21:ドキドキ。夏の風物詩
胸のドキドキは収まらないまま、クリスにもたれていると。控え目に戸を叩く音がする。クリスが素早く反応し、着物姿なのにすっと立ち上がった。そのまま戸の方へ向かい、返事をすると。
「やあ、クリスくん。ニーナ嬢もいるかな? この近くの神社で夏祭りがあると宿の主に教えてもらった。東の国の祭りなんて、聞いたこともないだろう? みんなで行ってみないか。美味しいものも沢山あるから」
サイタニの言葉に私は立ち上がり、クリスの所へ駆け寄る。
「行きたいです! 夏祭り!」
「おっ、ニーナ嬢。威勢がイイね。では一階へ集合で」
ニッコリ笑ったサイタニが去り、戸を閉じるとクリスがクスクスと笑う。
「ニーナ、かなり嬉しそうだね。夏祭りというのはそんなに楽しいものなの?」
「ええ。沢山の出店が出て、踊りもあると思うわ。食欲をそそる屋台も沢山あると思うの。行きましょう、クリス!」
「分かったよ、ニーナ」
こうして一階に集合すると。
皆で神社へ向かい、歩いて行く。
人気のお祭りのようで。
浴衣姿の子供や大人も私達と同じ方角へ向かい、歩いて行く。
既に祭囃子が聞こえてきて、テンションが上がる。
「このピーヒャラ聞こえている音はなんだ?」
「アミル、これはお祭りの踊りの音楽よ。東の国特有の楽器だと思うわ」
「へえー、聞いたことがない音色だ。……というか、ニーナはホント、東の国に詳しいな」
「そ、そうね。いろいろと勉強したから」
東の国=日本というわけではないが。限りなく日本に近い。だからつい「知っている」という感覚になり、知識を披露してしまうが。気を付けないと。
「おい、ウィル! なんか美味しそうな匂いがするぞ!」
「まて、アミル! 勝手に行動するな!」
アミルとウィルは本当に。まるで兄弟のようだ。
はしゃぐアミルの後を、「やれやれ」という感じでウィルが追いかけている。
「あー! 見て、クリス! 金魚すくいがあるわ! 私、やりたい!」
「キンギョスクイ?」
驚くクリスの手を引いて駆け出すと、後ろでサイタニとイシカワが笑う声が聞こえる。これではまるで、私とクリスがアミルとウィルみたいだと自分でも思ってしまう。でも夏祭りなんて久しぶり。金魚すくいなんてまたできるとは思わなかった。当然、はしゃぎたくなる。
というわけで。
その後はもう、射的を楽しみ、輪投げに挑戦し、紙芝居を眺め、りんご飴、イカ焼き、魚の塩焼き、お寿司、そばなどたらふく食べて、遊んでしまった。
サイタニとイシカワはいつの間にか徳利片手に日本酒を楽しんでいる。
神社の境内に着くと。
さすがにそこは屋台もなく、竹でできた背もたれのない長椅子が置かれ、人もまばらだ。ただ、祭り用の大きな提灯がいくつも飾られ、祭りの雰囲気は存分に楽しめる。
クリスと並んで長椅子に腰かけると、ウィルはアミルと、サイタニ達は三人横並びで同じように腰を下ろした。
その時だった。
ひゅ~というあの夏の風物詩の音が聞こえてきた。
そう、打ち上げ花火!
「うわあ、なんだ、あれは!」
「! これはすごい! 花火だと思うが、僕達が知っている花火とは全然違うぞ」
アミルとウィルが驚嘆している。
クリスも驚いて夜空に咲く大輪の華に釘付けになっている。
「東の国の打ち上げ花火は、ああやって丸く展開されるの。メリア魔法国で見る花火とは少し違うでしょう?」
「驚いたよ、ニーナ。東の国の花火は色鮮やかで、なんて美しいのだろう」
「あれはまるで菊みたいでしょう?」
笑顔でクリスを見ると、その瞳は真剣そのもの。
ものすごい集中力で花火を見ている。
……クリスって、もしかして花火についても研究しているのかしら。
その時。
「うっ」という呻き声みたいなのが聞こえた気がして、思わず周囲を伺おうとした瞬間。
クリスが私の肩を抱き寄せた。
……!
クリスってば、みんながいるのに。
「綺麗だね、ニーナ。今の花火は小さな菊が沢山咲いたね」
「え、ええ。あれは小割という種類だと思うわ」
前世で。小学生の夏休みの自由研究の一環で、花火の種類について調べたことがある私は。何気に花火については詳しいのだ。
「今のは?」
「牡丹ね。菊に比べ、パッと咲いて、余韻が短いの」
「ニーナは花火について詳しいね」
クリスに褒められ、デレ顔の私はここぞとばかりに花火に関する知識を披露していたが。この花火だけは。無言になる。
それは周りの人も皆、同じ。
もうため息をと共に夜空を見上げるしかない。
風が緩やかだから、綺麗にその形が夜の闇に姿を現す。
大柳。
まるで花火が私達の上に降って来そうなぐらい大きく、荘厳だ。
キラキラとその姿が消えるまで、クリスは無言でいたが、瞳を輝かせて私を見る。
「ニーナ、今の花火は、なんて大きく、迫力があるのだろう。迫力はあるけど、なんというか、静の美しさ。静かなる迫力。驚いたよ。こんな花火が見られるとは」
「素敵よね。今の花火は大柳というのよ。見応えがあったでしょう」
「うん。ニーナとこんな素敵な花火を見られて良かったよ」
もう我慢できなかったのだろう。
みんなもいるのだけど。
クリスが私をぎゅっと抱きしめる。
気持ちは私も同じ。
だから私からもクリスをぎゅっと抱きしめた。
「やはり花火は女子と見ないとな」
「わしもニーナ嬢にぎゅっとしてもらいたいが……」
イシカワとサイタニの言葉に、クリスと二人で笑いながらお互いの体をゆっくりはなす。
「そろそろ宿に戻ろうか」
サイタニに促され、クリスと私は立ち上がった。
お読みいただき、ありがとうございます!
夏祭り、花火。夏ですねぇ。
続きは明日『照れるクリス』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします~
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