36:自分のことを心配なさいよ。最弱ちゃん♡
「魔術干渉!? 守護霊獣が魔術干渉!?」
ウィルが驚愕しながら叫ぶ。
「あらぁ、そこ、驚くところ? うちのキットゥは優秀だから、これぐらいおちゃのこさいさいよ」
キットゥはオリエンタル美女の守護霊獣だが、普通じゃない。
召喚者の魔力や魔術に対し、守護霊獣は干渉ができる。干渉……それは魔力を強化したり、足りない魔力をサポートしたり。
でも召喚者以外の魔力や魔術に対し、普通は干渉できないはずなのに……!
何か特殊な魔法をキットゥにかけているのかもしれない。
「召喚術式展開 ケルベロス <三位一体>」
「巨大化魔法展開 キットゥ、おおきくなっちゃえぇ~」
離れた場所でケルベロスとキットゥの戦闘が始まり、大地が揺れる。
ウィルとオリエンタル美女が繰り広げる魔術合戦に、魔力が弱い私は何もできない。
戦闘で引き起こされる振動に、必死で耐えるので精一杯だ。
「転移魔法展開 方位南西 <五の陣形>」
「ダメよ~。余計なことしちゃ。フェニックス、消えちゃうから!」
いつの間に召喚していたのか。
上空には龍がいて、フェニックスの体に巻き付いている。
「召喚術式展開 ドラゴン <永劫回帰>」
ウィルの魔力が召喚に向けられたことで、私の足元に再び出現していた転移のための円陣は、起動目前で輝きを失う。
「防御魔法展開 暴風巨風 <三の陣形>」
防御のための円陣が私の足元に出現し、周囲に竜巻のような風が起きる。ウィルは私を転移させることを一旦保留し、代わりに防御魔法を展開してくれた。
上空ではフェニックスが消え、龍とドラゴンの戦闘が始まっている。
ウィルの肩にはいつの間にか守護霊獣のイーグルが現れ、霊獣の召喚をサポートしている。召喚された霊獣は、オリエンタル美女に次々と向かって行く。
今、ウィルが召喚している霊獣はどれも破格。
込める魔力の度合いで、召喚できる霊獣も当然変わる。
通常の魔力の持ち主でできる召喚ではない。
というか王家の真名を賭けて召喚しているのだから、基本は王族もしくはそれと同格の者しか召喚できない。つまりもし私に魔力があっても、これらの召喚は無理だろう。
でも転移魔法ぐらいなら、以前の魔力があればできたはず。
いや、今の魔力でも、転移魔法ぐらいは……。
五の陣形なんて無理だ。でも一の陣形ぐらいなら。
陣形は一から五のレベルまである。
レベルにより現れる円陣の強度が変わる。
転移魔法で五の陣形を出し、魔力を注げば、かなり遠くまで転移できる。
一の陣形ではせいせい学園の敷地を出るぐらいだろう。
それでもここにいるよりはましなはず。
「転移魔法展開 方位南西 <一の陣形>」
私の足元に転移のための円陣が出現した。
!
いける、これなら。
正直、私がここにいるのは足手まといだ。
私がここにいる限り、ウィルは私を守ろうとする。
霊獣を召喚し、自身と私を防御し、オリエンタル美女に攻撃をし、転移魔法を展開する。
こんなの同時にやっていては、魔力だって相当消費する。
だから私はここから消えた方がいい。
え……。
背中に水しぶきが当たる気配を感じた。
そして。
「ねえ、あなた何なの? なんで最強が最弱を守るの? 魔力なんてほとんどない。あなたなんて足手まとい。別に死んでもいいよね?」
声がすぐ背後から聞こえてくる。
私は全身に粟立つような恐怖を感じながら振り返る。
周囲にはウィルが展開してくれた防御魔法で、竜巻のような風が起きている。
普通なら私の背後になんか近づけない。
でもいた。
オリエンタル美女の顔がそこにある。
美女の首は竜巻の強風を受け、何度も切断され、そして再生してそこにいる。
竜巻で舞う美女の血が飛んでくる。
あまりの恐怖で声が出ない。
「あ、嘘☆ ビックリ、まさかクリスの魔法がかけられているの、あなた? しかも何コレ~!? 魔力を抑えるための魔法をかけられているなんて。何、あなた、クリスに嫌われているんだ。こ~んな魔法かけるなんて、クリスってば、最高☆」
おどけるような顔をして、オリエンタル美女の顔が竜巻から消える。
消えていくその瞬間、私は顔を背けたが、全身に当たる血しぶきを感じていた。
そして。
唐突に竜巻が止んだ。
「え……」
ウィルの防御魔法が解術されている。
まだ砂ぼこりが舞う中、首に傷ひとつないオリエンタル美女が微笑んで立っている。
ウィルの姿を探すが、どこにも見当たらない。
でも、ケルベロスとキットゥが戦っているということは、ウィルは生きている。
「あらあ、あなたを守ってくれる王子様を心配しているの? 彼は最強よ~。心配するならあなた、自分のことを心配なさいよ。最弱ちゃん♡」
オリエンタル美女は親し気にウィンクをすると、キットゥの名を呼ぶ。
まるで散歩はおしまい、もう帰るわよ、という気軽さで。
「変身魔法発動 ネモフィラ、邪魔だから小さくなっておとなしくてね」
一瞬何が起きたか分からなかった。
でも気づくとオリエンタル美女がどんどん巨大化し、こちらに戻ってきたキットゥもとんでもなく大きくなっていく。周囲の草が大木に思える。
「きゃあ」
オリエンタル美女に摘ままれた。
摘ままれた上で、まるで髪飾りのように美女の耳の上にのせられた。
「クリス以来の収穫ね~。何か面白いことがないかって、毎年春になるとネモフィラの花畑に来ていたけど。とりあえず、最弱ちゃんを持ち帰れば、クリスは喜ぶ? ううん、苛立つ。戻ったら人間に戻してあげるからネ。人間になったら、苛立つクリスに喰われるといいわ。それでね、あなたの肉の一部を制服のリボンで結わいて、正門においてあげましょうか。そうしたら最強くんは悲しみそうね~。最強くんが悲しめば、あの白い軍服くんも悲しみそう。悲しみにくれる最強くんと白い軍服くんは、私がなぐさめてあげないとね♡」
オリエンタル美女はそう宣言すると箒にまたがった。すぐにキットゥが美女の肩に乗る。
ゆっくりと美女は浮上した。
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次回は「クリスの正体は?」を公開します。
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