53:胸に熱いものがこみあげ、言葉にならない。
その言葉で、私は自分の置かれている状況を改めて認識する。
太陽は没した。
今頃、縦穴に向かったオリエンタル美女は……アンジェラは、私の肉片どころか、クリスの姿がないことに、大激怒しているに違いない。
その瞬間。
私の推しフィルターは、機能を停止した。
「クリス……そう呼んでいいの?」
「もちろん。クリストファーと呼びたければ、そう呼んでもらってもいい」
今、フィルターを停止したばかりなのに!!
クリストファーと呼んでいい、そう言われた途端。
マジパラでのあんなシーンやこんなシーンが思い出され、心臓のドキドキが止まらなくなった。
というか……。
まじまじと顔を見てしまい、眩しいほどの美貌に、思わず目を逸らす。
「どうしたの、ニーナ……? そんなに僕の顔は、君の好みではなかった!?」
クリスが悲しそうな声で尋ねる。
「!? そ、そんな、好みではないなんて……。そんなこと、絶対にありえません!」
断じてあり得ない。
これほどの容姿端麗な男性、見たことがない。
間違いなく、この世の至宝、最高傑作!
何より私は、王太子より大魔法使い派、あなたこそが私の推しなのですから!!
「良かった……。この姿に戻れた。だからニーナは、心から僕を好きなのだと、確信できたけど……。もしかすると本気で銀狼を、好きになってしまったのかと思ったよ」
困ったような安堵したような、こんな表情のクリストファーは、初めて見た。
マジパラのクリストファーは360度、どこから見ても隙のない完璧さだったから……。
「ニーナ……。僕の記憶は、ほとんどなかっただろうに。ここで過ごした2日間で、僕のことを再び好きになってくれて、ありがとう」
そう告げるクリスの瞳には、涙が浮かんでいる。
「クリス……」
胸に熱いものがこみあげ、言葉にならない。
「ニーナ」
クリスの唇が、ゆっくり私の唇に重なる。
まるで羽毛に触れたかのように、ふんわりとして、柔らかくて温かい。
推しと……キスしました、私。
まるでラノベのようなタイトルが頭に浮かぶ。
その時だった。
断末魔のような叫び声が聞こえ、我に返る。
さっき現状認識したばかりなのに。
目の前の出来事があまりにも非現実的過ぎて、つい忘れてしまうが。
オリエンタル美女の……アンジェラの脅威は迫っている。
「クリス、アンジェラはとても強い。ウィルやジェラルドだって」
「ニーナ」
クリスの細く長い指が、私の唇に触れる。
それだけでもう、心臓が止まりそうになる。
「3年前のあの日は、アンジェラに君を人質にとられそうになった。それを避けるため、僕はこの黒い森に閉じ込められる事態になった。でも、今は違う。ごめんよ、ニーナ。君の魔力を抑えた件は、後で説明する。でも魔力を抑えていた魔法、それはもう解除した。だから君は、かつてのような強い魔法を発動できる。あのアンジェラにも対抗できる魔力を、ニーナもまた持っている。だから僕は安心して、アンジェラと戦える」
再びの断末魔に、アンジェラが近づいていると感じた。
「本当に、私はそんなに強力な魔法を使えるの……?」
「もちろん」
そう言うとクリスは、私の背後に回った。そして右腕で腰を抱き寄せ、私の左手を掴むと……。
「ニーナ、僕が言う防御魔法を復唱して」
「はい」
耳元で囁かれると、またも力が抜けそうになる。
だがアンジェラの恐ろしい言動を頭に思い浮かべ、甘い気持ちを吹き飛ばす。
「防御魔法展開 永久結氷 <七の陣形>」
「な、七の陣形!?」
「大丈夫だよ、ニーナならできるから」
甘い気持ちは、吹き飛んだはずなのに。
魔法のような甘い一言に、もう心がとろけそうになる。
「さあ、言ってみて、ニーナ」
あああああ、呪文を詠唱するように言われただけなのに!!
こんなに甘々で囁かれたら……。
だがまたも断末魔が聞こえ、私は我に返り、呪文の詠唱を行う。
「防御魔法展開 永久結氷 <七の陣形>」
クリスの展開する円陣から、さらに遠く離れた場所で、白い輝きを感知する。自分の魔力が辺り一帯に広がったことを、感覚として認識できた。
「本当に……?」
信じられなかった。とんでもない広範囲で、防御魔法を展開できている。
「ね、ニーナ。できただろう。もうどんな魔法も大丈夫だから」
振りかえってクリスを見ようとした瞬間。
「ゲロゲロゲロ」
アマガエルが私の肩に飛び乗り、ハヤブサがクリスの肩にのった。
銀狼が私とクリスの間に陣取った。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
3話に渡る推しとの甘いエピソード。
お楽しみいただけたでしょうか!?
次回は「怒り心頭」を公開します。
すご~く怒っているあの方が登場((((;゜Д゜))))
【お知らせ】新連載がスタート!
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
https://ncode.syosetu.com/n8030ib/
悪役令嬢だと気づきました。
でも遅かったようです。
断罪は既に終了、フラグ回避行動もできず
攻略対象とも何もなく、ただただ詰んだ後でした――。
★ヒロインから目が離せない!
まさか・どうして・なんでの連続に
ヒロインが立ち向かいます!
★ドキッと描写多め
こんな相手にときめいている場合じゃない!
それなのにドキドキが止まりません!!
★もちろん最後は……
安心してください。
最後にはハッピーエンドが待っています!
★もう待たせません!
投稿作業は不得手筆者が
必死の一日2回更新に挑戦中!
既に10話まで公開されています。
この後、お昼12時にも更新があります。
ちなみに週末は増量更新!
ぜひ、ご覧いただけると幸いですヾ(≧▽≦)ノ
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応援、ありがとうございますo(⁎˃ᴗ˂⁎)o

























































