15:最後の体育祭
結局アミルはドラゴンの着ぐるみ姿でありながら、それでも5位。
コックとメイドの走者もなんとかゴールし、『仮装400メートルリレー』は無事、終了した。終了と同時に、投票が始まり、走者との記念撮影会も行われている。学園が手配したカメラマンに、仮装走者と写真を撮ってもらう者もいれば、自身で手配したカメラマンに撮影させる者など、もうそれは様々。
クリスの前には長蛇の女子の列ができ、それはアンソニーとウィルも同じ。意外だったのは、アミルの前に男子生徒の行列ができていること。あの炎のパフォーマンス、そして順位を気にせず、堂々とトラックを進む様子が、男子生徒のファンを作ったようだ。ジェシカの前にも男子生徒の行列ができており、こちらはユニフォームへのサインを求める男子生徒までいた。
この写真撮影タイムと投票時間の間をもたせるため、恒例の教師によるパフォーマンスが始まった。
普段は真面目に授業を教えてくれる教師陣が、情熱的なラテン系のダンスを披露してくれるので、もうみんな投票そっちのけになりそうになる。
こうして30分近く、競技は中断されたが、やがて再開となった。私も追いかけ玉入れや100メートル走に参加した。
その間に仮装の各種投票の集計も行われ、クラス対抗のスコアの集計も進んでいる。
夕方、いよいよ表彰式だ。
この時間になると、みんないい感じで疲労がたまり、またいろいろとやり遂げたという達成感で、満たされることになる。
「ニーナ、こんな楽しい体育祭は初めてだよ。とても充実していたね」
「ええ。クリスのもふもふも素敵だったし、最高だったわ」
すっかり気が緩み、クリスに肩を抱き寄せられ、体を預けてしまっていた。でもそんな風に肩を並べているカップルは、結構いる。
そうしているうちにも表彰式が始まった。
校庭には教師陣の魔法により、全校生徒分の椅子が用意されている。そこに着席すると、体育祭実行委員長が『仮装400メートルリレー』に関する賞を、次々に発表していく。
まずは1位にゴールをした私達のクラスが表彰され、その場で全員が立ち上がる。表彰状とトロフィーは、クリスが代表して受け取る。
「やったね!」「やったな!」
ハイタッチをして、みんなで喜ぶ。
続いて、仮装に対する生徒の人気投票による結果として「優秀賞」が二組で、選ばれたのはジェシカとアミル。「最優秀賞」はクリスだ。
ジェシカが賞状とトロフィーを受け取る時は、男性陣が熱心に拍手をしている。アミルが賞状とトロフィーを受け取ると、ドラゴンの鳴き声を真似た声が聞こえたり、炎の「ゴーッ」という音を再現したりする男子生徒が沢山いた。
クリスが賞状とトロフィーを受け取る時には、女生徒から「可愛い~」「もふもふ~」という声援と拍手が起きている。
ニュースペーパーのカメラマンが選ぶ「ベスト仮装大賞」に選ばれたのは、アンソニーのクラスだ。東の国の服飾文化を紹介する仮装になっていたところが評価された。明日のニュースペーパーの一面には、仮装した走者四人と、クラスの全員の写真が掲載される。
最後に教師陣が選ぶ「特別賞」に選ばれたのは、ウィル。これにはとんでもない理由がある。というのも、ウィルはポセイドンに扮し、代表的な武器である三叉槍を持っていた。
ただ、どう考えてもバトンを持ち、この三叉槍を持って走るのは……走りにくい。そこでウィルは三叉槍を……投げた。やり投げの要領で三叉槍を、ゴールの誰もいない場所に向けて投げたのだ。
その飛距離は100メートル近い。
ある意味、三叉槍は誰よりも早く、ゴールをしていたことになる。
そもそもそんな飛距離でレプリカとはいえ、投げるなんて尋常ではない。勿論、魔法は使っていない。類まれな運動神経を認められての「特別賞」だった。
ウィルはまさかこんな理由で「特別賞」をもらうことになるとは思っていなかったのだろう。困惑しながらも賞状とトロフィーを受け取っていた。
その後、クラス対抗スコアを集計した結果、2年生の黄色チームが優勝し、体育祭は閉幕となった。
表彰された生徒やクラスは、学園が手配したカメラマン、ニュースペーパーのカメラマンによる写真撮影となる。それ以外の生徒は、父兄と共に、後片付けだ。
写真撮影が終わると、全員が後片付けに取り組む。魔法を使ってOKだったので、あっという間に校庭は普段の姿に戻っていく。ちなみに正門などの各種門の片づけは、教師が行ってくれることになっていた。
「体育祭、終わってしまったね。アミル様は来年、再来年も体育祭に参加できるけど……。僕達が体育祭にもし参加するとしたら……みんな、お父さん、お母さんになった時かな」
アンソニーの言葉に胸がジーンと熱くなる。
そうなのだ。
アミル以外はみんな三年生だから。
これが学生生活最後の体育祭だった。
私は運動が得意というわけではないので、体育祭が大好き!というわけではない。それでもクラスのみんなと一丸になり、頑張れる体育祭は、嫌いではなかった。
何より前世で経験した体育祭と違い、運動の得意・不得意には関係なく、活躍できる競技が多いこともよかったと思う。綱引きしかり、追いかけ玉入れしかり。
だからその体育祭が、来年はもうないと思うと……。
「安心しろよ、みんな。オレが生徒会長になったら、父兄参加の競技だけじゃなく、卒業生が参加する競技も作るから。そうしたらみんな、体育祭、顔をだしてくれよ」
アミルの言葉にみんな笑顔になる。
いつの間にアミルは、生徒会長になることを考えていたのかしら。みんなのしんみりした気持ちを明るくさせるようなことを、アミルはいつ思いついたのかしら。
本当に。
アミルは変ったと思う。
こうしてすべて終え、馬車に乗り込むと……。みんな、屋敷に着くまで爆睡だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
体育祭は無事終了~☆彡
次回は明日『ご褒美』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。
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台風の影響が出ている読者様、もしもの備えで万全に!

























































