姿なのだが。目が血走り、口調からしても、まったく余裕がないように感じる。当然だが、守護霊獣の黒猫の姿はない。
キットゥは、クリスが展開する防御魔法を越えることはできなかったようだ。
というか、私がクリス……大魔法使いに見とれている間に。
四聖獣を召喚しただけでなく、防御魔法をそんなにも展開していたなんて……。
そのスピード感、魔力量に、改めて驚いてしまう。
「クリス、どういうことなの!? あれだけ何度試しても解術できなかったのに。どうやって解術したのよ!? それにその女、あなたが魔力を抑えこむ魔法をかけていたのでしょう? なぜそれを解除したの!? その女のこと、嫌っていたのではないの!?」
クリスは私の手をとると、甲にキスを落としてから、口を開く。
まさか今この場で手の甲へキスをされるとは思わず、顔が赤くなるし、心臓も落ち着かない。本当なら腰を抜かしそうだが、目の前にアンジェラがいるから、なんとか腰砕けを回避できている。
「まったくの逆だよ。このレディこそが、僕が生涯愛すると決めた、たった一人の相手だ。彼女のキスで、僕の同化魔法は解術された。同時にこのレディにかけた僕の魔法も解除された。アンジェラ、君には感謝するよ。僕は君の魔法で、この森から出られなかった。だから彼女ともなかなか再会できず、3年の月日が流れてしまったが、君が連れて来てくれた」
アンジェラの顔が、みるみる間に青ざめていくのが分かる。
「ふざけないで!」
拳を作り、歩き出したその瞬間。
私が展開する防御魔法に、アンジェラが触れた。
「あ」
思わず私が声を漏らすのと同時に、アンジェラの体がぶ厚い氷に包まれた。
目を見開き、口を開け、完全に凍りついている。
これでは魔法の詠唱もできないはずだ。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「あたしを選びなさい!」を公開します。
ハヤブサは実は……。
それでは明日もよろしくお願いいたします。
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