25:美しい湖と沢山の生物
遊歩道の木々は紅葉しているものもあれば、常緑樹もあった。そんな緑、オレンジ、赤の葉の隙間から、澄んだエメラルドグリーンの湖が見えてきたのだ。
今日は天気もいい。そして風は穏やか。
湖はまるで鏡のように、空とその周囲の紅葉を映しこんでいる。でもすぐ近くの湖に目をやると、そこにはエメラルドグリーンの美しい水が広がって見える。
巨大な湖だから実現できた、エメラルドグリーン×紅葉×空色の絶妙なコントラスト。
これはもう感動。
「おい、みんな、なんか鳥がいるぞ!」
ローガンの声に周囲の木々に目を凝らすと、顔と喉の辺りがオレンジ色のぷっくりと丸く可愛らしい鳥がいる。
「あれはコマドリの一種で、ロビンという通称で知られています。冬になると南下するので、この辺りで見られるのは今の時期ならではですね」
そう教えてくれたのは、チェックポイントを担当するフィッツ教頭だ!
「さて。大魔法使い見習いのリーヴスくん、チェックポイントを通過したというサインをしますから、羊皮紙を出してください」
「お願いします、フィッツ教頭」
クリスが差し出した羊皮紙に、フィッツ教頭はサラサラとサインしている。
「おい、メグ、ニーナ、見て見ろよ、魚もいるぞ!」
ローガンは美しい景色より、周囲にいる鳥や魚に興味津々のようだ。言われた方を見ると、銀狼も興味深そうに湖を眺めている。
湖の透明度が高いから確かに魚の姿が見えたが、動きが速い。茶色の斑点が見え、結構大きい。
「あれはブラウントラウトと呼ばれる魚で、フライにしてよく食べられていますよ」
クリスに羊皮紙を戻しながら、フィッツ教頭は湖に目をやる。
フィッツ教頭、詳しい!
「フィッツ教頭、サインをお願いします!」
続々と到着する生徒の方へ、フィッツ教頭は歩いて行く。
「ブラウントラウトは、ムニエルにしても美味しいと言われている。ただ、脂が少ない魚だから、焦げ付かないように注意が必要だよ。……ではローガン、メグ、ニーナ、ゆっくり移動を始めよう」
クリスは本当にさりげない感じで教えてくれたが……。
フィッツ教頭と言い、クリスと言い、人智を超えた人間というのはホント、なんでも知っているのね。
レイククリスタルを見ながら、遊歩道を進む。
さっき見つけたロビンという鳥は、結構沢山いるようで、歩いている間にも何度か目撃することになる。
「ここまで真っ直ぐの道だったけど、左の道に入るよ」
振り返ったクリスがにっこり微笑む。
秋の陽射しを受け、クリスのアイスシルバー色の髪がキラキラと輝き、サラサラと揺れている。
美しい……!
左手の道を進むと、すぐに次の湖が見え、そしてザーという音が聞こえてくる。音の方に向け、湖に近づくと広場があり、そこにはコンカドール魔術学園の生徒は勿論、沢山の観光客もいる。
ローガンとクリスはチェックポイントを受け持つ教師のところへ向かい、メグと私は湖に近づいた。
羊皮紙の地図で確認すると、ここはクリーンレイクという湖で、5つの中で一番透明度が高く、幾筋もの滝が湖に向かい、流れ落ちているのが見える。風もないのに湖面が揺れているように見えるのは、この滝のせいだった。
「ニーナ、これは本当に透明度が高いわね。水に色がないみたいで、底が丸見えね」
メグの言う通りで、レイククリスタルのようにエメラルドグリーンに水が見えることなく、紅葉や空を映したところをのぞくと、湖底がくっきり見えていた。さっきより動きの速い魚の姿も見えている。
「この次のチェックポイントで昼食が用意されているって。ここで少し休憩してから次の湖に向かってもいい。でもまだあまり歩いていないから、疲れていないようなら、出発してもいいよね。みんな、どうする?」
教師からチェックポイントのサインをもらったクリスが、メグと私に尋ねた。メグと私は「どうする?」としばし検討する。広場の様子を見ると、ここで休憩している生徒が多いことが分かった。観光客も、滝が見えるということで、ここで休んでいる人が多い。
地図で確認すると、次の湖はレイクサファイア。5つの湖の中で、一番深い湖。その水の色は、透明度は高いが深いため、鮮やかな濃い青、サファイアブルーに見える。湖の大きさとしても、レイククリスタルの次に大きく、湖の対岸に当たる位置に、大きな滝を眺められるという。
今、ここで休憩している生徒が多いなら、レイクサファイアにはまだ人が少ないだろう。しかもサファイアブルーの湖は、どう考えても美しそうだ。到着すれば教師が用意したランチも食べられるのだ。だったらここで休憩するより、先を目指した方が俄然いいと思えた。
そのことをクリスとローガンに話すと「ではレイクサファイアへ向かおう」となった。
早速歩き出すと、左手が森になり、右手にクリーンレイクを見ながら進むことになる。「ピチュー、ピチュー」と甲高い鳥の鳴き声が何度なく聞こえていた。羊皮紙を見ていたメグが「多分、これはシジュウカラかもしれないわ」と教えてくれる。さらにその姿は……。
「頭と首が黒くて、頬の辺りが白、胸の辺りは明るいレモン色で、胸からお尻の辺りまで黒い縦縞があるそうよ。コックさんがつけているチーフみたいって書いてあったわ。背中はオリーブ色だそうよ、ニーナ」
なんとなくその姿が脳裏に浮かび、相変わらず鳴き声は聞こえるが、なかなかその姿は見えない。でも時々、がさっとと音がしたりして、その辺りを飛んでいたのか、歩いていたのかと想像が膨らむ。
「!?」
少し前を歩くクリスとローガンが立ち止まった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日『な、なんだ、あれは!』を更新します。
何かが起こる予感。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































