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２４：熱心になってしまう理由

甘味処を出ると、自由行動になった。

サイタニとイシカワは、どうやら東都にいる知り合いを尋ねるらしい。ヤマダを連れ、「夕食までに宿へ戻る」と人混みの中へ消えていく。一方の私達は人力車に乗り、有名なお寺を見に行ったり、歌舞伎にも登場した場所を見に行ったりして、宿へ戻った。

夕ご飯は、宿の一階ではなく、外で食べることになっている。そう。クリスが気になると言っていた蕎麦屋へ行くことになったのだ。さらにそのお店では鰹料理も出している。喜んで蕎麦と鰹を食べることになったのだが。

「蕎麦をすする……。これはなかなか難しいね」

クリスもウィルも蕎麦をすすって食べるが上手くできない。ウィルはまだ箸の使い方だって完璧ではないので、すするの難易度は……高いと思う。クリスは箸の使い方に問題はないが、うまくすすることができない。苦戦するクリスの姿は……本人には申し訳ないが、可愛らしい。すごく可愛い。もう、抱きしめたくなってしまう♡

一方のアミルは本能が赴くままに蕎麦を口に運んだところ、予想以上に上手に食べることができている。できているのだが……。

「ニーナはつゆを飛ばさず上手く食べているよな。というかアミル！　それはやり過ぎだ！　僕にまでつゆが飛んできている」

ウィルを大いに慌てさせた。

鰹は刺身で食べたが皆、美味しいと喜んでいる。

サイタニとイシカワは鰹の刺身を肴に、天ぷらを頼み、蕎麦は食べずにお酒をちびちびとやっていた。二人はしきりと「自動車はこの国にも必要だ」「そのためには道路の整備が先決だ」と、メリア魔法国で過ごした8年間を踏まえ、東の国でこれから必要となる産業や技術について熱く語っている。

お酒好きのサイタニとイシカワはまだまだ飲み足りないようだが、続きは宿でいうことになった。蕎麦屋を出ると、人力車で宿まで帰ることになる。そうすることを提案したのは、クリスだ。人力車が走り始めると、クリスはこんなことを語った。

「東の国に来て驚いたのは、馬車がほとんどなく、代わりに人がこうやって馬車の代わりに道を走っていることだ。どうしてこの国では馬車がないのだろうね」

「……！　そう言われるとそうよね。なんでかしら？」

「僕の予想だと馬車を走らせるのに向いていない地形だったのかもしれないね。後は……馬の品種の違い、それと東の国では馬が貴重な扱いをされている気がするよ。宿の主（あるじ）にも話を聞いたけど、馬に荷物を引かせるという発想がないように感じた。馬に人が乗ることがあっても、馬車のように荷を引かせることは考えられないようだね」

東の国に来て僅か二日なのに。クリスはよく観察をしている。宿の主（あるじ）とそんなことを話していることにも驚いてしまう。

「あと、どうも以前の政府では、戦略上、馬の使用について制限を設けていたようだよ。馬は戦で重要な役目を担っていたからかな」

「そうなのね。クリスは本当に、なんでも知っているのね」

「そんなことないよ。みんなに教えてもらっている。まだまだ勉強中だよ」

そう言うとクリスは私を抱き寄せる。さりげなく額へキスをすると、静かに口を開く。

「それにここはニーナの故郷だから。この国ついて知ることが、ニーナを知ることにつながる気がするから。つい熱心になってしまうのかな」

「クリス……！」

まさか人力車で。クリスの愛を感じ、こんなに胸がときめいてしまうなんて。時間としては15分ほどだったが。その移動時間は幸せなひと時になった。

◇

宿に戻ると、サイタニとイシカワは部屋でお酒を飲むことになったが、アミルはその二人に付き合うことにした。なんでも母国をよりよくするために熱く語る二人に、何か感銘を受けたらしい。

ウィルはそのままお風呂に向かい、私も入浴することにした。

そしてお風呂を出た後は……。