20:聞いたことのある声
噴水広場は既に沢山の人がいる。出店の多くがオープンし、ビールや料理を求める人が列を作り始めている。ブルンデルク名物のソーセージ、揚げたてのポテト、塩漬けのニシン、ここでも玉ねぎ料理のお店も沢山あった。
ウィルを中心に作戦会議をしているまさにその時だった。
「クリストファー様、ニーナ様!」
なんだか聞いたことがある声だわ、と思い、振り返り、驚くことになる。
少し長めのホワイトブロンドの髪、通った鼻筋にグレーがかった青い瞳、透き通るような白い肌……。白シャツに深緑色のネクタイ、黒のジャケット、ネクタイと同色のセンタープレスされたズボン――すなわち王立イエローウィン魔法学園の制服を着ていた。
え、間違いない。彼は……。
オリヴァー・ヘルツシュ!
ユーリアに『叛逆の力』を行使され、十二使徒の一人にされてしまったあのオリヴァーではないか! ユーリアと対峙した時には、大活躍してくれた。
うん!
彼のすぐ隣にいる少女は……。
キャラメルブロンドのくせ毛の少女。赤いフレームの眼鏡の奥には澄んだ碧眼。控え目で優しい顔をしており、白のブラウスに深緑色のリボン、黒のブレザー、リボンと同色のプリーツのロングスカート――こちらも王立イエローウィン魔法学園の制服を着ている。
まさか……!
「お久しぶりです。グレッグ様の晩餐会でお会いして以来ですね。またお会いできて光栄です」
驚き、声が出ない私に代わり、クリスが応対してくれる。
「オリヴァー、本当にお久しぶりです。まさかブルンデルクで再会できるとは……驚きました。王立イエローウィン魔法学園の制服姿……もしやスクールトリップでブルンデルクへ?」
クリスの問いにオリヴァーは嬉しそうに頷く。
スクールトリップ、すなわち前世で言うところの修学旅行みたいなものだ。
「はい! 私達のクラスは、5泊6日でブルンデルクとレイククリスタルなんです。昨日の夕方にブルンデルクに着きました。今日一日自由行動で、ブルンデルク観光をして、明朝レイククリスタルへ向かいます」
王立イエローウィン魔法学園は、期間は学年で統一されていたが、クラスごとで、スクールトリップの行き先が違っていた。
「やあ、オリヴァー、久しぶり」
「ウィリアム様! お久しぶりです!」
「立ち話もなんだ。君達はスクールトリップでここに来たということは、今は自由行動でここにいるのだろう? だったら時間はまだあるはず。どうだろう? 料理でも食べながら少し話せないか。ここにいる仲間も紹介するし、そちら彼女のことも紹介して欲しい」
ウィルの提案にオリヴァーの顔は輝き、隣にいる女生徒に声をかける。彼女は礼儀正しくお辞儀して、皆で食事することに同意してくれた。
こうして席を確保し、皆でシェアできるよう、一人一品の料理を調達し、着席することになった。護衛の騎士も少し離れたテーブルに着席し、こちらを見守ってくれている。
まずはそれぞれの自己紹介になった。予想通り、オリヴァーと共にいた女生徒はエリだった。
ユーリアの『叛逆の力』から解放されたオリヴァーは、グレッグの協力もあったのだろうか。エリに自身の気持ちを伝え、二人は恋人同士になっていたのだ……!
エリは自分の恋人であるとオリヴァーが説明した時。エリは眼鏡の奥の碧眼をうるうるとさせ、頬を真っ赤にし、実に可愛らしかった。一時はとても辛い思いをしたに違いないが、両想いになれてよかったと、思わず私も笑顔になってしまう。
エリの紹介の後は、ジェシカとアンソニーを紹介し、そして今は――。
「なるほど。ブルンデルクでビールフェスティバルをやることを知って、ここにすると決めたのかい?」
揚げたてのポテトを食べながら、クリスがオリヴァーに尋ねた。
「多分、ブルンデルクを提案した生徒は知っていたと思います。って、それはグレッグ様なのですが」
オリヴァーはブルンデルク名物の、ピリ辛のソーセージを食べながら答える。
……! 行き先でブルンデルクを選んだのは、グレッグだったのね。
「なるほど。グレッグだったらきっと、ビールフェスティバルのことも折り込み済みだろうね。レイククリスタルで行われる気球フェスティバルのことも、踏まえていそうだ」
クリスの言葉にアミルが反応した。
「じゃあ、グレッグも近くにいるのか?」
ユーリアとの一件で、アミルとグレッグは仲良くなっていた。またグレッグに会えるのかと、アミルは嬉しそうな顔になっているが……。
「どうでしょう……。彼はフランシス王太子様と一緒に行動していると思いますが、ビールフェスティバルはあまりに人が多いので、別の場所を観光しているかもしれません。警備上の問題で」
そうだった。グレッグとオリヴァーはクラスメイトだが、そのクラスにはフランシスもいた……! やたらと私に絡むフランシスには近づかないに限る。警備上の問題でここにいないことに、少し安堵してしまう。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日『心の絆』を更新します。
ほんわか幸せエピソード。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































