ニューイヤーまであと五分
ニューイヤーまであと五分。
私はクリスのお部屋にお邪魔して、新年が始まるのと同時に打ち上げられる花火を、二人で見るつもりでいた。
花火の打ち上げは、街の中心にある巨大噴水広場に近い川岸で行われる。方角的に、ウィンスレット辺境伯家の母屋からは見えない。でも離れの部屋からは、花火が綺麗に見ることができた。しかもクリスの部屋側からではないと見えない。よってジェシカはウィルと隣の空き部屋――客間で私達と同じように、二人で窓から外を見ているはずだ。
ちなみにアミルは母国に帰り、アンソニーはウィンスレット辺境伯と一緒に、巨大噴水広場で行われるカウントダウンイベントに出席していた。
カウントダウンイベントは、それはもう、毎年大変な盛り上がり。でも大人が多いし、みんなお酒を飲んで大騒ぎとなるから、まだ卒業前の私達のような学生は、屋敷から家族と花火を見るのが恒例だった。
家族。
既に婚姻関係を結んだ私にとっての家族は……そう、クリス!
いまだ学生だし、実感はないけれど、クリスは私の旦那様♡
「ニーナとこうやって年越しをできるのが、嬉しいな」
冷えるので、クリスと私はふかふかの毛布を二人で一緒に肩からかけ、寄り添っていた。クリスと触れ合っているところはなんだかぽかぽかと温かいし、毛布も触り心地がよくて最高。ミルキーは銀狼と一緒に窓の近くで丸くなっている。
「私もクリスとこんな風に過ごせるなんて、想像もしていなかったわ。……あの竪穴で何回もニューイヤーを過ごしていたのよね、クリスは一人で」
「実体としては一匹だったけど、その中には銀狼もいてくれたからね。来年こそは黒い森を出ようと、励まし合っていたよ」
そこでクリスは私のことをぎゅっと抱きしめる。
「本当に。僕を助けに来てくれてありがとう、ニーナ」
「クリス……」
まさに偶然の積み重ねでクリスに辿り着けた。止まっていた時が動き出したのは、でも結局、クリスが出した過去からの葉書がきっかけだった。葉書を受け取ったウィルがブルンデルクを目指し、たまたま私がウィルに遭遇して……。
本当に奇跡だったと思う。クリスが『奇跡の子』だったから、偶然から奇跡も生まれたのかしら。
「ところでニーナ。悪役令嬢の呪いのもなくなった。ニューイヤーは王都の家族と一緒に過ごさなくてよかったの?」
「心配してくれてありがとう、クリス。でも大丈夫よ。だって来年のホリデーシーズンは、王都で過ごすことになるでしょう。逆にブルンデルクでホリデーシーズンとニューイヤーを過ごせるのは……これが最後とは言わないけれど、しばらくお預けかもしれない。来年はクリスも私の家族と王都で過ごすことになると思うわ」
するとクリスはふわりと優しい笑顔になる。
「ニーナの家族はみんな大好きだよ。母君はニーナに似て美しい方だし、父君はとても優しい。セスは……ニーナのことが大好きなようだね」
セス……! 一応、クリスに対して礼を欠くようなことはしていないと思う。うん、大丈夫。大丈夫だと思うわ。
「ねえ、クリスはご両親と、もうずっと会っていないの?」
「……うん。そうだね」
「それは理由があるの?」
クリスの両親は、西の要の都市アクスブルクから離れた場所にある村で、暮らしているという。昔からその場所で暮らしており、その土地から離れるつもりはなかった。クリスの誕生と共に、宮殿で暮らすことも提案されたが、両親は断ったのだと言う。
「僕には兄弟姉妹があと五人いるらしい。両親はのびのびと五人の子供を育てたいと思ったし、僕は自身の子供であるけれど、自分達の子供ではないと理解した。この国のために生きる子供であると納得し、僕を国に託すことを決意したんだ」
決してクリスを見捨てたわけではなかった。魔力が強いクリスは、アミルのような魔力暴走を起こさないとも限らない。大魔法使いメイズのような強力な魔力持ちの人間がいないと、ある意味、とても危険だった。つまりクリスの両親では、彼を育てきれない。だからクリスのことを国に託した。
「『奇跡の子』であり、将来大魔法使いになる身に弱点は、少ない方がいいと考えられている。今は平和だけど、昔の戦争では、力のある魔法使いや魔法騎士の家族はよく狙われていた。人質にとられ、脅迫の材料に使われてしまう。だから僕の両親に関する情報は一切伏せられている。そして接触することも控えることになった。……王族ではないけれど、僕の身はこの国と一心同体みたいなものだからね。これは仕方ないことと思っている」
なるほど。だからなのか。王都の私の家族が暮らす屋敷には、王宮から派遣された魔法騎士が、警備につくようになった。クリスと婚姻関係を結んだその日から。それこそ24時間365日の体制で。
「王都に戻ったら、王宮のそばで暮らすから、ニーナは心配しなくて大丈夫だよ。僕が絶対に守るからね」
そう言ったクリスは再び優しく私を抱きしめる。
透明感のある清楚な香りに包まれ、胸がキュンとしてしまう。
「そろそろかな。花火は」
私は手に持っていた懐中時計を確認する。まさにあと十秒で新年になる!
「では明かりは消そう」
クリスの魔法で部屋の明かりが消えたその時。
お腹に響く、破裂音が聞こえる。そして夜空には何発もの花火が煌めく。
「ハッピーニューイヤー、ニーナ!」
「ハッピーニューイヤー、クリス!」
ぎゅっと抱きしめ合って、そして新年を祝うキスを交わした。
お読みいただき、ありがとうございます!
2023年の1月にスタートした本作。
初めての悪役令嬢もので、本当に緊張しまくりでした。
ここまでついてきてくださっている読者様には、心から感謝です。
2024年も皆様がキュンとしたりクスッと笑えたりする作品をお届けしていくので、引き続きよろしくお願いいたします! 本作も不定期ですが、新話更新しますので、サプライズでお楽しみください。
【御礼や新作】
新作『ざまぁは後からついてくる
~悪役令嬢は失って断罪回避に成功する~』
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物語は、最果ての森から始まる。ある物を手に入れた私に待ち受けるのは――。
「ユリアナ・オルセン、君は自分がしたことを分かっているのか! 公爵家の令嬢でもあり、僕の婚約者という立場でありながら、なんてことをしているのだ!? 公衆の面前でこんなことをするなんて、信じられないぞ!」
悪役令嬢である私は、何を手に入れ、そして何を失ったのか。
圧倒的に不利な断罪の場。
孤立無援の悪役令嬢の運命や、いかに!?
゜・。*☆*。・゜・。*☆*。・゜・。*☆*。・゜・。*☆
【御礼】なろう人生初の快挙!読者様に感謝!
ジャンル別月間ランキング4位のコチラの作品
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一気読み派の読者様、お待たせいたしました!
本作完結しましたので、お好きなタイミングでぜひどうぞ!
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ぜひぜひご覧くださいませヾ(≧▽≦)ノ
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