４２：エピローグ
「ノンアルコールホットワインでございます」
コースターを置き、クリスと私の前に、それぞれグラスを女性スタッフが置いてくれる。さらに。
「こちら、ウェルカムサービスです。当ホテルのパティシエ特製のチョコレートの詰め合わせでございます。チェリーをダークチョコレートでコーディングした、甘酸っぱいチョコレートでございますよ」
美しく包装された箱を、ソファの前のローテーブルに置いてくれた。
「ラグジュアリールームにお泊りのお客様には、こちらのブランケット、帽子、手袋もプレゼントしています。こちらのお部屋からテラスに出ますと、椅子とテーブルがございます。夜、星が大変美しく見えますので、そちらの椅子に腰かけ、ぜひご覧になってみてください。ただ、夜は冷えますので、よければこちらのブランケットなどをご利用ください」
そう言った女性スタッフはすぐそばのチェストに二人分のブランケットなどを置き、さっきと同じ「ごゆっくりお寛ぎくださいませ」とお辞儀をして部屋を出て行った。
彼女が部屋を去ると、室内は静寂包まれた。
窓の外は静かに夜の帳が落ちてきている。
カーテンは閉じられていないが、既に明かりはつけてくれていた。
「ニーナ、せっかくだから、飲もうか」
「そ、そうね」
ぎこちなくグラスを手に取り、ノンアルコールホットワインを口に入れる。シナモンの香りが鼻に抜け、蜂蜜の甘みと葡萄の酸味が口の中で混ざり合う。程よい温かさで、バクバクしている心臓が少し落ち着く。
「ニーナ」
名前を呼ばれた瞬間、必要以上に驚き、体がビクッと反応してしまう。
すると……。
クリスが優しく私の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、ニーナ。そんなに緊張しないで」
「クリス……」
思い切ってクリスを見ると、そのライラック色の瞳が優しく私を見つめている。
「ニーナのこと、大好きだよ。大好きだからいっぱい抱きしめたいし、キスもしたい。でも今はそれで十分かな。僕達はまだ学生だろう。明日も朝から制服に着替えて学校だから。そう僕は思っている。ニーナはどう？」
……！
クリス……！
それはまさに私も同じ気持ちだった。
「クリス、私もそう、まさに同じ気持ちよ。クリスのこと大好きだけど、その……心の準備が」
ふわりとクリスに抱きしめられていた。
「うん。二人とも同じ気持ちだね。だから大丈夫だよ」
「クリス……」
私もクリスも18歳で、婚姻関係を結ぶことができる年齢になった。そして今日、無事、婚姻届けを出すこともできた。婚姻届けを出す前、出した後で何か変わるのかしら？と思ったけど……。
みんなにお祝いしてもらえて、確かに私とクリスはみんなが認める“夫婦”になれたのだと思う。その一方で、まだ私達は学生。明日はいつも通り早起きをして、制服に着替え、朝食をとったら学校へ向かう。
クラスメイトに会い、教科書を開き、授業を受ける。期末考査の返却だって待っている。
だから、そう。
今はクリスにこうやって抱きしめてもらい、チョコレートキスの魔法が発動するぐらいで十分だった。
学校を卒業して、王都に戻り、そして結婚式の準備をする。盛大な式を挙げ、ハートの持ち手のついた鍵の新居にクリスと二人で引っ越しをして……。
その時にこそ、きっと。
クリスと私は結ばれると思う。
「ニーナ、チェリーをダークチョコレートとコーディングしているって。美味しそうだね」
クリスが私を抱き寄せたまま、甘い声で囁く。
「ほろ苦く甘くて酸っぱい。そんな複雑な味のチョコレート、食べたことないわ」
「食べてみる？」
「食べてみたい！」
チョコレートキスの魔法と共に。
クリスとの初めてのお泊りの夜は更けていった。
（Episode６完）
お読みいただき、ありがとうございます！
ニーナとクリス、ゴールインできました☆彡
皆さまの応援のおかげです。
本当に、ありがとうございました。
さらなるエピソードは読者様のニーズを見て考えたいと思います！
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●記念日を祝い、新話を2本公開しました！――2023/11/23追記
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