27:フィッツ教頭からのご褒美
レイクサファイアへ到着すると、チェックポイントにいた教師は大慌てになる。
なにせクリスの報告で、ヒグマが出現したことを知ったのだから。でもクリスが雷の柵を遊歩道沿いに張り巡らせたと報告すると、今度は驚いて目を丸くする。「とりあえず何事もなくてよかった」と教師はいい、私達にランチを渡し、自身は他の教師と連絡を取り始めた。
「そこ、丁度ベンチがある。それにレイクサファイアを一望できるぞ」
ローガンが示したベンチは、巨木を一本倒し、横にしたようなもの。八人ぐらいが腰かけることができそうだ。早速四人で、そのベンチに腰を下ろす。
ヒグマの報告で、まだレイクサファイアをじっくり見ていなかった。でも目を湖の方に向け、驚嘆することになる。
「なんて鮮やかな青い色なのかしら!」
メグが感嘆の声をあげ、クリスも「目が覚めるようなサファイアブルーだね。遠くに見える滝も荘厳だ」と目を見張っている。
本当に、二人の言う通り、レイクサファイアの水の色は美しい。空の色を映しているが、深さがあるからだろう。実に深みのある青色をしている。その青と対称的な周囲の紅葉が、これまた絶景。
さらにずっと遠くに見える滝は、白い水しぶきをあげている様子が、ここからでも見えている。
「これ、旨いよ!」
花より団子のローガンが、ローストビーフのサンドイッチにかぶりつき、笑顔になっている。
「この卵サンドも、まろやかな味わいで美味しいよ」
クリスが私を見てニッコリ笑顔になる。
二人が絶賛しているので、急激にお腹が空いてきて、メグも私もサンドイッチにかじりつく。
「美味しい! バターの風味がとても出ていて、パンにも味がしみこんでいるわ!」
クリスと同じく、卵サンドを食べて私が絶賛すると。メグはローストビーフサンドについて「マスタードとお肉がとってもあうわ。お肉も硬くないし、とても食べやすい」と大喜び。
添えられていたピクルスや果物も、あっという間に食べ終えてしまう。
「おやつで焼き菓子があるの」
そう言ったメグは、みんなにフィナンシェを配ってくれる。それを食べていると、続々と生徒が到着し、皆、ランチタイムに突入していく。
「大魔法使い見習いのリーヴスくん」
焼き菓子を食べ終え、配られた紅茶を飲んでいると、フィッツ教頭がクリスに声をかけた。
「ヒグマの件、聞きましたよ。ヒグマと遭遇したという観光客二人にも、話を聞くことが出来ました。お手柄です」
フィッツ教頭はそう言いながら、黒縁の眼鏡をくいっとあげ、さらに話を続ける。
「遊歩道の安全を確保してくれた件、レイククリスタル国立公園管理局に話をつけておきました。この秋、遊歩道にヒグマが出てくるのは初だったそうです。この後、管理局のレンジャーが見回りもするとのこと。もし可能であれば、日没まで、雷の柵はそのまま維持して欲しいということです。可能ですか?」
「フィッツ教頭、承知いたしました。日没までの雷の柵の維持、問題ありません」
クリスが答えると、フィッツ教頭は目を細める。
「この国立公園の遊歩道、その周囲一帯にこれだけの規模の防御魔法を展開し、それを日没まで維持できるとは。セルジューク第六王子といい、我が学園には規格外の魔力を持つ生徒に恵まれています」
フィッツ教頭のこの言葉に、ローガンは「えええええ」と素っ頓狂な声を出し、メグは口を開け、固まっている。私は……うん、慣れた。クリスがとんでもないことをするのを、もう何度も目撃し、聞いているから。それでもね、やはり驚きは隠せず、あやうく紅茶をスカートにこぼしそうになったけど。
「この後、まだ二箇所の湖を巡りますからね。魔力を消費した時には甘い物。これは管理局への協力に対するご褒美です」
フィッツ教頭がローブの袖に手を潜り込ませると……。
驚いた。その手には、レイククリスタルのチョコレートの名店フォーリーのロゴ入りの箱が見える。間違いない。あれはチョコレートのアソートボックス。プレーン、ミルクチョコレート、ダークチョコレートの詰め合わせだ。
「ありがとうござます」
クリスが受け取ると、フィッツ教頭は別の教師の方へと歩いて行く。
「すごいな、クリストファー、国の機関に協力するなんて! しかも遊歩道一帯に……。魔法の実技の授業でも、いつもすごいと思っていたけど、ホント、すごいよな」
ローガンは自分のことのように驚いている。
「クリストファー様は将来、大魔法使いになる方だから。そうだとしても……偉業だと思おうわ!」
メグも興奮気味でクリスと私を見た。
「クリス、みんなの安全のために頑張るってすごいと思うわ。確かに魔力を多く使う時は、甘い物を食べるのが一番よ。このチョコレート、レイククリスタルの人気店のものだから。きっと美味しいと思うわ。これで元気をつけて、次の湖に向かいましょう!」
「ニーナ、このチョコレートのお店、知っているんだね。人気があるというなら、きっと美味しいのだろう。それは食べて確認しないと」
クリスはその場でパッケージを開けた。
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次回は明日『チョコレート……!』を更新します。
チョコレートと言えば……(*/▽\*)
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