26:な、なんだ、あれは!
「どうし」
「静かに!」
メグが話そうとすると、ローガンが顔をこちらに向け、押し殺した声で告げる。クリスは前方を注視しているが、広げた手が後ろにいる私とメグを庇うようにしている。さらにクリスの足元にいる銀狼が姿勢を低くして、何かを警戒していた。
ポケットから顔を出したミルキーも体を硬くしている。
な、何がどうしたの……?
ローガンとクリスの間の隙間から前方を見て、息を飲むことになる。
ここから20メートル以上先に見えるのは……あれは……クマだ! ヒグマが出ると書かれていたが、まさか本当にいるとは! しかもそのヒグマのそばに人がいる。観光客と思われる、男性の二人組。
私はクリスを見る。
後ろから見えるクリスの横顔は真剣そのもの。どんな魔法を使い対処するか考えているのだとすぐ分かる。クリスがすぐに動けない理由、それは私にでも分かる。ヒグマと観光客の距離が近い。
例えばクリスの底なし沼を生み出すあの魔法は、ヒグマだけではなく、観光客の二人を巻き込む可能性がある。それ以外の魔法をヒグマに使うにしても、二人の人間を巻き添えにしないよう注意する必要があった。
さらにヒグマは、体重とその体長から想像できないほど俊敏に動けると、羊皮紙の紹介で書かれていた。時速50キロ近い速度で動くこともできるというのだ。
観光客の二人を巻き込まず、ヒグマだけを瞬時に一撃で仕留めるには……。
!
この音は! 雷の音。
雷ならヒグマを一撃で仕留められる!
そう思ったまさにその時。
雷の気配を察知したのか、ヒグマが動いた。
身動きできずにいた二人の観光客に、ヒグマが向かうと思われたまさにその時。
ヒグマの横から、その丸太のような首に噛みつく動物の姿が見えた。
「な、なんだ、あれは!」
ローガンが堪らず叫んでいる。
「あれは……実物を見るのは初めてだけど、図鑑で見たことがある。おそらくタイガー……虎と言われる動物だと思うが、そんなもの、ここにいるわけがない。あれは……あの二人の観光客の、いずれかの守護霊獣だろう」
クリスの言葉で思い出す。それは前世で見たテレビ番組。陸上で最強と言われるクマの天敵は人間と……虎であると!
しかも今、ヒグマに立ち向かっている虎は、大きさがヒグマの倍以上もある。通常の虎ではない。クリスの言う通り、あれは間違いない。守護霊獣だ。
「あれも守護霊獣だろうね」
クリスが上空を見たまさにその時。
「な、何、あれは!? 翼竜!?」
メグが震えた声を出したのは、無理もない。
ヒグマに向かい、悠然と降下しているのは、翼竜にも見えるけど……多分違う。
「翼竜ではなく、あれはハゲワシだろうね。翼を広げると、3メートルはあると言われている。でも今はその倍以上あるから、とても鳥に見えない」
虎の守護霊獣に突然襲われただけでも、ヒグマとしてはパニック。さらに上空からあんな巨大な鳥が嘴と爪で襲ってきたら、さすがに戦意喪失だ。そのまま森の方へボロボロの体で逃げていった。
「まさに雷を落とす寸前だったから、本当に驚いたけど、あの二人の守護霊獣はすごいね」
クリスがしみじみ呟き、「え、クリストファー、いつの間に雷を!? 魔法の詠唱していたのか!?」とローガンが目を丸くしている。メグと私も顔を見合わせて驚き、そしてメグはこんな疑問を口にする。
「あの二人の守護霊獣、あんなに大きな虎……タイガーと、ハゲワシなのかしら?」
離れた場所でヒグマの撤退を確認している虎とハゲワシの様子を見ていると……。ヒグマが遠ざかり、安全を確認できたのだろう。虎とハゲワシの守護霊獣の姿が見えなくなったと思ったら、そんなことはない。
サイズが小さくなっている!
ハゲワシはそのまま空に飛び立ったが、そのサイズはクリスがさっき言っていた3メートルの半分ぐらいの大きさ。それでも十分に大きくは感じるが、その前があまりも大きかったので、小さくなったと感じてしまう。
一方の虎は、成獣サイズよりさらに小さくなり……というか、あれは猫では? 茶トラの猫。
「守護霊獣は召喚者とのパートーナー契約の元、自身をこの世界に馴染む姿に変えている。そんなことができるわけだから、今の姿から別の姿に変ることだってできる。でもまさか茶トラのあの可愛らしい姿から、タイガーになるなんて。驚きだね」
それはもうクリスの言う通り、ビックリだ。
普段はあんな可愛らしい姿をしているのに。
召喚者と自身の危機に合わせ、あんな姿に変るなんて!
さらにクリスが私達の方へ振り返って微笑む。
「この遊歩道にそって雷を柵のように展開させたから。ヒグマ以外の動物もいるからね。触れて即、気絶することはないけど、ビリっと来るから。遊歩道の方には近づかないと思うよ」
これにはもう、ローガン、メグ、私と驚いてしまう。
いわゆる電気柵を魔法の力で展開したのだから。
でもこれでヒグマは遊歩道の辺りには出現しないと分かったので、私達は歩き出し、二人の観光客に声をかけた。彼らは怪我もなく、自身の守護霊獣のおかげで助かったよと笑っている。
茶トラの守護霊獣は、クリスの銀狼に「にゃー」と挨拶をしていた。これがさっき巨大な虎の姿で、ヒグマに立ち向かったとは思えない。
改めてポケットから顔をのぞかすミルキーを見て思う。ミルキーは……もしもの時、どんな姿に……。いや、そうならないように気を付けよう。
そんなことを思いながら、レイクサファイアへ向かった。
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次回は明日『フィッツ教頭からのご褒美』を更新します。
フィッツ教頭は何気にいろいろ活躍中☆
引き続きよろしくお願いいたします。

























































