４１：わあ……！
この後、まだ何かサプライズのお祝いでもあるのかしら？
ワクワクしながらクリスと二人、そして銀狼とミルキーと共にスタッフの後をついていくと。
「こちらのお部屋でございます」
女性スタッフの言葉にクリスはドアの鍵を開ける。
あら、クリス、この部屋の鍵を持っていたの？
クリスがカギを開けると、女性スタッフが扉を押した。
「わあ……！」
そこは多分、多角形の部屋なのかしら？
ズラリと並んだ縦長の窓からは、庭園、そして茜色に染まる空が見えている。それはとっても美しい。
その景色を眺められるように、ソファセットが置かれていた。
「こちらはダイニングルームです」
女性スタッフが左手の扉を開けると、そこもまた開放的に窓があり、暖炉、テーブルと椅子のセット、シェルフが並んでいる。丁度品はどれも上質で、絨毯の踏み心地もいい。
「こちらは寝室ですね」
右手の扉を開けると、こちらにも大きな窓、暖炉、天蓋付きのベッド。ベッドは床から高く、見るからにふかふかしている。
女性スタッフはすたすたと部屋にはいっていき、私達を振り返る。クリスが私をエスコートし、そのまま寝室に入り、女性スタッフの方へ向かうと、彼女は自身の前の扉を開けた。
「ここはバスルームでございます」
大きな丸い窓がついた広いバスルームだった。窓は曇りガラスで外は見えないが、昼間はここから陽射しが入り、かなり明るそうに思えた。
「お部屋の案内は以上でございます」と告げた後、その女性スタッフは朝食の時間と会場の案内を始めている。
そこでようやく気が付く。
え、もしかして、「クロンシュホテル」に泊まれるということ……？
レストランは何度も利用したことがある。でも宿泊はしたことがない。そして案内された部屋を見る限り、ここに泊まられるならぜひ！という感じだった。
あ、でも明日は学校だ。
制服は……？ 鞄は……？
そう思ったら。
「お荷物はこちらへ入れておきました」
寝室のクローゼットを女性スタッフが開けると、そこにはクリスと私の制服、鞄、靴が置かれている。ついでにバスローブや寝間着、ネグリジェもかけられている。
すごいわ！ ちゃんとここに泊まって、明日、学校に行けるよう、準備してくれている！
「ウェルカムドリンクをお持ちしますね。ソファでお待ちください」
女性スタッフが寝室を出て行き、クリスと私はその後を追いかける。あの美しい外の景色が見えるソファに座るように言われ、メニューを渡された。
「ニーナは何を飲む？」
「私は……ノンアルコールホットワインでお願いします」
「では僕もそれでお願いします」
「かしこまりました。それではお寛ぎになって、少々お待ちくださいませ」
女性スタッフが部屋から出て行った。
銀狼とミルキーがクリスの足元で丸くなる。
「ねえ、クリス！ これはどういうことかしら？ まさかクロンシュホテルに泊まれるとは思わなかったわ。いつもレストランは利用したことがあるけど、ホテルの部屋に通されたのは初めてよ。広々として開放的で素敵よね？」
「そうだね……。まさか、驚いたよ」
そう答えつつ、クリスは何だか困った顔をしている。
「クリスはこのホテル、あまり好みではなかった？」
私が問いかけるとクリスは今度こそ、「驚いた」という顔をしている。
「ニーナはなぜ今日、このクロンシュホテルに泊まれるのか、その理由、分かっている？」
そう問われ、考えることになる。
誕生日のお祝いは昨日、さんざんもらっていた。
そうなると……。
「もしかしてこれはクリスからのサプライズプレゼント？ 今日、婚姻関係を結んだ記念で」
「確かにこの部屋の鍵を持っていたけれど、それはウィンスレット辺境伯が僕に渡してくれたんだよ」
「！ ではウィンスレット辺境伯からのプレゼントなのね」
秘かにここのホテル、泊まってみたいなと思っていたこと、ウィンスレット辺境伯は気づいていてくれたのかしら。そして今日は記念日だからサプライズで部屋を……。
「ニーナ。確かにウィンスレット辺境伯からのプレゼントだと思うよ。ニーナと僕は今日、婚姻届けを出したからね。世間から見たら今日は、僕達は夫婦となり、心身共に結ばれる――と思ったのだろう」
……！
そ、それって―――――！
「失礼いたします」
女性スタッフがノンアルコールホットワインの入ったクリスタルグラスをトレンチにのせ、部屋に入ってきた。温かい葡萄ジュースのいい香りが漂う。蜂蜜にシナモンが入っている、まるでホットワインのようなこの飲み物は、冬のブルンデルクではお馴染み……って、それどころではないわ。
こ、この部屋は、クリスと私が……！
え、待って、そうなの!? 今日なの!?
それは結婚式を挙げた日の夜ではないの!?
いや、もしかしたらと一瞬、考えたことはあるわ。
でも、まさか。
お読みいただき、ありがとうございます！
次回なのですが、月曜日に『タイトルサプライズ』で更新とさせていただけないでしょうか！
明後日、月曜日の１２時３０分に公開します～
