3:人気者は大変
アンソニーが3年生になったら。魔法祭では大変なことになるだろうと私は予想していた。だって。レストルームでこんな女子の会話を何度も聞いていたからだ。
「私、3年生になったら、魔法祭でアンソニー様に共演を申し込もうと思っていますの」
「え、そうなのですか! 実はわたくも。共演は3人一組。一緒に申し込みましょう!」
「ええ、ぜひ、そうしましょう! そのために魔法の腕をあげないとですわね」
こんな会話を繰り広げる女子を、私は何十人も見てきた。そして間違いない。アンソニーは沢山の3年生の女生徒から、共演の依頼を受けたはずだ。その中で、たった二人を選ぶのは難しい。しかも選ばれなかった女生徒は嫉妬する可能性もある。
その結果。
アンソニーはソロでの披露になったと思う。というか、ソロで披露が基本だから、別にソロでも変ではないのだけど。
それにしても。
アンソニーでもそれだけの人気なのだ。ウィルにも共演を申し込む声は相当あったと思う。もしかするとウィルは。魔法祭のことを知ったその瞬間から、ジェシカに共演の相談をしていた……とか? だから女生徒に声をかけられても「既にずっと前から決まっているんだ。ごめん」なんて感じでかわした可能性もある。
ジェシカは辺境伯家の令嬢で、ブルンデルクの上流階級の中でダントツの知名度があった。そしてこの愛らしい容姿で優しい性格。ジェシカがウィルと共演を組むと知ったとしても、女生徒は文句なんて言えないだろう。
これもジェシカの人徳よね。
そんなことを思っているうちに学校についた。
◇
「7分間の構成は、今言った感じでいいかな?」
「すごくいいと思うわ!」「いいと思います。で、でも……」
放課後の教室で、クリス、メグ、私の三人は、魔法祭で披露する共演について、構成を考えていた。同じく共演に取り組む生徒が何組か、教室に残っており、同じように構成について頭を悩ませている。ソロの生徒は既に練習中だ。
「メグ、大丈夫よ。クリスも私もメグに向けて魔法は使わないから。それにメグも自身に防御魔法を使うのだから」
「それは分かるわ、ニーナ。でもこれだとまるで……私が主役みたいだわ」
「そうよ。メグが主役なの!」
今回の共演の基本的な構成は、私とクリスの魔法合戦で、メグはそこに巻き込まれ、様々な魔法を駆使し、行き交う魔法を防御する。三人ともがそれぞれ魔法を使うので、それぞれの魔法を披露できた。
ただ、構成上、メグが主役という立場になるが、それで問題ないとクリスも私も思っていた。
「でも、私は主役というタイプではないわ。どちらかというと、脇役。いえ、脇役とも言えないわ。端役。そう端役が私にはピッタリよ」
メグはそう言って謙遜するのだけど。私は全然、そんなことないと思っている。
メグの髪はキャラメルブロンドで綺麗にウェーブしている。くりっとしたオレンジ色に近い瞳で、そばかすだってチャームポイント。小柄で、顔も小さく、ぎゅっと抱きしめたくなる可愛らしさなのに。本人はいつだって控え目で、性格も大人しい。
「メグ、それは違うよ。君は十分に主役もできるのに遠慮しているだけだと思うよ。でも今回、立ち位置としてはメグ、君が主役に見える。でも僕もニーナも主人公のつもりでステージに上がるつもりだから。なぜならこれは三人の共演だからね。あまり自分のポジションを意識せず、観てくれる人を驚かせ、喜ばせることを考えてやっていかないかい?」
クリス!
なんて素晴らしいアドバイス。ツボを抑え、前向きな気持ちにさせてくれると思う。チラッとメグを見ると「なるほど……!」と納得してくれている。
「今日はもう時間がないから、流れと台詞を覚えることにしよう。明日からは、ホールか校庭で魔法の練習もしよう」
そう言うとクリスは、共演の構成をメモした羊皮紙を魔法で複製し、メグと私に渡してくれる。下校時間になるまで、全体の流れと台詞を覚え、自分が使うことになる魔法をイメージした。
下校時間になると、いつものメンバーで集合し、馬車に乗って帰宅となる。1年生は当日こそ時間の自由がきくが、今はとても忙しい。というのも魔法祭を告知するポスターを手作りし、手分けして街のあちこちに掲出したり、チラシを配布したりと言った役目を担っているからだ。他にもいくつかの門の飾りつけ、ステージを整備するなどやることは盛り沢山だ。
「オレのクラスはかなり楽できているぞ。魔法祭の準備で魔法の使用は禁止されていないからな。ポスターはもうブルンデルク中に掲出したぞ」
確かにアミルのクラスは準備でかなり楽ができていそうだ。それにアミルの言う通り、魔法の使用は禁止されていない。ここはアミルに存分に活躍してもらい、魔法祭を広めてもらおうと思った。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日『ニーナ不足で我慢ができないよ』を更新します。
なんだかクリスが甘えたいモードのようです!
引き続きよろしくお願いいたします。

























































