47:ダメ。それだけはダメ。
おかしい。
そう気づいた時には、もう遅かった。
銀狼が私を連れて行ったのは、大地の裂け目のような場所。
大地に出来たその裂け目は、まるで谷底のようだ。
頭上遥か上に青空が細く見え、出入り口はどう考えてもそこにしかないように思える。
「ねえ、どうして? こんなところにネモフィラの花は、咲いていないよね?」
左右に広がる岩壁は、縦穴と同じ。
谷底とも言える地面には、雑草の一本もはえていない。
そして私が尋ねても、銀狼は何も答えない。
「クリス、答えて、お願い。ここはどこなの? どうしてここに来たの?」
すると銀狼が自身の体を思いっきり岩壁にぶつけた。
「きゃあ」
私は思わず手を離してしまい、地面に転がりそうになった。だがその体は銀狼の脚に一度落ち、そして谷底に緩やかに転がった。
「!!」
顔を上げると、銀狼は岩壁を器用に伝い、遥か頭上の出入り口の方へとのぼっていく。
「待って、クリス! 置いて行かないで!」
何度も叫ぶが銀狼は岩壁をのぼりきり、空に吸い込まれるように、裂け目から姿を消してしまった。
「どうして……」
しばらくは叫び続けていたが、声も枯れ、呼吸が辛くなった。
仕方なく私は、その場に座りこんだ。
「ゲロゲロゲロ」
ポケットからアマガエルを出すと……。
瞼が閉じかけていて、本当に可愛らしい顔をしている。
思わず頬が緩んだ。
葉っぱにくるんでいた木の実を取り出し、アマガエルと一緒に口に運んだ。
甘酸っぱい実を口にいれながら、どうして銀狼が私をここに連れてきたのか、その理由を考えることにした。
ヒドイことを言ったお仕置きでここに閉じ込めた。
……それはないな。
ウィルがここにいたら、絶対違うと言うはず。
そうなると……。
夕方、美女が来ることは分かっている。
だから私を隠した。
でも銀狼は、黒い森から外へ出られない。
ということは、ここも黒い森の中のどこかだ。
だったら美女は、すぐに私を見つけるだろう。
もしかして……。
美女がここを見つけることは分かっている。
でもここの地形を熟知している銀狼は、最後の反撃を試みる……とか?
例えばあの裂け目からこの中を美女が覗き込んだ瞬間。
首に噛みつく、とか。
でもそんなことしても無駄だ。
美女には勝てない。
銀狼だって返り討ちにされる。
……まさか。
もっとも嫌な想像をしてしまう。
自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえてくる。
どうせ、私は殺される。
反撃しても、無駄と分かっている。
でも、攻撃をすれば、美女は……。
クリスは自身が美女に殺されるのを覚悟の上で、最後の反撃をするつもり……?
ダメ。
それだけはダメ。
クリスにはまだ生き残れる可能性があるのだから。
止めないと、それはダメだと、クリスに伝えないといけない。
頭ではそう理解しているのだが。
信じられない速度で、心臓が鼓動している。
息をするのが辛くなる。
止めないと。
止めないといけない。
脳裏に、美女に倒される銀狼の姿が浮かぶ。
もう心臓は破裂してしまいそうだ。
頭の芯がジンジンと痺れるように感じる。
まさに頭に血がのぼっているような状態。
落ち着いて、落ち着かないと。
全身が震え、何も考えられなくなる。
岩壁をつかみ、深呼吸を繰り返す。
ようやく。
ようやく。
呼吸の乱れが収まった。
まだ心臓はドキドキしている。
でもかなり落ち着いてきている。
ゆっくり、深呼吸を繰り返す。
もしも。
もしもクリスが。
自身の命をかえりみず、反撃を考えているなら。
この裂け目の近くに、必ず潜んでいるはずだ。
ウルフの聴覚はとても優れていると聞いている。
だったら……。
私は地面にアマガエルをおろすと、クリスに語り掛けることにした。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「唯一勝てるとしたら、それは……」を公開します。
変化の兆しが……!
それでは明日もよろしくお願いいたします。
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