22:照れるクリス
花火の余韻のままに宿へ戻り、入浴をし、寝る準備を進めた。メリア魔法国では猫足のバスタブにすっかり慣れていたが。ここでは檜風呂。木の香りに癒された。用意されていた浴衣に着替え、うちわを手にすると、もう完全に日本人に戻った気分だ。
ミルキーは部屋にあった鞠で楽しそうに遊んでいる。
障子をあけ、夜風を部屋に入れるが、風があまりない。
外は真っ暗かと思ったが、意外にも明るい。
夏祭りもまだ行われているようだし、飲み屋や私達がいるような宿もあるようで、提灯や街灯の明かりが見えていた。
「ニーナ、まだ起きている?」
戸を軽く叩く音とクリスの声に、一気にテンションが上がる。すぐに戸を引き、クリスを部屋の中に迎える。
「あ……!」
クリスが浴衣を着ていた。
想像通り。
浴衣姿のクリスもカッコいい!
白地に紺色の三本くさり模様とシンプルなものだけど、クリスが着ていると信じられないほど素敵に見えてしまう。これはホント、不思議。スタイルがいいから? 美貌の顔立ちのせい? 推しフィルターが起動しているから?
ともかくガン見してその姿を鑑賞していると。
「ニーナ、そんなにじっと見て、どうしたの?」
クリスが頬を少し染め、照れている。
照れるクリスというのは。
私の大好物!
もっと照れて欲しくなり、「だって浴衣姿のクリスが新鮮で、さらにとっても素敵だから……♡」と思いっきり甘々モードで見上げると。
さらにクリスの頬が赤くなる。
これは……目論見通り! たまら~ん!
「でもそれを言うならニーナだって。……浴衣姿のニーナは初めて見たけど、なんだかとてもドキドキしてしまうよ」
……!
そ、そんな風に言われると。
一気に心臓がバクバクしてきて。当然、血の巡りも良くなり。頬が熱くなり、もはやクリス鑑賞をしている場合ではなくなる。
しかも。
「ニーナ」と名前を呼ばれ、抱きしめられた瞬間。
これはヤバイとお互い、瞬時に体を離すことになる。
ドレスの時と違い。
寝間着代わりの浴衣は、下着なんてないも同然なので。
抱きしめ合えば、互いの体をダイレクトに感じてしまう。
しかも。
旅館なんてそんなに広い部屋ではない。
特に私は一人部屋。
卓袱台は端に寄せられ、畳の部屋の真ん中に布団が敷かれている。
ソファもないから腰を下ろす場所もないに等しい。
いや、あるのだけど、それは布団の余白にある畳。
もしくは布団の上しかないのです。
加えて、シャンデリアなんてない。
あるのは行灯のみで、それもそこまで明るいわけではないのだ。
つまり、大変ムーディ。
これは……非常に気まずい!
せっかくクリスと二人きり。
甘えられると思いきや、これでは甘えにくい。
こうなったらもう卓袱台に座るしかないだろう。
本来、そんな用途ではないのだが。
私が卓袱台に腰を下ろしたので、クリスは「え、これはテーブルではないの?」という疑問を持ちつつも、でもそれが最善と判断したようで、ちょこんと私の隣に腰を下ろす。
卓袱台なんて小さいので、必然的に二人の距離は近い。
すでに座った時点でお互いの体は触れあっている。
浴衣の薄い布越しにクリスの体温が伝わってきていた。
「……ニーナ。どうして東の国にはソファがないのだろう? みんな、不便じゃないのかな?」
「そ、そうね。どうしてかしら?」
本当に。
昔の人はどうしていたのだろう? これではどんな男女でも夜、部屋で二人きりになったらイイ感じになってしまうのでは!?
「あと、浴衣は……着るのは慣れたら楽だし、今も通気性もいいから、着心地は悪くないけど……。落ち着かないね」
「そ、そうね」
でも冷静に考えると。
別にメリア魔法国においても。寝間着になれば下着はつけていないわけで。この浴衣が異常というわけではないことに気づく。ただ、クリスと私が寝間着姿で抱き合ったことがなかった。ただそれだけだ。
「……!」
抱きしめることができないから。
クリスが膝の上にのせた手をギュッと握りしめた。
本当はぎゅって抱きしめて欲しいのに。
もどかしい……!
そう思っていたら「ニーナ」と優しく名前を呼ばれ。
顔をあげた瞬間。
ふわりと優しくキスをされていた。
もどかしい気持ちからのキスだったので、あっさり力が抜けてしまう。その私の体をクリスが必死に両腕を掴んで支えている。不用意に私の体に触れないようにしているクリスを、涙ぐましく感じてしまう。
ああ、東の国は楽しいけれど。
クリスに甘えるなら断然、メリア魔法国がいい……。
そんなことを思いつつも。
絶妙に距離をとり、お互いに触れないようにしながら、それでも何度かキスをして、休むことになった。
「……ニーナ、ゆっくり休んでね」
「クリスも。おやすみなさい」
こうして東の国の滞在一日目が終わった。
お読みいただき、ありがとうございます!
警報の発動、忘れていました(*/▽\*)
続きは明日『細やかな気配りはたまらない』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします~
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さあ、今度はどうなるのでしょうか!?
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独立した作品です。
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まずはプロローグを、通勤通学の電車の待ち時間。
歯磨きをしながら、完璧回避プランを読んだ後にでも、試しに読んでいただけると幸いです☆
5話以上公開されています。
よろしくお願いいたしますヾ(≧▽≦)ノ


























































