4:ニーナ不足で我慢ができないよ
屋敷に帰宅した後は、夕ご飯までの短い時間を使い、皆で宿題となる。魔法祭が終わるまではおやつはなしとなるが、仕方ない。空腹を誤魔化すようにとにかく宿題を終え、夕食となる。
夕食を終え、部屋に戻ると、ソファに座り思いっきり寄りかかって「はぁー」と息をついてしまう。せわしなく動いているので、制服から着替えてもオシャレがまったくできていない。一応、アイリス色のワンピースに着替えているが……。
この後、せっかくクリスが部屋に来てくれるのだ。
髪をポニーテールでまとめることにした。
よし。できた。あ、白のレースのリボンもつけてみようかしら。
ミルキーはクリスのお手製オルゴールのそばで、鼻をふんふんさせている。
そこでノックの音が聞こえる。
クリスだわ!
大喜びで出迎えると、「ニーナ!」と笑顔のクリスが全力で私を抱きしめてくれる。クリスの透明感のある清楚な香りを感じ、全身が喜びで満たされた。
「ニーナ、僕のためにオシャレをしてくれたの?」
笑顔のクリスが私から体をはなし、ポニーテールのリボンに指で触れていた。
「髪をアップにしただけよ。魔法祭までの5日間は忙しくて、ゆっくりオシャレもできない。これぐらいで申し訳ないわ」
するとクリスはいとも簡単に私を抱き上げ、そのままソファへと向かう。こんな風に抱き上げるなんて、学校ではできない。だから嬉しくなり、クリスの首に腕を回し、自分から抱きついてしまう。
「これぐらい、なんてことはないよ、ニーナ。僕のことを思って、オシャレをしてくれる。その気持ちだけで、僕は満足だよ」
も~、クリスは!
なんて素敵なことを言ってくれるの。
嬉しくてキュンキュンしてしまう。
ゆっくりソファへと私をおろしたクリスは、今度はこんなことを言って私を困らせる。
「夏季休暇の間は、ニーナと一緒にいられる時間があんなにあったのに。学校が始まったらニーナとの時間が少なくて……。僕はニーナ不足で我慢ができないよ」
「でもクリス、学校でもクラスが一緒なのよ。放課後も一緒に共演について考えたでしょう? 帰りの馬車も一緒で、宿題をする時も一緒だったわよね。夕ご飯は別々だったけど。それに登校の馬車も、昼食も休み時間も、ずっと一緒だったわよ、クリス」
するとクリスが珍しく、「それでは不満だよ」という、なんとも可愛い表情で私を見た。
「確かにニーナとみんなと一緒にいる時間は沢山ある。それにクラスは一緒だけど、僕はニーナより前の席だから、ニーナのことが見えない。……ニーナは僕の背中が見えるのだろうけど……。僕はもっとニーナと二人きりでいたい……」
そう言ったクリスは私を抱き寄せ、銀狼みたいに鼻を私の頬へと摺り寄せる。本物の銀狼はとっくにミルキーと再会し、ソファの足元で丸くなっていた。
あああああ!
な、なんて可愛らしいの、クリス!
こんな風に甘えられたら、甘えられたら……。
もう悶絶死しそう。
確かに一緒にいる時間は長いが、こうやって抱きしめたり、二人きりになれたりする時間は圧倒的に少ない。それでも授業も魔法祭の準備も宿題も忙しいから、寂しいとかもっと甘えたいとか、考えている余裕がなかった。
でもクリスはいろいろなことを落ち着いて俯瞰して見ているから。きっと忙しくて、てんぱることもないのね。
「ニーナは寂しくないの?」
「え?」
「僕と二人きりでいたくはない?」
ク、クリス、あなたは……。
もう確信犯だわ。
抱き寄せた上で、こんなに可愛らしく鼻をすりよせて、至近距離で。甘々声でここまでの台詞を言われ、否定の言葉なんてでるはずがない!
「私もクリスと二人きりの時間がもっとあったらって思うわ」
「本当に?」
「本当よ」
「じゃあ、ニーナも甘えて」
も~~~! クリスってば!
「ニーナも甘えて」なんて!
なんて、なんて、甘美な響き。
たまらないわ……。
「……どんな風に甘えればいいのかしら?」
私の問いかけにクリスは甘い笑みを浮かべ、自分と同じように鼻を摺り寄せて欲しいと、なんとも愛らしいおねだりをした。
鼻を摺り寄せる。まさに銀狼ね。
うまくできるかしら?
そう思いながら、自分の鼻をクリスの鼻に摺り寄せると。「ニーナ、可愛い!」とクリスは大喜びで私を抱きしめる。
クリスは銀狼と同化していた時間が長かったから、狼がするような行動が身についてしまったのかしら? こんな風に鼻を摺り寄せただけでご機嫌になれるなんて。
でも。
これ、やってみると二人の距離はグッと縮まるし、しっかりスキンシップしている気持ちになれる。それに……。
ふわっと優しくクリスにキスをすることもできた。
だって距離が近いから。すぐそこにクリスの唇があったから!
これにクリスは感動し、「ニーナ、本当に可愛いな。もう離したくない。大好きだよ」と完全に溺愛モードに突入していく。
砂糖菓子みたいに甘い時間が流れていく――。
お読みいただき、ありがとうございます!
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次回は明日『魔法祭』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































