29:手をつなぐ
なんとかチョコレートの香りを忘れるようとした結果。
なぜか古代魔法について、クリスと熱く語っていた。熱く語り過ぎ、つい周囲への注意が疎かになっていたが、気づけば遊歩道の道に霧がかかっている。
「いよいよレイクアクアが近づいてきたね。なんだかんだで、ここまでの道、ゆるやかな上り坂だったから」
立ち止まったクリスが後ろを振り返る。
私も後ろを振り返り、驚くことになった。
本当に緩やかな坂道を上ってきたのだと実感する。
なぜなら眼下遥か遠くにレイクサファイアの姿がはっきり見え、ミルキーグリーンレイクの姿も見えていた。
レイクサファイアの奥にはレイククリスタルが広がっているはずだ。今は陽射しが眩しく、見ることができないけど。
「これはすごいな。こんな上っていたなんて、気付かなかった」
「本当だわ」
ローガンとメグも、私達同様、後ろを振り返り、とても驚いている。
後方は晴れているのに、私達が今いる辺りは、うっすら霧が漂いつつあった。それは山岳地帯に近いエリアに踏み入っている、もう一つの証拠でもあった。
「ニーナ、少し冷えてきたね。寒くない? 大丈夫?」
「確かに少しヒンヤリするわね」
「手をつなぐ?」
「え!」
後ろにローガンとメグがいるのに。
いいのかな、手をつないでも。
「え、でも手が冷たいんだろう?」
ローガンの声に、後ろを少し振り返ると。
「なんか昔から手が温かいんだよ。そんな風に言うと、手が温かいなら心は冷たいのーなんて言われるけど、そんなことはないからな。ほら、触ってみろよ」
「えー、なんでローガンの手を……」
メグはそう言いつつも、ローガンの手に触れた。
「……! 本当だ。温かいわ」
「だろう?」
慌てて私は視線を前に戻す。
ローガンとメグって、あんな風に仲が良かったっけ?
「ニーナ、手をつなぐ?」
クリスがニッコリ笑顔で再び尋ねた。
もし後ろでメグとローガンが手をつないでいるなら……。
いいよね、私とクリスも手をつないでも。
何より、霧が出て少しヒンヤリするから。
ゆっくり差し出した手を、クリスは優しく握ってくれる。その瞬間、手に温かさが伝わってきた。その温かさは、手をじわじわと温め、さらに心を温め、次第に全身も温かくなっていく。
踏みしめる落ち葉の音。
かさかさと葉が風でこすれる音。
遠くで聞こえる鳥の鳴き声。
白い霧は深まり、なんだか不思議な世界に迷い込んだ気持ちになっていたところで、急激に視界が開けた。どうやら緩やかな坂道の頂点に到達したようだ。眼下に広がるのは大きな湖。
「レイクアクアだね。これは……なんとも言えない景色だな」
クリスが指摘する通り、これはどう表現すればいいのか……。
まずは色彩の美しさ。
レイククリスタル国立公園は、既に多くの木が紅葉していた。でもそれはまだ始まったばかりに近い。でもレイクアクアの周辺に見える紅葉は、これまで見てきたものが物足りなくなるような、濃い色を示している。深みのある赤、印象的なオレンジ、くっきりとした黄色。
鮮烈なまでに色づいた木々だが、白い霧に包まれ、その姿は実に幻想的だった。
「チェックポイントはコチラですよ~」
教師の呼びかけに我に返る。
レイクアクアは相応の大きさなので、ちゃんと広場が設置されていた。霧が広がり、分かりにくいが、その広場からコチラへ手を振る教師の姿が見えている。
クリスが教師の元に行き、最後のチェックポイント通過のサインをもらう。これでひとまずゴールしたことになる。帰りは下り線用のルートがあり、そこを一直線で下っていくことになっていた。湖に立ち寄ることもないので、遊歩道の入口まで、最短ルートで着くことが出来る。行きの半分の時間で下ることができ、途中、一か所教師が待機している場所があるが、ひたすらの一本道だ。
私達はかなり早く、レイクアクアに到着することができたので、15分ほど休憩してから下ることにした。
「では15分後に、この先生のいる辺りに集合しようか。僕とニーナで散策してもいいかな?」
「ああ、それで構わないよ。なあ、メグ」
「ええ。学生生活最後のスクールトリップだから。それにここは霧が出てとても幻想的だから。素敵な思い出作りをしてきて、ニーナ」
ローガンとメグにそう言ってもらえたので、私とクリスは並んで湖の湖畔へと向かう。メグ言う通り、霧がかかっているので、なんだかメルヘンな世界に迷い込んだ気分になる。不思議な生物がひょっこり現れても、納得してしまいそうだ。
「ニーナ、あそこにベンチがあるから、そこに座ろうか」
「そうね」
二人でベンチに腰かけると、銀狼がクリスの足元で丸くなる。ミルキーが銀狼のところへ行きたがるのでポケットから出すと、クリスがミルキーを受け取り、銀狼のそばにおく。すぐにお互いに鼻をくっつけ挨拶をすると、ミルキーは銀狼の尻尾にくるまるように潜り込んでいる。
「湖に鴨がいるね。あれはつがいかな。なんだか仲がいいよ」
クリスに言われ、湖の方を見ると、岸に近い辺りにまさに雄と雌の鴨がいて、お互いの羽をついばむようにしている。なんだか羽のお手入れを、お互いにしているみたいだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
メグとローガン、いつの間に!
次回は明日『ニーナに甘えたい! 甘え足りないよ』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































