35:最高のご褒美
クリスは勉強に付き合ってくれている。
でもソファで私を抱き寄せ、頬に何度もキスをする。私は勉強と甘えたい気持ちの狭間で、悶え苦しむことになった。それでもなんとか予定していた範囲の勉強を終えることができた。偉い、私!
「ニーナ、よく頑張ったね。ご褒美をあげないとだね」
そう言うとクリスは、私の手に何かをのせた。
「クリス、これは?」
手の平にのせられたもの、それは鍵だった。
「ニーナに相談せずに決めてしまったから、もし嫌だったらそう言ってくれて構わないよ。その時はちゃんと、王都に別途屋敷を用意するから」
一体何の事かしらと話を聞くと……。
「国王陛下が、来年、僕達が卒業して王都に戻るのにあわせ、二人で暮らせるよう、王宮に離れを一つ建ててくれたんだ。そんなに広くはない。二人で暮らすのに最適なもの。でもそこでなら、王宮内の執務室にすぐ行くことができる。なんなら朝昼晩の食事も、ニーナとできるよ。小さいけれど、専用の庭もある。つまり、僕とニーナの新居の鍵だよ」
これにはもう、ビックリしてしまう。
王宮の一画に住めるなんて、それは……王族ぐらいのはず。
まさかそこに、離れを与えられ暮らせるなんて!
クリスが仕事中毒になりそうな気もするけど、そこまで近いなら、仮眠も休息もとりやすいだろう。それにいつでもクリスに会えるなら、それに越したことはない!
「嫌なわけはないわ! だってそこに暮らせば、いつでもクリスに会えるのでしょう?」
「うん。ただ、仕事中は、緊急事態以外はダメだよ。でも休憩時間中なら、いつでも会える」
「仕事の邪魔はしないわ! そして喜んでこの鍵を受け取る!」
私の言葉に、クリスの顔は太陽のような笑顔になる。
「本当に? 嬉しいな。ありがとう、ニーナ」
「私こそ、ありがとう、クリス!」
ぎゅっとその体に抱きつくと、クリスも私をぎゅっと抱きしめる。
あああああ、なんて幸せなのかな。
その離れに住めるのは、まだ先のことなのに。
もう幸せな未来しか待っていない事実に、胸が躍ってしまう。
「もう少しだよ、ニーナ。その日が来るまで、この鍵を大切に持っていて」
「分かったわ、クリス!」
その後は再びの甘い時間を過ごし、私は……18歳になった。
◇
甘々な誕生日の後は、試練(?)の期末考査だ。
中間考査より科目数も多いし、範囲も広い。でもいつも以上に勉強を頑張り、無事、その日を迎えることができた。
そして……。
期末考査の3日間が終わった。
そしてその週末に。
私のバースデーパーティーが、ウィンスレット辺境伯の屋敷で行われることになった。
アミルのバースデーパーティー同様、みんなが用意を手伝ってくれた。でも本当に驚いたのは……。なんと私の誕生日にあわせ、あのプルミエ・ブルタンのオーナーシェフのレノー・ブルタンが、王都からわざわざやってきてくれたのだ!
彼の指導の元、バースデーパーティーに出す料理を、みんなで作った。レノー・ブルタンの登場は完全サプライズだったので、もうジェシカは泣いて喜んでいた。
でもサプライズはそれだけではない。
あの、アニカ・ラウクもレノー・ブルタンと共に、ブルンデルクから来てくれていたのだ! この日のアニカは着物を思わせるドレスを着て、私達にバースデーケーキ作りを指導してくれた。
抹茶を使ったスポンジを使い、大納言小豆を用いて、東の国を意識したケーキを考案してくれた。完成したケーキには金粉をふりかけ、もう豪華絢爛。素晴らしいものだった。
勿論、この料理とケーキが、レノー・ブルタンとアニカ・ラウクの指導で作られたものと知ると……パーティーに来たみんなが感動し、大喜びだ。
クリスはバースデーパーティーの会場で、ピアノとバイオリンの演奏を披露してくれた。クラスメイトのみんなは、魔法で花吹雪を出してくれたり、雪を降らせてくれたり、パーティーを盛り上げてくれている。
本当に、本当に。
これまでで一番サプライズ満載のバースデーパーティーになった。
そして。
このバースデーパーティーの夜。
私の部屋に来たクリスは……。
約束を果たしてくれた。
そう。
紫色の美しい薔薇の花束を抱え「ニーナ、ハッピーバースデー!」と部屋を尋ねてくれたのは……そう少年クリス!
しかも、狐耳にふさふさの尻尾の姿で。
そのクリスに寄り添う銀狼も、実にいい味を出している!
も~~~、本当に可愛い!
その姿で花束だなんて、まさに鬼に金棒。最強の愛らしさ。
さらに、頬にキスまでしてくれたのだ。
もうその時は悶絶死する寸前。
でもそれだけでは終わらない。
ちゃんとリクエストに応え、少年クリス+3歳で、あのロイヤルパープルの彼だけの着用が認められた軍服姿になってくれたのだ! しかも狼耳と尻尾付きで!
これはもう少年から青年への過渡期の美しさ、しかももふもふという最高の組み合わせで、今度はキュン死しそうになってしまう。
その姿で手の甲へキスをして「18歳の誕生日、おめでとう、ニーナ」なんて、キリッとクリスが言ってくれるから!
沢山の飾りがついていると分かっているのに、思わず抱きついてしまった。
でもその瞬間、クリスは元の姿に戻り、服装もセットアップ姿に変り……。そのまま溺愛モードに突入し、信じられないぐらい幸せだった。
そして明日はいよいよ、婚姻届けを提出だ!
お読みいただき、ありがとうございます!
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次回は明日『幸せな目覚め』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































