33:ニーナは面白いな
「逃げる……? それは……花畑が学園の敷地内にあると分かり、不法侵入しようとして、教師に見つかり追われた……ということですか?」
ウィルが軽快な声で笑った。
アガパンサスの花畑が終わり、青と白のモスフロックスが一面に咲いている。
「ニーナは面白いな。発想力が豊かだよ。彼は『奇跡の子』だ。教師を呼び出し、その場で魔法をかければ、学校なんて簡単に侵入できる」
「確かに」
「あの移動は、徒歩、馬車や車を使った移動じゃない。転移魔法を何度も使った移動だと思う。何かに追われていた。そうとしか思えない。それに彼の動きを追うと、どうも街から遠ざかろう、遠ざかろうとしているように思える。僕の予想では、最終的に彼は街を出たのではないかと思う。防犯カメラは街中にしかない。だから街の外へ出たかどうかの物証はない。でも彼は……ギリス王国にいるのかもしれない」
「ギリス王国!?」
私は驚いて息を飲む。
でも確かに、もし何かに追われていて、その追っ手がギリス王国の手の者なら……。彼がギリス王国の方へ逃げるよう、追い込まれた可能性がある。
もしギリス王国に囚われているなら……。
いくら『奇跡の子』でも、そう簡単には脱出できない気がする。
「ギリス王国には、彼が生まれる10年前に、『奇跡の子』が生まれたと言われている。だがどうも『奇跡の子』というのは、彼同様自由人みたいで。つまりは希少な存在だから、国は手厚く保護したいと思うのだが、本人はそれを嫌がり、自由を求める。ギリス王国ではどうやら『奇跡の子』が行方不明らしい。ギリス王国は『奇跡の子』は王宮深くで健在だと主張しているが、疑わしいという意見が大半だ」
『奇跡の子』は自由人……。
二つの国でそれぞれの『奇跡の子』が行方不明になっていることを踏まえると、確かに自由人と言わざるを得ないだろう。
「ブルンデルクはギリス王国に近いし、街中に間者がいてもおかしくない。彼はもちろん、自身が『奇跡の子』とバレないよう、注意をしていたと思う。それでも不意を突かれたのか、間者がよっぽどの手練れだったのか。街の外へ外へと追い込まれ、ついにギリス王国の間者に捕えられた。
その際、彼が『奇跡の子』であるとバレてしまった。そしてそのままギリス王国へ連れ去られた。さらわれた彼は、身代わりにされた。行方不明とされている、ギリス王国の『奇跡の子』の。彼は今、ギリス王国の王宮奥深くに拘束されている……そんな可能性もある。これだったら彼が戻って来ない、いや戻って来られないのも納得だ」
驚くと同時にジャスミンを思わせる香りが漂い、ウィルも私も思わず立ち止まる。
前を行くジェラルドもこちらを振り向く。
見渡すと、ガーデニアの真っ白な花に取り囲まれていた。
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