37:いよいよ役場へ
今日は休日なので、ウィンスレット辺境伯家の朝食はパンケーキ。
ジェシカと私は蜂蜜やクリームをたっぷりつけて食べるが、ウィンスレット辺境伯とアンソニーはバター、ウィンスレット辺境伯夫人は木苺のジャムがお決まり。
いつもと変わらない日曜の朝の風景。
でも。
「ニーナ、9時になったら出発しようか」
ウィンスレット辺境伯のこの言葉に「はいっ!」と元気よく返事をした瞬間、自然と背筋が伸びる。
今日、婚姻届けを提出するため、役所に向かうのは、私とクリスとウィンスレット辺境伯。
本当はみんなも行きたがったが、そうなると相当な人数になってしまう。だから家で留守番してもらうことになっている。ウィンスレット辺境伯は、仕事も休みであるため、念のための付き添いでついてきてくれることになっていた。
ちなみに今回、写真家が同行することになっている。彼に写真を撮ってもらい、ホリデーシーズンで贈るカードに、その写真を使うつもりだ。
朝食を終え、部屋に戻り、出発準備を進める。
いつも通り、エントランスに集合だ。
身支度を整え、ミルキーを肩に、ケイトと一緒にエントランスに向かうと。
そこにはみんなが集合している。クリスが乗った馬車はまだ来ていないはずだが、ウィルとアミルも見送りのため、わざわざ離れから母屋に来てくれていた。
「いよいよだな、ニーナ。僕の周囲で結婚する同年代は、ニーナとクリスが初めてだよ。まさか学生のうちに婚姻関係を結ぶなんて……な。……でもクリスはずっとニーナのことを、12歳の頃から思い続けていたから。もう待ちきれないよな。幸せにな、ニーナ」
休日なのにビシッと自身の瞳と同じ、オパールグリーン色のセットアップ姿のウィルにそう言われると、いきなり涙腺が緩みそうになる。
「ニーナ。クリスに飽きたら、オレがいつでも相手になるから。ギリス王国は婚姻歴を気にしないし、ニーナだったら大歓迎だぜ」
ルビー色のスーツ姿のアミルにそう言われると、緩みそうな涙腺にストップがかかり、「もう、アミルってば!」となってしまう。
「ニーナ、朝食の席でも伝えたけど、本当にクリストファー様とお幸せに。婚姻関係を結ぶといってもまだ学生であることには変わりないからね。明日からも引き続き、同じ学友として、よろしくね、ニーナ」
碧色のジャケット姿のアンソニーの言葉で、アミルへの文句も収まる。
「今日のニーナは本当に可愛らしいわ。本物のウェディングドレスはまだ先だろうけど、今のドレスでも花嫁さんに見える。幸せになってね、ニーナ!」
明るいグリーンのドレス姿のジェシカに抱きしめられると、再び涙腺がグッとくるが。
「みんな見送りか」
ウィンスレット辺境伯の声に身が引き締まる。
ジェシカから離れ、ウィンスレット辺境伯を見ると、いつもの隊服ではなく、儀礼用の軍服を着ている!
普段の隊服はブルーだが、儀礼用のその軍服は、深みのあるネイビーブルーで、飾りボタン、ショルダーチェーン、飾緒は銀製だ。ウィンスレット辺境伯は髪がダークシルバーで瞳の色はグレー。だからこの軍服姿はとても似合っている。
何よりウィンスレット辺境伯は戦闘の最前線に立ったこともある猛者で、その姿は威風堂々として風格がある。見るからにマッチョだから、この軍服を着るともう、とにかく映える!
そこへクリスが到着した。
クリスは~~~私の大好きな彼専用のロイヤルパープルの軍服姿。ウィンスレット辺境伯と並んだクリスは、歴戦の指揮官と将来有望な将校という感じで、萌える!
「ニーナ、今日のドレスも素敵だよ」
ご機嫌のクリスが私の両手をとり、この上ない笑顔になる。
完全に推しフィルターが起動し、彼だけのスポットライトが当たっている状態で見るクリスは……もう全身が輝き、眩しい……!
「では行こうか」
ウィンスレット辺境伯に促され、馬車に乗り込むが、既に雲の上を歩いているようなふわふわした心地になっている。
ウィンスレット辺境伯夫人、ケイト達使用人、みんなも見送ってくれているが、現実感がない。
馬車の中ではウィンスレット辺境伯がクリスと私にお祝いの言葉をかけてくれている。でも全然頭に入って来ない! 心配したミルキーが何度も私の手をツンツンしているがそれにさえ、反応できていない。
銀狼が何度もこちらを見ているが、それもスルーしていた。
そんな私の代わりにクリスが、とても丁寧に御礼の言葉を述べている。さらにその後はウィンスレット辺境伯が幼かった私の思い出話をして、クリスはそれをとても嬉しそうに聞いていた。
ウィンスレット辺境伯の屋敷から役所までは、馬車で30分ぐらいだった。でもふわふわした状態の私からすると、あっという間についてしまった感じがする。
「ニーナ、おいで」
直視するのが不可能レベルのクリスが、馬車を降りる私に手を貸してくれる。
こうして、役所の正門前に遂に降り立った!
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学生結婚!
次回は明日『まさか、夢落ち!?』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。
 

























































