9:五・四・三・二・一!
クリス扮する皇帝ユリウスと、私が演じる聖女マグノリアの魔法合戦が繰り広げられる中、大魔法使いマンハイムはクリスタルを探す。
その探索の様子はとにかくコミカルにしたので、魔法合戦の合間に、笑いも起こる。
「えええい! 忌々しい者たちめ。ちょこまか、ちょこまかと動き回り、我の魔法をことごとく妨害する。これ以上の冒涜は許さん!」
もう、クリスは完全に皇帝ユリウスにしか見えない!
観客も同じようで、美貌の皇帝に胸キュンなのだが、倒さなければならないとみんな手に汗を握っている。
「闇魔法発動 暗黒陥落 <七の陣形>」
皇帝ユリウスの魔法の詠唱と同時に、観客席からは驚きの声と悲鳴が起き、会場は暗転する。あり得ない七の陣形、その上での真の闇。
どうなるのかという観客の想いがピークに達したその時。
「光魔法発動 暗黒反転 <七の陣形>」
私の魔法の詠唱に拍手と口笛が沸き起こる。
ステージを中心に光が射すが、それはまだ弱い。
「皆さん、闇魔法を打ち消すために、力を貸してください!」
大魔法使いマンハイムに扮したメグが、観客席に呼びかける。
「私の合図で、光魔法をステージに向け、発動してください!」
メグはそう言うと、ひと際大きな声でカウントを始めた。
「五・四・三・二・一! 光魔法発動 暗黒反転 <五の陣形>」
すると。
観客席から次々と光魔法を発動する声が聞こえる。
みんな魔法を使ってくれるかしら?
とてもドキドキしていたが、ちゃんと反応してくれた!
これにはもう、嬉しくなってしまう。
みんなの魔法を受け、ステージは一斉に明るくなり、音楽が流れ、会場の明かりが灯された。
ステージでは、皇帝ユリウスに扮したクリスが倒れ、その傍らにはクリスタルを手にした大魔法使いマンハイムのメグ。そしてメグに抱きつく私。
観客席から拍手喝采、スタンディングオベーション!
大成功だった。
◇
私達の『魔法披露』の後、観客席の興奮は収まらなかった。演劇を上演したわけではないのに、カーテンコールのように二度ほどステージに三人で登場することで、ようやく観客が席に腰をおろしてくれた。
ホールの外で待っていてくれたウィル、ジェシカ、アンソニー、アミル、セリーヌも、私達と合流すると称賛の声をかけてくれる。
「まさか観客を丸ごと巻き込む『魔法披露』を思いつくなんて。これ、絶対、クリスの発案だろう?」
ウィルの指摘に私が頷くと、ジェシカは……。
「もう、光の魔法を使う時、涙が出そうでしたわ! 絶対に皇帝ユリウスに負けないって!」
ジェシカはまだ、興奮冷めやらないようだ。
「頭上で確かに風を感じ、雷鳴を聞いて、水を見たのに。一切、服が濡れることもありませんでした。あれ、全部、幻影魔法だったのですか?」
アンソニーの問いにクリスが「そうだよ。みんなの服が濡れると困るからね」とニッコリ笑うと……。「……クリストファー様、やはりあなたでしたか。あれ、五の陣形の幻影魔法ではないですよね?」そう言って絶句している。きっとこれでまたアンソニーは、魔法の腕を上げるだろう。
「オレ、光の魔法は二十の陣形で発動したからな。オレ、闇魔法を打ち砕くのに、かなり貢献したよな? な、そうだろう、クリス!」
ジェシカと同じぐらいまだ興奮しているアミルが、クリスに問いかけると……。
「うん。アミル、助かったよ。ありがとう」
クリスが「よし、よし」とアミルの頭を撫でている。そしてクリスに頭を撫でられたアミルはもう純粋に「よっしゃ!」と喜んでいた。
クリスとアミルってこんな関係だったかしら?と私は不思議な気持ちになる。そんな私とメグにセリーヌは「素晴らしい『魔法披露』でしたわ。感動しました!」と声をかけてくれた。
「みんな、魔法を沢山使っただろう。お茶でもしながら甘い物でも食べよう」
ウィルの提案にみんな賛成で、屋台へと向かった。
ひと際賑わっている屋台があり、何を売っているのかと思ったら、干し柿! 東の国からの舶来品ということで、そのまま丸ごと一つの販売に加え、食べやすいサイズに刻んだ干し柿を、シュークリームのクリームに混ぜたものが販売されている。
確認すると、みんな柿のことを知らないという。
ならばと、私とクリスで干し柿を販売する屋台に並び、他のみんなは飲み物、焼き菓子のお店に分散して並ぶことになった。
「ニーナは干し柿のこと、知っていたの?」
「ええ、勿論よ、クリス。柿が、日ほ……東の国ならではのフルーツだとは、知らなかったけれど。水分が完全に抜け、硬い干し柿も多いの。でも柔らかくて、綺麗な色に発色した干し柿は、本当に甘くて、口の中でとろけるの。クリスにはいつかそんな干し柿を食べさせてあげたいわ」
「それはなんだか美味しそうだね。ニーナ、また僕と東の国に行くかい?」
クリスは、ここが学校であることを忘れてしまったのかしら!? さっき、皇帝ユリウスを演じたとは思えない甘々な声で私を抱き寄せ、耳元で素敵な声で囁いている。
「ねえ、僕と東の国に、もう一度行きたい?」
「も、もちろんよ。クリスと一緒に旅行したいわ……」
あ~~~、そんな風に囁かれたら、理性が、理性が、理性がーーー。
そう思ったら、脚をビシッと叩かれ驚くと。
プラジュがてくてくと人混みの中を歩いていく。
その先には顔を真っ赤にして、メグと行列に並んでいるアミルが見えた。
あ、見られていたのね。
恥ずかしくなり、視線を逸らすと、こちらを見上げる銀狼とミルキーとも視線があう。
う、みんな見ていた。
なんとかデレ顔をおさめ、気合いを入れ、干し柿を手に入れた。
こうして飲み物とスイーツを手に入れ、魔法祭の午後のひと時、楽しいティータイムをみんなで楽しんだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
魔法披露は大成功でした☆彡
次回は明日『●●風クリス』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。


























































