23:細やかな気配りはたまらない
久々に床に敷かれた布団で寝たが。
ベッドに慣れ切った体に、この床の布団は結構厳しかった。体のあちこちが痛む気がする。
東の国にはいいところもいっぱいある。
だが布団に関しては。
ベッドの導入求む!だ。
ひとまず起き上がり、さてと考える。
昨日プレゼントされた着物もあるが。
連日同じ着物というのは……。
皆、どうしているのだろう? 分からない。
ひとまず私は魔法を使えるのだ。
ドレスでいいだろう。
ということで。
魔法で用意したドレスに着替えた。
オフホワイトの生地に、ピンクとライラック色の薔薇が散りばめられたドレスはトップスと裾に淡いピンクの繊細な刺繍が施されたレースが飾られている。ウエストにはライラック色のサッシュベルト。
浴衣を着てうちわを使っている時、「やっぱり私は日本人だわ~」と思っていたが。こうやってドレスを着るとなんだか落ち着く。そうなると私のアイデンティティーは既に西洋にあるのかしら?なんてことを思いながら、朝食をとるべく一階へ向かう。
昨日と同じ座敷には、朝食の膳が用意されている。
「おっ、ニーナ嬢。おはよう。今朝もなんとまあ、華やかでお美しい。黄金色でそんな絹糸のような髪の女性、メリア魔法国のあちこちを旅したが、ニーナ嬢ぐらいだ。実に稀有ですな」
サイタニが朝から全力で褒めてくれているので、自然と頬が緩む。
「ささ、どうぞ中へ」
促され、座布団の上できちんと正座をすると。
「そのドレス姿で、凛と背筋を伸ばし、正座ができるとは。本当に、ニーナ嬢は。東の国で暮らしていたことがあるようにしか思えない」
これにはイシカワもヤマダも「うん、うん」と頷いている。確かに正座の経験はあるし、和の文化には慣れているから……。
「おはようございます」
爽やかな声に振り返ると、クリスが部屋に入ってきた!
今日のクリスは白シャツにパステルピンクのベストに同色のズボン。タイはライラック色とやはり私とペアスタイルに見える。それだけでもう、朝から幸せ気分になる。
続けて「おはようございます」と入ってきたウィルは、白シャツに濃い緑のズボン。欠伸をかみ殺している様子から、どうやら慣れない布団でよく眠れていないようだ。
「おはようございます!」とひと際元気な声で部屋に入ってきたアミルは。赤茶色の着物姿だ。どうやら着物が気に入ったようで、「自分で召喚してみた!」とドヤ顔でその場で一回転する。黒の帯もよく合っており、「魔法で着物も召喚できるとはな。便利、便利」とサイタニは拍手している。
こうして全員が揃い、朝食が始まった。
朝食は至ってシンプル。
味噌汁、焼き魚、卵焼き、白米、漬物。
育ち盛りのアミルはご飯を三杯もおかわりしていた。
朝食がそろそろ終わるところで、お茶を飲みながら、サイタニが今日の予定を教えてくれる。
「今日は歌舞伎を見に行こう! 歩いて行ける場所に歌舞伎を楽しめる場所があるからな。メリア魔法国でいうオペラみたいなものだ。楽しめると思う」
サイタニは朝食の席で歌舞伎がどんなものであるか説明してくれる。ウィルとクリスは熱心に話を聞き、アミルは「オペラもそうだけど、眠くなるんだよな……」と話し半分に聞いていた。それでも初めての歌舞伎ということで、好奇心にかられ、アミルも皆と一緒に劇場へ向かった。
四幕に渡る世話物の演目は、想像以上に面白い。ざっとしたあらすじはサイタニから聞いていたので、言葉が分からない部分もあっても、ちゃんとついていくことができている。さらに休憩時間を使い、サイタニとイシカワが物語の補足をしてくれるところにも助けられた。
何よりもうまくいくと思った駆け落ちがうまくいかず、それどころかヒロインに当たる女性は悪の手に落ちてしまい……。あらすじが分かっていても。どうなるのか、あの悪党に天罰は下るのかと、ハラハラしてしまう。そしてそれはアミルも同じだった。そう。気づけばアミルはどっぷりと歌舞伎にハマっていた。
こうして休憩を挟み、5時間に渡り、歌舞伎の観劇をすることになったのだが。最初から最後まで楽しむことができた。
上演の後は甘味処へ向かい、そこであんみつを食べながら初めて見た歌舞伎の感想を話すことになった。ウィルは長セリフに驚いたと言い、アミルは他の演目も見たいといい、クリスは……。
「初鰹という食べ物が、とても美味しそうに感じたよ。季節のはじめに手に入る食べ物を珍重する文化が面白いと思ったし、そこに大きな価値を置いているところが東の国のならではと思えたかな。後は蕎麦が食べたくなってしまった」
クリスは食べ物に注目していたなんて! 頭脳明晰クリスっぽくない姿に、微笑ましさを感じてしまう。ちなみにクリスは私の耳元で「どんなことがあっても僕はニーナが悪の手に落ちるようなことはしないからね」と囁く。
さりげないアピールだが、私は嬉しくてキュンキュンしてしまう。それに「水まんじゅうに本当はニーナが入れたかったのが、このあんこだね。僕は美味しいと思うよ」と言ってくれて……。ホント、クリスのこの細やかな気配りはたまらない。
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続きは明日『熱心になってしまう理由』を更新します。
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