6:アンソニーの『魔法披露』
3年生による『魔法披露』は順調で、既に二十組の披露が完了している。さすが3年生。魔法のレベルはかなり高いと思う。今見た全員が、五の陣形で魔法を展開している。
「ニーナ、間もなく僕の番だよ。なんだか緊張するな」
アンソニーが舞台袖にやってきていた。
「アンソニー! 大勢の前で何かするのは、慣れているはずよね。それでもやっぱり緊張する?」
「そうだね。魔法を使うから、うまく発動しなかったらって、こればっかりは緊張するよね」
何事もそつなくこなし、人前でも落ち着いて行動できる未来の辺境伯であるアンソニーだったが。そうか、そのアンソニーでも緊張するのね。
クリスが次々と名前を呼びあげ、メグと私で誘導を行う。
そして、ついにアンソニーがステージに立つ。
アンソニーのファンは学園内に沢山いる。登場と同時に拍手と悲鳴が沸きあがる。その拍手と悲鳴に応え、アンソニーが手を振ると、さらに拍手と悲鳴が倍増した。でもすぐ、司会者が開始を伝え、音楽が流れ出す。
すると。
アンソニーは魔法で、人を作り出した。
人、と言っても、それは水を人の形にしたもの。
長い髪、裾に向かい広がるドレス。
どうやら令嬢だ。
水で出来た令嬢と、アンソニーはダンスを始める。
ダンスをしながらさらに魔法を使い、踊る二人の周りでは、シャボン玉が飛び交い、光が煌めく。
これはかなり高度な魔法の使い方と言えた。
まず自身はダンスをしている。
その上で、水で出来た令嬢の形を維持し、ダンスさせていた。さらにシャボン玉や光を魔法で出現させている。複数の魔法の同時進行。しかもそれはすべて完璧だった。
アンソニーは性格も真面目で勤勉なので、覚えた魔法の一つ一つの精度が高い。それだけ使う魔法への集中力も相当なもの。その分、複数の魔法の同時進行はあまり得意としていなかった。
その一方で。
クリスは、精度の高い魔法を複数で同時進行させるのもお手の物。それをアンソニーが目の当たりにしたのは、私がアミルにさらわれた時のことだ。
砂漠の町でクリスは、魔法を使えない部屋に閉じ込められた私のことを、追跡魔法で追い続けていた。でも追跡魔法を使っているとアミルにバレないようにするため、さらに魔法を使い、かつ部屋にかけられた防御魔法に検知されないよう、追加で魔法を使っていた。
とにかく通常では考えられない数の魔法を、同時進行で展開させていたことを知ったアンソニーは……間違いなく驚いていた。そしてあの時、アンソニーはこう言っていたのだ。
――「ありがとう、ニーナ。僕もそう思う。むしろ二人から学んで、自分を成長させたいと思っているよ」
そう。
アンソニーは有言実行だった。苦手としていた魔法の同時進行を克服した。しかもそれぞれの魔法の精度を維持したまま。
「次、ユーリとアヤ」
クリスの声にステージから離れ、ユーリとアヤを誘導する。
同時に大歓声が沸きあがった。
素早くステージを見ると、水の令嬢が消えている。
キラキラと水が煌めき、切なさそうなアンソニーの顔が宙を見つめていた。
すごなぁ。
魔法も完璧だったが、演技もパーフェクト。
水の令嬢に恋をして、素敵なダンスを一曲踊った。でも彼女はそのダンスを終えると姿が消えてしまった――そんなストーリー仕立ての『魔法披露』だったわけだ。
切なそうなアンソニーを見て、涙ぐむ女生徒も続出し、音楽が終わると割れんばかりの拍手が起きている。
ソロでここまでの大歓声は本日初。
次にステージへ向かうユーリとアヤの顔は緊張を通り越し、もはや無表情になってしまっている。
それは……そうだろう。
大勢の前での『魔法披露』。
ただそれだけでも緊張する。
それなのに順番はあのアンソニーの後。
アンソニーは生徒会長もしており、辺境伯家の嫡男。
コンカドール魔術学園の生徒であれば、彼を知らないなんてないはずだ。
その上で、この完璧なまでの魔法と演技。それに応える観客の声援と拍手。この後、ステージに向かうのは、とんでもない勇気を要すると思う。
「ユーリ、アヤ、大丈夫。君達二人は、自分達の頑張った成果を披露すればいい。誰かと比べるのではなく、ただ自分達がやろうとすることを観客に見せる。それだけを考えて、余計なことは気にしない。いいね?」
クリスが二人を励ますと……。
やはりクリスの言葉は魔法だ。
ユーリとアヤは、クリスの言葉に頷き、顔に表情が戻って来た。
二人は手をつなぎ、ステージへと向かって行く。
その直後。
「さすがだな。未来の辺境伯は。一体あの令嬢、誰をイメージしたのか」
「お兄様ったらあんなロマンチストだったなんて、ビックリでしたわ」
舞台袖に目を戻すと、そこには……。
「ウィル! ジェシカ! 二人もそろそろ出番なの?」
「ああ、間もなくだ。誘導で忙しいかもしれないが、チラチラと見てくれよ」
ウィル、ジェシカ、そしてセリーヌ。
三人は、制服姿で『魔法披露』を終えたアンソニーと違い、ウィルは緑のフード付きのマント、ジェシカは白のフード付きのマント、セリーヌは赤のフード付きマントを、制服の上から着ていた。
一体、どんな『魔法披露』を行うのだろう――?
お読みいただき、ありがとうございます!
アンソニーは誰を思いながら魔法披露を行ったのでしょう……!
次回は明日『ウィルとジェシカの「魔法披露」』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































