48:唯一勝てるとしたら、それは……
木の実で水分補給できたので、声も出そうだ。
「クリス。お願い。聞いて。あなたがここに私を連れてきた理由。それが分かった」
うん。大丈夫。ちゃんと声も出る。
「ここは黒い森。普通だったらこんな大地の裂け目の中に人がいるなんて分からない。でも美女は私を見つけ出す。喰い殺されていると思った私が、こんな場所にいると知ったら、もう怒り心頭ですぐに殺すと思う。私への怒りで隙ができた美女に、反撃をするつもりなのでしょう? 返り討ちにあうかもしれないのに」
木の実で喉を潤し、もう一度口を開く。
「その方法だと、クリスと私、お互いの最後の瞬間が別々になっちゃう。そんなのはイヤだよ。もしクリスも今日ですべてを終わらせるつもりだとしても、バラバラは止めよう。最期の時ぐらい、一緒にいよう。離れ離れの時間はもう十分味わったでしょう? お願い、戻ってきて。二人でネモフィラの咲く場所へ行こう」
「ゲロゲロゲロ」
銀狼からの返事はなく、代わりアマガエルが返事をして、私の方へジャンプした。
その体を手の平に受け止めた時。
うん!? なんだか体が湿っている?
もしやアマガエル、お漏らしでもした?
そう思い、アマガエルが来た方を見ると……。
地面にアマガエルの足跡が見える。
そしてその足跡を辿ると……。
嘘、どうして!?
岩壁の隙間から、チョロチョロと水が流れ出してきている。
カランと石が転がる音がした瞬間。
岩壁から水が、勢いよく吹き出してきた。
「嘘、鉄砲水!?」
私はアマガエルをポケットにしまい、岩壁を伝う。
でもロッククライミングなんてやったことがない上に、足元は革靴だから……。
む、無理。
登れない。
噴出する水の勢いが増し、岩壁が崩れつつある。
これって溺死に加え、崩れる岩に当たって死ぬ危険もあるということ!?
いやだ、死にたくない!
その時だった。
遠吠えが聞こえたと思ったら、銀狼が降りて来てくれた。
無我夢中でその背に飛び乗り、ガッツリと両手両足でその体にしがみついた。
銀狼は物凄い勢いで岩壁を伝い、外へ飛び出す。
さらにそのまま、岩肌を駆け降り、その後は一目散に森を駆け抜け……。
ようやく銀狼が立ち止まり、その背から降りた時。
駆けていたのは銀狼なのに、私まで息が上がっていた。
その瞬間に実感した。
今日の夕方には死ぬのだと涙に暮れていたくせに。
いざ死ぬかもしれない状況に追い込まれたら。
こんなにも必死で生きたいと思っていた。
勝ち目なんてない。
物理的に勝つなんて無理。
そうだとしても。
心では負けない。
あのオリエンタル美女に唯一勝てるとしたら、それは心だ。
「クリス。前言撤回。私の心は、一度は折れてしまった。でも、心なんて自分の気持ち次第でどうとでもなる。だから負けない。どんな結果になろうと、心だけは負けない。みじめでも情けなくても構わない。最後の最後まで悪あがきをする。だって私はヒロインじゃない。悪役なんだもん。悪役令嬢なんだから。今さらカッコつけても仕方ない」
最後の方は何を言っているか、クリスはきっと理解できないだろう。でも、もうそんなの関係ない。諦めないと決めたのだから。心だけは負けないと決めのだから。
銀狼に抱きついた時。
「キッ、キッ、キッ」
この声はハヤブサ!
声が聞こえる方角を見ると……。
降下するハヤブサの眼前に広がるのは、まるで碧い絨毯。
ネモフィラの花畑だった。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
ニーナの心に強さが戻ってきました(*゜∇゜*)
次回は「物理的にも勝てるかもしれない!」を公開します。
それでは明日もよろしくお願いいたします。


























































