33:欲しい物
「ニーナ、少し冷えるだろう」
そう言ったクリスは自身が着ていたテールコートを脱いで、私の肩にかけてくれた。ふわりとテールコートをかけられた瞬間。いつものクリスのいい香りに包まれ、胸がキュンとしてしまう。
さらにはテールコートに残るクリスの体温の名残りに、心臓がドキドキしている。
「ありがとう。クリスの体温が残っていて、温かいわ」
そう言ってクリスの肩にもたれると「ニーナ」と甘く名前を呼んだクリスが、私の肩を抱き寄せる。その上でクリスは私の頭に、自身の頬をゆっくりのせた。
一気に距離が縮まり、もう胸がドキドキしてしまう。
「ニーナは誕生日プレゼント、何か欲しいものはある?」
「プレゼント……」
クリスに聞かれた私は考え込む。
欲しいもの……。
赤薔薇の騎士の最新刊を読みたいけれど、まだ発売されていない。
美味しい物を沢山食べたいという気持ちはあるが、具体的には……。
王都の名店のあの味を!なんてリクエストしたら、クリスは魔法を使い、本当に買いに行ってくれるだろう。でもそんなパシリのようなことはさせたくない。
そう考えると……。
欲しい物はない。ただ……。
「クリスとのんびり過ごせる時間が欲しい、かしら? あ、でも12月になれば、ホリデーシーズンにはいるから、ゆっくり過ごせるかな……?」
「ニーナ……。素敵な宝石のペンダントや鞄はいらないの? 王都で売っているスイーツや流行のドレスとか? 僕と過ごす……それが18歳の誕生プレゼントでいいの……?」
クリスは驚いているが、私としてはクリスがいて一緒に過ごせる誕生日が一番なのだと伝えると……。
「もう、ニーナ。今はスクールトリップの最中なんだよ。そんな僕を喜ばせる言葉を……。僕はどうしたらいいんだい?」
そう言うとクリスは私の手をぎゅっと握る。
本当は抱きしめたいのだろうけど、庭園にもテラスにも生徒はゼロではない。なんなら庭園には、念のためで教師もウロウロしている。いちゃいちゃするなんて……無理だ。
「あ、クリス! 一緒に過ごすついでで、お願いがあるわ」
「なんだい、ニーナ? ニーナのお願いなんて可愛いから、絶対叶えるよ」
!
これは素晴らしい一言をもらってしまった。
「本当に? クリス」
「だって誕生日は、僕と過ごせればいいだなんて……。一緒に過ごすついでのお願いぐらい、間違いなく叶える自信があるよ」
いいのだろうか。
多分、これから私が言うことは、クリスの想定を……超えていると思うのに。
「クリス、私の誕生日をお祝いする時は……ネモフィラの花畑で会った時のクリスになってほしいの」
「え!?」
「それでね、その時は、獣耳と尻尾をお願い。ぜったいに小さいクリスが獣耳と尻尾をつけたら、可愛いと思うの♡」
クリスは絶句し、驚いていたが……。
「……絶対叶えると約束したからね。分かったよ。でもそれは時間限定だから。この姿の僕にも、ニーナの誕生日をちゃんとお祝いさせて」
「やった~! とっても楽しみだわ! できれば白いセットアップにしてね。ちびっこクリスの新郎獣耳&尻尾バージョンを見たいわ! あ、あといつもの素敵な軍服。あれは小さなクリスになっても着られるのかしら?」
「ニーナ……!」
混乱の極みのクリスは……申し訳ないけど、とっても可愛いかった。
◇
テラスでまったりクリスとおしゃべりをして過ごした。そして庭園やテラスにダンスを終えた生徒が移動してきてから、逆に私とクリスはホールへ移動する。
ホールは生徒の数がぐっと減っていたので、クリスとのダンスも広々と楽しむことができた。3曲踊ったところで、ウィルとジェシカと合流し、その後、私はウィルと、ジェシカはクリスとのダンスを楽しんだ。
その後はドリンクを飲みながら休憩し、部屋に戻った。
部屋に戻った私はメグと恋バナ……まではいかないが、ローガンとどうなのよ!という話で盛り上がる。
メグによると、体育祭でいろいろ話すうちに打ち解けて、実は体育祭以降、何度か一緒に学校から帰ることもあったのだという。今はまだ、友達だけど距離が近いぐらいらしいが……。
「とりあえず期末考査もあるから。スクールトリップが終わったら、まず勉強。そして期末考査が終わったら……。そうね。ローガンと、デート……してみてもいいかもしれないわ」
メグがそう言ったので、私は大喜びとなり、二人を応援すると約束した。
楽しい恋バナの後は、ちゃんと消灯時間で就寝し、翌日はレイククリスタルの街を散策した。お土産を買い、街の観光を楽しみ、ブルンデルクへ戻ることになる。ジェシカが教えてくれた帽子も買う予定だ。
一泊二日だからあっという間。
スクールトリップが終わると、期末考査の勉強期間に突入する。ちなみに前回の中間考査では、赤点も補習もなく、成績は中の上ぐらいまで食い込むことができた。これはもう、クリスとウィルのおかげ。二人にはいつも通り感謝し、今回もみっちり勉強を教えてもらうことになっている。
ただ、この期末考査が終われば、私の誕生日。つまり……クリスと婚姻関係を結ぶことになる!
お読みいただき、ありがとうございます!
可愛いクリスの登場、確約♡
次回は明日『今日は私の誕生日』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































