21:心の絆
「あ、あの、フランシス王太子様はホテルに、フルータホフにいると、クラスの女子が言っていました。ビールフェスティバルで、街の中心部はどこも混んでいますよね。でもフランシス王太子様は、夏季休暇でブルンデルクに滞在し、ある程度の観光はその時に済んでいます。ゆえに今日は一日、ホテルステイを楽しむそうです」
そう教えてくれたのはエリだ。そしてフルータホフはブルンデルクで一番有名なホテルで、王都から来る要人が滞在することも多い。なんといってもこのホテルのレストランに、クリスはデートで私を案内してくれたのだ!
美しい庭園を望むテラス席でのランチは最高だった。昼間からピアノの生演奏だってあったのだから。
「そうなのか。教えてくれて、ありがとう、エリ」
オリヴァーがエリを愛しそうに眺める様子。
青春だ!
「なるほどな。グレッグは間違いなく、フルータホフにいるだろう。今頃、チェスの相手でもさせられているんじゃないか」
ウィルが言っているその可能性もあるが、フルータホフには美しいバラ園がある。今の季節、秋バラが始まっており、あの庭園はいい香りに包まれているはずだ。
庭園を散策することもできるし、フルータホフには美術館も併設されている。宿泊客なら無料で観覧できるはず。
さらにはアフタヌーンティー。ブルンデルクの上流貴族のマダムもリピートするフルータホフのアフタヌーンティーは、季節のフルーツを使った絶品スイーツを楽しめると聞いている。
多分、あのホテルに滞在し、暇になることはないと思う。
「そういえば皆さん、今日は、学校はどうしたのですか? ビールフェスティバルの期間中、学校は休みなのですか?」
オリヴァーが不思議そうに尋ねる。
昨日の夕方にブルンデルクについたオリヴァーとエリは、体育祭が行われていたことを知らなかった。さすがにニュースペーパーも買っていないのだろう。
そこでウィルが昨日は体育祭があったことを説明し、仮装のこと、その仮装が名物で今朝のニュースペーパーには皆の写真が一面を飾ったこと。今日は体育祭の翌日で休校であることを話して聞かせた。
「体育祭でニュースペーパーの一面を飾るってすごいですね! 宿に戻ったら、ニュースペーパーを探してみます!」
オリヴァーとエリは、瞳を輝かせている。
確かに王都にいたら、学生の体育祭が一面を飾るなんてあり得ないかもしれない。でもここはブルンデルク。かつては戦の激戦地だったが、今はとっても平和。仮装した生徒の笑顔が、一面を飾ることができるのだ。
何はともあれ。
フランシスとグレッグはホテルにいると分かったので、安心(?)して、その後もビールフェスティバルを楽しむことができた。
つまりは昼食を終えた後は、陽気な音楽にあわせ、ダンスを踊ったり、噴水広場全体を使った魔法のショーを楽しんだり、巨大なビール樽をモチーフにしたパレードを観覧したりで、思いっきりフェスティバルを楽しむことができた。
「皆さん、今日は本当に、楽しかったです。学生生活最後のスクールトリップのいい思い出もできました。エリと私はそろそろ宿に戻りますね」
そう言って私達一人一人に挨拶すると、オリヴァーはエリと手をつなぎ、噴水広場から離れていく。
「オリヴァーとエリ、想いが通じ合えてよかったわ。ユーリアの一件があって、二人はもうダメになってしまったのではと心配だったけど」
遠ざかる二人を見送り、しみじみそう呟くと。
「急に様子がおかしくなったオリヴァーに、エリはショックを受けたと思う。でもどこかで信じていたのだろね。オリヴァーはこんなことをする人間じゃない。何かおかしいと」
そう言うとクリスが、優しく私を抱き寄せる。
「絆ね。心の絆があったから、壊れかけた二人の関係は修復され、さらに素敵なものになった」
「うん。そうだと思うよ」
クリスが私の額にふわっと甘いキスをする。
瞬時に心が溶かされ、クリスに抱きつきそうになったその時。
「おい、ニーナ!」
「! な、なに、アミル」
「花火」
「!」
少し暗くなった夜空に花火が打ち上げられた。
夜の部がスタートし、この時間からはビールを楽しむ大人の人出が増えてくる。
「花火をしばらく見たら、僕達も帰ろうか。明日は……学校だしな」
ウィルの言葉に皆、しんみりと頷く。
魔法祭に続き、体育祭も終わってしまった。その後に待つイベント……。いや、生徒は誰一人としてウエルカムで待っているわけではないが、数週間後に中間考査が……始まる。
つまりは来週あたりから、またテスト勉強の日々になるのだ。
今のところ、学校を欠席していない。
放課後が忙しい日々が続いたが、宿題もこなし、授業の内容にもついていけている。
大丈夫。
今回は補習とも無縁で乗り越えられる。
ビールフェスティバルの陽気な音楽が聞こえる中、中間考査必勝祈願を思わずしてしまった。
お読みいただき、ありがとうございます!
オリヴァーとエリ、お幸せに☆彡
次回は明日『明けない夜はない。』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。


























































