24:甘えたいが蓄積中
ロビーに集合すると、各自、転移魔法でレイククリスタル国立公園の遊歩道入口へ移動することになる。車だと20分ぐらいかかる場所だが、みんな3年生だし、守護霊獣の干渉を受けてもOKなので、次々と移動していく。
「ミルキー、問題ないと思うけど、いざとなったらお願いね」
肩にのせたミルキーに声をかけると「キュッ」と可愛く一声鳴いてくれる。まるで「任せて」と応じてくれているようで、嬉しくなってしまう。
「転移魔法展開 方位北西 <三の陣形>」
難なく転移完了。
もし私の魔力が4月の時のままだったら……。
今頃、車で一人、移動していたところだ。
本当に、魔力が戻ってよかった。
先に転移したメグは遊歩道入口に設置された、国立公園の大きな案内版を見ている。そのメグに声をかけようとした瞬間。
「ニーナ」
ふわりとクリスに後ろから抱きしめられた。
「クリス!」
かなり抑えめの声でその名を呼び、振り返ると、クリスが優しく額にキスをして、すぐに私から体をはなす。
「すげー、空気が澄んでいるなぁ。それにブルンデルクより、もう涼しいわ」
この声はローガン!
クリスの背後にはローガンの姿が見えた。
スクールトリップの最中は、どうしたって一日中、周囲には生徒がいると思う。でもクリスは……。
クリスとは毎日のように会っている。一緒にいる時間も、みんなと共にだが、たっぷりあった。ただ圧倒的に二人きりの時間が少ない。二人きりの時間……というか、ラブラブしている時間がほぼない。
体育祭の後もすぐに中間考査に向けた勉強時間になってしまうし、その間は、クリスと二人で過ごす時間も勉強タイムに変わってしまった。もちろん、クリスは自身の部屋へ戻る前の五分間を、甘い時間に変えてくれるが……。
多分、今のクリスは私に甘えたいが蓄積されていると思う。だからこそ、転移魔法で私がメグと、自身がローガンと離れた隙に、私を抱きしめ、額にキスをしたのだと思った。
クリスがそんなにも私に甘えたい気持ちになっているなんて……もうこれは嬉しくてたまらない。
「では遊歩道の入口に集合!」
教師の声に皆、遊歩道入口に設置された国立公園の大きな案内版の前に集まった。そこで教師から遊歩道散策の注意事項が説明される。
「今、配っている羊皮紙は、表面が国立公園の地図、裏面に注意事項、今の季節見ることが出来る植物や動物について書かれています。ヒグマも目撃情報もありますが、遊歩道のところまでは出てこないでしょう。とはいえ、万が一遭遇した場合は、背中を見せて逃げないように。羊皮紙と一緒に配ったクマよけの鈴は、必ず身に着けてください」
そこで教師はこんな一言を付け加える。
「咄嗟の魔法の詠唱は難しいと思うので、その場合は守護霊獣にまかせるように。今、皆さんの傍にいる守護霊獣は、小型の動物の姿が多いでしょう。でもそれは召喚され、人と共にあるため、その姿をしているだけです。いざとなった時、召喚者と自身の身に危険が起きたと察知すれば、ヒグマ程度であれば撃退可能ですから」
そうなのだ。今、私のケープのポケットの中で愛くるしい顔で寝ているとしか思えないミルキーも。緊急事態ではその姿が変わると聞いている。いまだ、その変化する姿を見たことがない。というか、できれば見ないで済む人生を歩みたいと思っている。
「10時ぐらいになると、多くの観光客が増え、混雑しますので、道に広がって歩かないなど、コンカドール魔術学園の生徒の一人として、恥ずかしくない行動を心掛けてください。それでは各クラスのスクールトリップ実行委員のメンバーは教師の元へ、それ以外はあらかじめ決まっているグループごとに、順番に遊歩道を進んでください」
スクールトリップの最中、生徒は四人一組で行動することになっている。私は、クリス、メグ、ローガンと同じチームだ。
「ではみんな、僕達も向かおうか。ローガンと僕が先に行くから、ニーナとメグは僕達の後ろに続いて」
「僕とクリストファーがいれば、万一、ヒグマが出ても問題ないから、安心していいぞ」
クリスとローガンはそう言うと遊歩道へと進んでいく。確かに二人がいてくれれば、安心できそうだ。
「行きましょう、メグ」「そうね」
こうして遊歩道を進みだす。
最初は、どこもかしこもコンカドール魔術学園の制服姿の生徒ばかりだったが、次第にその姿もまばらになり、観光客の姿も目にするようになった。
渡された羊皮紙には五か所のチェックポイントがある。それは5つの湖の場所を示しており、そこで教師に通過チェックを受けることになっていた。そのチェックの時間帯には、目安となる時間が記載され、チェックの時間帯に通過すれば、後は自由。
じっくり景色を楽しんだり、植物を見たり、それぞれが行動することで、チーム同士で距離ができつつあった。
「早速見えてきたよ、一つ目のチェックポイント、五つの湖の一つ、レイククリスタルが」
クリスの声に左手前方を見て、「「すごい!」」とメグと二人、感嘆の声を漏らすことになる。
お読みいただき、ありがとうございます!
(*/▽\*)
次回は明日『美しい湖と沢山の生物』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































