2:これは嘘である。
「え、ウィルは召喚を披露するのではないの!?」
魔法祭の準備期間は5日間しかない。
1日目は2年生の多くの生徒が、何を披露するか考えて終わる。2日目から練習開始。そして今日はその2日目の朝。通学する馬車の中だ。
いつも通り、銀狼は端で丸くなり、ミルキーは私の膝の上。ジェシカのスノーボールも彼女の膝の上で目を閉じ、大人しくしている。プラジュは銀狼の対面で香箱座りをしていた。
魔法祭でどんな魔法を披露するか、と話していると、ウィルは……。
「うん。僕はジェシカと、ジェシカの友人のセリーヌと共演をすることにした。召喚は……一応教師に確認した。でも僕が召喚する霊獣は、前例がないものばかり。職員会議になった。結論としては、フェニックスとかドラゴンがステージに現れたら大変なことになるから、止めて欲しいと言われたよ」
ウィルのこの言葉には苦笑するしかない。前例がない。それはそうだろう。コンカドール魔術学園はブルンデルクの上流貴族のご子息・ご息女が通う学校ではあるが。現役の王族の王子が入学しているなんて前代未聞。しかもウィルが召喚する霊獣は、コンカドール魔術学園に通う生徒が召喚できる類ではない。
クリスやアミルだったら召喚できるかもしれない。でもクリスは召喚より魔術勝負なタイプ。アミルが召喚するのはアンジェラ譲りの毒持ちのヤバイ霊獣で、ウィルとは別の意味で教師からストップがかかりそう。とはいえアミルはまだ1年生。今回は大人しく「感動する」ことがお役目(?)なのだけど。
「なんでオレは見ているだけなんだよ! オレも魔法を披露したいのに!」
アミルは私達が共演するとかどんな魔法を披露するかと話す中、自分が見学しかできないことに、かなり不満なようだ。自身が魔法を披露するなら、母親であるアンジェラやその婚約者であるベルディム王太子を招待することも考えていたらしい。でも自分の見せ場がないと知り、それは諦めたようだ。
「アミル様、本当に申し訳なく思います。でも学園の方針で、1年生は入学し、授業を受けた期間も4カ月程度。そんな状態での魔法の披露は難しいと判断しているのです。来年になれば魔法を競うということで『魔法競技』に出場できますから」
アンソニーは、コンカドール魔術学園で生徒会長をしている。だからって魔法祭の方針の責任が、アンソニーにあるわけではない。でも魔法祭の運営の一旦を生徒会が担っているのは事実で、アミルの不満にアンソニーはその真面目な性格ゆえ、真摯に答えていた。
「でもアミル様、1年生はとてもラッキーなんですのよ。魔法祭には沢山の飲食店の屋台が登場します。街中でお馴染みのお店の屋台も沢山ありますの。そこでは限定の味や数量限定のスイーツもあるのですが……。2年生や3年生は忙しくて、本当に合間に屋台へ足を運ぶことしかできません。でも1年生なら食べ放題です!」
ジェシカの言葉に、アミルの顔色が変わる。「それは本当か、ジェシカ!」と早速食らいついた。「ええ。1年生だけのチャンスを逃さない手はありませんわ」とジェシカが応じている。
そう、そうなのだ!
魔法祭に沢山のお店が出店してくれる。
それなのに満喫できるのは、1年生と来場した家族や近隣住民。
それだけは……大いに不満だった。
マーブルおばさんのお店の屋台も、勿論、出店する。1年生の時は、そこで数量限定の爽やかヒンヤリバームクーヘン レモン味を食べることができた。でも2年生の時は……。食べ歩きができるロリポップ型のキャラメルミルク味のバームクーヘンが発売されると聞き、買いに行こうとした。
当時の私は魔力が弱いので、早々に負けた。そうなると後は暇……になることはなかった。競技進行の手伝いと裏方に回ることになり、屋台へ行く時間なんてない。それでも昼食や休憩時間はもらえるので、その時間を使い、屋台へ向かうが……。
まず人気の屋台は大行列。さらに売り切れも続出。結局、いつでも街で手に入るいつもの味を手に入れ、とほほ……となることもしばし。その上、行列に並んだロスタイムで、すぐに現場へ戻る時間になってしまう。
だから1年生は。存分に屋台を満喫し、上級生の魔法を見て驚くでいいと思った。そしてジェシカから話を聞いたアミルは、すっかり屋台を満喫するモードにシフトしていた。もう自分が魔法を披露したいと文句を言うことはない。
「それでニーナはどうするんだ? 魔法の披露?」
ウィルに振られた私はクリスを見る。
「ニーナは僕と、ニーナの友人のメグとの3人で、共演をすることにしたよ」
「! なんだよ、最強夫婦共演か! これは……負けられないな、ジェシカ」
ウィルに振られたジェシカは「も、勿論ですわ!」と少し頬を赤くしている。
可愛らしいわ、ジェシカ。うん。
「で、アンソニーはソロなのか?」
アミルに振られたアンソニーは苦笑する。
「そうだね。僕は生徒会もあるし、一人で披露することにしたよ」
アンソニーはそんな風に謙遜しているが、これは嘘である。
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次回は明日『人気者は大変』を更新します。
なぜアンソニーはソロなのか!?
引き続きよろしくお願いいたします。


























































