16:ご褒美
今日は屋敷に戻ると、みんなまず入浴となった。
一日頑張ってくれたユニフォームを脱ぎ、湯船につかると、「はあ~」と思わず声が出てしまう。お湯の温かさに心身共に癒される。さらにホワイトティーの香油を入れているので、爽やかでほんのり甘い香りがバスルームに漂っていた。お気に入りの香りに包まれた入浴は、とても心地良い。
髪も洗い、さっぱりして、ワンピースに着替えた。
ホワイトリリー色のワンピースは、ウエストのリボンと飾りボタンが濃いラベンダー色。裾と袖のフリルは、淡いラベンダー色になっている。髪はポニーテールにして完了だ。
夕食では、体育祭の話題で盛り上がった。
ウィンスレット辺境伯は、1位ゴールで獲得したコインサイズのメダルを見せてくれる。ウィンスレット辺境伯夫人は、昼食タイムに参加したダンスで、ラベンダーのポプリをもらったという。
アンソニーは、仮装で着ていた東の国の着物をあれだけ用意できたのは、同じクラスに貿易商で財を成した、ハイネン伯爵の次男がいたからだと明かしてくれた。ハイネン伯爵は東の国とも取引があり、丁度、積み荷がブルンデルクに届いた。そこで着物を手に入れ、手分けしてサイズ調整したという。
文化的な価値もあるということで、仮装で使った着物は、学園で展示されることも決まったそうだ。
ちなみにジェシカが仮装でつけていた花冠は、なんとウィルの手作り! しかも王宮の庭園から取り寄せた珍しい花ということで、ジェシカは花冠をガラスケースに飾り、プリザーブドフラワーにするつもりだという。
そんな話を聞きながらの夕食は、とても楽しかった。
部屋に戻った私は、楽しい気持ちのまま、クリスが部屋に来てくれるのを、ミルキーと共に待っている。すると普段より15分も早く、クリスが部屋にやって来てくれた!
「ニーナ!」
部屋に入るなり、クリスは熱烈に私を抱きしめる。もうずっとクリスは私に甘えるのを我慢していたから。会うなり既に溺愛モードが全開になっている。いつになくぎゅっと強く抱きしめるクリスからは、大好きな透明感のある清楚な香りがしていた。
「ねえ、クリス、まずはソファに座りましょう」
「そうだね」
クリスはそう返事をしているけど、私から体をはなす気配はゼロ。銀狼はとっくにソファの定位置に陣取り、ミルキーがピッタリ寄り添っている。
結局、扉の前でしばらくの間、抱き合った状態が続いた。
ソファに腰をおろした後も、すぐにクリスは私を抱き寄せる。もう時間が来るまで私を手放すつもりはないという、強い意志が感じられた。そんな私ラブなクリスに、どうしたって頬は緩んでしまう。大好きな相手から、最大限に好きをアピールされているのだ。もう幸せ過ぎて全身が喜びで震えている。
「今日の体育祭。頑張ったニーナにご褒美だよ」
そう言ったクリスがラベンダー色のシャツのポケットから取り出したのは、金メダル。コインぐらいのサイズのメダルだが、ちゃんとリボンもついている。
「クリス、これは……?」
「ニーナは今回、『仮装400メートルリレー』の走者に、名前が一度はあがったよね。でも僕が先に走者に決まっていたから、裏方に回ると走者を辞退した。せっかく学生生活最後の体育祭で、しかも走者に名前があがるのは初めてだったのに」
それは……確かにそうだった。
でも私の名前が出たのは、クリスが走者に選出されていたので、みんな気を使ってくれたからだと思っていた。それにクリスが仮装するなら、それを手伝おうという気持ちの方が強かっただけなのだけど……。
「東の国に『内助の功』という言葉があるって知ったよ。ニーナはまさに、走者に選ばれた僕をサポートするため、裏方に回ってくれたんだよね。ニーナのおかげで、1位になれたと思う。ありがとう、ニーナ」
クリスはそう言うと、そのメダルを首にかけてくれた。
「……! クリス、ありがとう! 私はそこまでのことしていないのに。それに今回の仮装はメグ、ローガン、ヘクターのみんなで頑張ったから」
「うん。それは知っている。でもニーナがあのふさふさの尻尾のために、群を抜いて頑張ってくれていたことも知っているから。本当に、ありがとう、ニーナ」
それは……確かに頑張った。でも、それには不純な動機が……。
あのもふもふの尻尾をつけるクリスに、私が萌えたかったからで……。
「でもニーナは不思議だね。獣耳と尻尾があるだけで、あんなに喜ぶなんて」
「そ、それは……」
確かにそうなのだ。なぜ、あんなにテンションが高くなってしまうのか。その理由は自分でも分からない。分からないが、狐耳と尻尾、狼耳と尻尾、さらには眼鏡で白衣のクリスに、とんでもないほど、気持ちが盛り上がってしまうのだ!
「僕はどうしてニーナがあんなに喜ぶのか理解できないけど……」
そこでクリスは「思いついた!」という表情になり、私を見る。私は「?」とクリスを見上げる。
「ニーナも獣耳と尻尾をつけてみればいいんだね! そうすればニーナがなぜあんなに大喜びするのか、その理由が僕にも分かるかもしれない」
「え!?」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日『ご満悦』を更新します。
クリスの思い付きは……。
引き続きよろしくお願いいたします。
本日も誤字脱字のご連絡いただいた読者様、ありがとうございます!


























































