26:もう終わってしまう
刀が廃れていく……。
魔法国との国交が再開され、これから文明開化が進む中、東の国では刀が姿を消して行くのだろうか。
私が生きた前世の日本では確かに刀は姿を消して行ったが……。
新たな三色団子に手を伸ばしたサイタニは、よく晴れた青空を眩しそうに見つめながら、こんなことを言う。
「だがな、ニーナ嬢。武器なんて必要のない世界が一番だとわしは思っている。武器で人間同士が傷つけあうことをわしは好かん。どうしてもというなら、わしは相撲の勝負で十分だと思っている」
サイタニの言葉に力士出身のヤマダは「うん、うん」と頷く。
「それに武器を持って戦う暇があるなら、もっと産業を発展させ、技術を改革した方がいい。まずは農業。天候に左右され、その度に食糧危機になるのは困る。次に医療。病気や怪我を克服する。そして工業。未だ火事により、一晩で街が消えてしまう。火に強い建材や建物を増やす必要がある。それに……」
東の国の未来について、サイタニは熱く語り続ける。
彼の目は前だけを見ているわけではない。その先を、うんと未来を見て、そこに辿り着くためにどうしたらいいのか、それを必死に考えている。
日本にも。
かつて時代の変革期に彼のような逸材がいた。でもそういった人物たちは、暗殺されてしまった。
でもここはマジパラという乙女ゲームの世界だ。
サイタニは命を狙われ、8年間、メリア魔法国にいたわけだが。
もうほとぼりは冷めただろう。このままサイタニが東の国のために、その力を遺憾なく発揮できるといいな。そう思わずにはいられない。
そんなサイタニの話を聞きながら、午前中が終わった。
みんなは剣術の練習で大いに汗をかき、そして道場が用意してくれた山盛りご飯とたくあん、具沢山の味噌汁、卵焼きの昼食をいただいた。
「皆、明日にはメリア魔法国に帰るわけだから。土産でも買うといいのでは?」
サイタニのこの提案には大賛成で、沢山のお店が並ぶ大通りへと向かう。
「まずはジェシカのお土産を選びたいわ」
「そうなると……着物かな?」
「ニーナ、クリス。ジェシカのお土産、着物でいいと思うが、サイズは分かるのか?」
ウィルに冷静に指摘され、頭を抱えることになる。
正直、私よりうんとスタイルがいいことは分かるが、サイズまではさすがに分からなかった。
「だったら反物を買って帰ればいいんじゃないか? 後は魔法で着物に仕立てるか、ドレスの一部に取り入れるのは?」
「アミル、それは名案よ!」
こうして。
みんなでジェシカにあう着物の生地を選んだ。
選んだ反物は……。
深緑色の生地に、百合が描かれたもので、色のコントラストがとても美しい。帯は、白練色の生地に、紺色で献上柄が描かれていた。こちらはとても大人っぽい。
草履や襦袢などの必要な物を揃えるとかなりの荷物になった。梱包し、宿に届けてもらうことにして、ウィンスレット辺境夫人とジェシカ、メグのための簪も入手。
さらにウィンスレット辺境のために東の国のお酒、アンソニーのためにも着物一式、他にも羊羹、水あめ、栗饅頭などの食べ物、巾着袋や手ぬぐい他の雑貨も手に入れることができた。
クリス達の部屋に届けられたお土産は結構な量だったが。
転移魔法で持ち帰ることができるのは……本当に便利だと思う。
こうして午後は買い物三昧で終わり、夕食までのひと時をクリスと部屋で過ごした。
クリスは、白地に紺色の麻の葉模様の着物に、紫紺色の袴姿で、それはうら若き書生さんみたいでとてもよく似合っていた。一方の私は浴衣姿だ。
そんな姿で畳の上でラブラブしていると、まるで大正ロマン気分。
チリンと風鈴の音が響き、東都を行き交う人々の喧騒を聞きながら、クリスに抱きしめられ、甘いキスをしていると。
「お夕食の用意ができましたよ」と戸の向こうから声がかかる。クリスがすぐに「分かりました」と返事をして、私のことを一度ぎゅっと抱きしめた。
「夕ご飯、楽しみだね」
「ええ。結局、ここの宿の一階は食事処なのに、昨日も一昨日も外食だったから。どんな夕ご飯をいただけるか期待しちゃうわ」
「そうだね。東の国での滞在は今日が最後だから。美味しい物を食べられるといいね」
クリスの言葉に少し寂しい気持ちが沸きあがる。
そう。
夏季休暇も、もう終わってしまう。
そして東の国から明日にはメリア魔法国へと帰らなければならない。
クリスとアミルがいなかったから。
メリア魔法国から船で2カ月以上かかるこの東の国へ来ることできなかった。それが思いがけず来ることができたのだ。それだけでもラッキーなこと。しかもなんだかんだで沢山、思い出を作ることができたのだから。贅沢は言えない。
新学期が始まって、メグに東の国へ行ったと話したら、驚くかしら?
そんなことを思いながら、ゆっくり二人で立ち上がり、手をつないで一階へ向かった。
一階の座敷には膳と座布団がズラリと並んでいる。先に部屋に着ていたアミルとウィルはサイタニから胡坐について習っていた。クリスと私が着席すると、夕食……というより宴会がスタートした。というのも芸者さんが入って来て、三味線をひきながら、踊りを始め、サイタニやイシカワはお酌をしてもらっている。
当然のように芸者さんから私達もお酒を進められたが、まだ飲めませんと丁重にお断りした。
おはようございます~
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは明日『何事や?』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします~


























































