30:ニーナに甘えたい! 甘え足りないよ
「ニーナの誕生日、来月いよいよだね」
この話題には、ちょっとドキッとしてしまう。
私が誕生日を迎えたら、婚姻関係を結ぶ約束をしているから!
「うん。そうなの。11月22日だったら覚えやすいのに。私の誕生日は11月23日。しかも12月上旬の期末考査に向け、勉強の真っ只中なのよね」
そうなのだ。
せっかくの誕生日なのに、いつも期末考査と重なり、誕生パーティーは期末考査が終わった週末というのがお決まりになっていた。
「期末考査の勉強中に誕生日を祝うのも、婚姻関係を進めるのも、落ち着かないよね。期末考査が終わった週の週末かな? お祝いも、婚姻関係を結ぶのも」
何も説明していないが、クリスでもすぐそう分かるぐらい、私の誕生日はタイミングが悪い。
本当は。
誕生日のその日に、誕生日を祝い、婚姻関係を結ぶ――この二つをできたらいいのだけど。何せまだ学生だから。学生の本分をまっとうしないことには……。
「そうね。……本当は18歳になるその日に、いろいろできたらいいのだけど」
思わず恨み節になってしまう。
「その気持ちは……僕も同じだよ。でも僕もニーナもまだ学生だからね。それに悪役令嬢の呪い。あれはもうなくなっただろう? ユーリアはおとなしくしているし、ブルンデルクにはいない。もし現れることがあっても、フィッツ教頭が動く」
そう、そうなのだ。
私は……悪役令嬢の呪い……断罪を回避できた、そう思っている。ユーリアとあの日、対峙し、決着がついたことで。だからクリスとの婚姻関係を結ぶ――これを急ぐ必要はなかった。
「うん。その点はもう大丈夫だろうって思っているわ。……全部12月になってしまうけど、クリス、許してくれる?」
「勿論だよ、ニーナ。憂いがない状態で、心からお祝いできるのが一番だろう?」
「そうね。それが一番だと思うわ」
そこでクリスの肩にもたれると、とても喜んだクリスは私をぎゅっと抱きしめる。
温かくて落ち着くクリスの胸の中。
寛いだ私は。
そこでふと思う。
ところで、婚姻関係を結ぶ前後で何が変わるのかしら?と。
これまで通り、学校には通う。
婚姻関係を結ぶ……夫婦になりました!ということで、いきなりクラス替えさせられることもないだろう。このまま同じクラスで卒業までいくと思っている。
そうなると学校での変化はないでしょう。
ウィンスレット辺境伯家においては……。
クリスと食事を一緒にとったりするようになるのかしら? でも今、バランスがとれていると思う。離れのダイニングルームで、ウィル、アミル、クリスの三人で食事をしている。母屋ではウィンスレット辺境伯の家族と私で食事をしていた。ここで私が離れで食事をするようになったり、逆にクリスが母屋で食事をとるようになるのも違う気がする。
かといってクリスと私の二人で食事というのも……。居候の身なのだ。そんな手間をかけさせるわけにはいかない。
う~~~ん、そう考えると、before→afterで変化があまりない? というか、ない?
書類上で、クリスと私は夫婦です!となるだけなのかしら。
えっと、ちょっと待って。
あれ?
結婚式は別で挙げるわけでしょ。
でも婚姻関係を結ぶ。
それって、えーと……。
今さらであるが大変重要なことに気が付くことになる。
婚姻関係を結ぶ=夫婦になるということは……。
まさか学生のうちにク、クリスと同じ寝室で……!?
え、それは、え、え、え。
ク、クリスはこの件、どう考えているのかしら!?
というか、間違いなくとても重要な件なのに、何も話していなかったと思う。
いや……非常に話しにくいことではないかしら?
え、どうすればいいの……?
「ニーナ……」
いろいろ妄想してしるまさにその瞬間。
クリスに名前を呼ばれた。
もう、心臓が飛び出しそうになる。
「な、何かしら、クリス?」
声まで裏がっている。
「もうすぐ集合時間だよ」
「あ……」
15分なんてあっという間だわ。
「もっとニーナに甘えたい」
「クリス……」
「ニーナに甘え足りないよ」
「……!」
もしも。
もしも、婚姻関係を結んだ後。
クリスにこんな風に甘えられてしまったら、私、どうなるの!?
いや、今はそんなことを考えている場合ではないわ。
スクールトリップの最中なのだから。しっかりするの、ニーナ。
「クリス、今晩、消灯時間まで、なんとかして会う時間を作りましょう。ロビーでだったら、会っても大丈夫なはずだから」
「ニーナ……」
もうクリスがぎゅっと抱きしめるから。
私の胸の中は、クリスの清楚で透明感のある香りで満たされ、酔ったような状態だ。クリスが甘え足りないように、私だって甘えていいのなら、クリスにずっとずっと甘えていたい!
「クリストファー様、ニーナ!」
声にハッとして我に返る。
この声はジェシカ!
すっかり忘れていた。でもクラスも違い、チームも違うが、ジェシカ、ウィル、アンソニーもこのスクールトリップに参加しているのだ。私達が早め、早めで行動していたので、各チェックポイントで会うこともなかったが、ここはゴールだから。他のメンバーに会えて当然だった。
ゆっくりクリスが私から離れる。
幸いなことにさっきより霧が深くなっているから、熱烈に抱擁をしていたことは……バレていないと思う。バレていないからこそ、ジェシカも声をかけたと思う。もし私とクリスがラブラブしていると分かったら、ジェシカはそっとしておいてくれるはずだから。
「ジェシカ、無事、ゴールできたのね!」
私はジェシカに声をかけた。
◇
帰り道は、ジェシカ達のグループと私達のグループが合流し、遊歩道の入口へと下って行くことになった。ヒグマのことを聞かせたり、ジェシカからはオオライチョウを見かけたという話を教えてもらった。
銀狼、ミルキー、スノーボールたち守護霊獣も、再会を喜び下り道を進んでいる。ミルキーはいつも通り、銀狼の背中にのせてもらっているけど。スノーボールはぴょんぴょん下り道をジャンプしていて、丸い雪がコロコロしているみたいで、本当に可愛かった。
アンソニーとは合流できなかった。きっと生徒会長をしているアンソニーのことだ。教師を手伝いながら、下りはきっと最後の方になるのだろう。
そんな感じでレイククリスタル国立公園の散策は、無事終わった。
お読みいただき、ありがとうございます!
11月22日はいい夫婦の日です。
次回は明日『夕食=晩餐会』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。


























































