44:あああ、生き返る……。
「これは……。黒い森の背後にある山は活火山だったのね」
銀狼が連れて行ってくれた縦穴から下をのぞくと、遥か地底に溶岩がしぶきをあげ、ぐつぐつと煮えたぎるように燃えている。
赤く眩しく、もし太陽を肉眼で見ることができたら、こんな感じなのかな、と思ったりした。
縦穴から立ち上る蒸気は温かいが、背後に吹く風は冷たくなっている。
後ろを振り返ると、そろそろ日没だった。
時間が刻々と過ぎて行く。
その事実に心臓がギュッと締め付けられる。
「あっ」
足元にあった何かを蹴っ飛ばしたと思ったら。
鮮やかな赤い輝きを放つクリスタルの欠片だった。
まるで今日は黒い森を探検しながら、宝探しをしているようだ。
せっかくなのでと拾い、ポケットにしまう。
「くうん、くうん」
銀狼が私の背中を押す。
ハヤブサが羽ばたき、前方へ飛んでいく。
「もしかして」
湯気が見える。
まさかと思うが、ここには溶岩が流れているわけで。
期待を膨らませ、緩やかな坂道を下っていくと……。
間違いない、温泉だ!
これ、私が入っても大丈夫な温度かな?
ぽちゃんと銀狼が自身の前足をお湯の中に入れて私を見る。
私も手をそっとお湯に近づける。
指先で触れると……。
いける。これなら入れる!
タオルはないけど、風魔法が使えれば。
試しに使えるか確認してみる。
「風魔法発動。温風」
程よい強さの温風が全身を包み込む。
やったー! これで温泉に入れる。
銀狼を見ると、くるりと私に背を向け、寝そべった。
「……!」
これから服を脱ぐ私のために……。
クリスは……紳士だな。
胸がキュンとした。
「君は茹で上がっちゃうから、絶対に入ったらダメだよ」
ポケットから出したアマガエルを、銀狼の背中に乗せる。
ハヤブサは温泉の中にある岩に止まり、なんだか湯気を浴び、サウナを楽しんでいるかのようだ。
私も手早く制服を脱ぎ、ゆっくり足から温泉に入る。
髪はブラウスのリボンでポニーテールにしていた。
あああ、生き返る……。
温泉の温かさに涙が出そうになる。
陽はすっかり暮れ、夜空には美しい星が瞬いている。
あ、月も今日は見えている。
綺麗だな……。静かだな……。
それにしても。
マジパラの世界で温泉に入れるなんて。
ゲームの中で温泉なんて登場していないから、ビックリだ。
そう、ここ、乙女ゲーの世界なんだよね。
乙女ゲーの世界で、私は悪役令嬢で。
悪役令嬢になることは回避できたみたいなのに、よく分からないオリエンタル美女に殺される予定なんて。
結局、この世界で私は消えないといけない運命なのかなぁ。
あー、それならおとなしく王都にいれば……。
いや、でもこれは私が選択した結果だから。
むしろ。
私と出会ったことで。
クリスは魔獣の姿で、オリエンタル美女に囚われることになってしまったのでは?
その事実に気づいた瞬間。
胸が苦しくなった。
クリスは……私と違い、この世界で求められる存在だ。
なんと言っても『奇跡の子』なのだから。
それに王命を受け、何らかの役目を担うはずだった。
それが私と約束をしたばかりに……。
私のせいでクリスは、ずっとここに囚われることになる……。
いや。
もし私との約束のために、オリエンタル美女を拒んだのなら。
私は明日の夜、美女に殺される。
だったら……。
クリスは美女を受け入れればいい。
無論、不本意だろうが、少なくとも美女の求婚に応じれば、その姿は人間に戻されるはずだ。そうすれば人間の言葉を話せるようになる。魔法だって使えるようになる。
戦わなくてもいい。
すぐに転移魔法を使い、逃げればいい。
伝えなきゃ。このことを。クリスに。
私は温泉から上がった。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「生きて。お願い」を公開します。
ニーナの考えにクリスは……?
それでは明日もよろしくお願いいたします。
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