20:不思議な感覚
満腹だったので散歩がてらウィンドウショッピングをすることになった。大通り沿いのお店を見て歩くのは楽しい。鞄屋、宝石屋、時計屋、画廊。演劇小屋もちょいちょい見られる。
私達はウィンドウショッピングをしているつもりだった。でも周囲の東の国の人達は、私達のことを珍しそうに見ている。着物姿なので、好感度は高い。「似合っている」「粋だねぇ」「男前!」「別嬪さん!」と思わず嬉しくなる反応をもらえた。
通りには絵描きさんもいて、クリスは何度なく、「モデルになってほしい!」と声をかけられている。私も同じように声をかけられた。見るからに異国の人で着物姿。これはかなり目立つようだ。
「そこに写真館があるから、皆で写真を撮ろう!」とサイタニが嬉しそうに私達を案内する。そこで7人でズラリと並んで記念写真を撮影した。写真館から出ると、見るからに紳士という装いの男性から「魂は抜けませんでしたか?」と真顔で聞かれる。この時代、写真はそんな風に思われていたのかと改めて不思議な気持ちになった。
その後もあちこち歩き回り、最終的に辿り着いたのは……。
「ここは一階は飯屋兼飲み屋、二階は宿屋になっている。わしらの屋敷は地方にあるから、今日はここに泊ろう」
そう提案された。
部屋は、サイタニ達三人で一部屋。クリス達三人で一部屋。私だけ一人部屋で申し訳なく思うが、女子は私だけだから……。
ということで案内された部屋に入ると。
和室なんて久しぶりだった。
草履を脱ぎ、畳の上を歩くと、本当に不思議な気持ちになる。前世でもフローリングが当たり前で、畳の部屋は仏壇が置かれ、普段使うことはなかった。置かれている桐ダンスや布がかけられた姿見。床の間の掛け軸や生け花も、ホント、和を感じさせる。
窓に向かうと、ガラスはなく、障子になっていた。障子を開けると、目の前に銀端の街並みが広がっている。茜色の空が広がり、遥か遠くまで見渡すことができた。
「あ、もしかしてあれは……!」
ここは東の国で、私の前世の日本とは微妙に違う。でも茜色の空に浮かび上がるあの山は……。
間違いない。富士山。ここでは富士山という名前ではないのだろうが、あれは富士山にしか思えない。
そうか。
この時代では東都と呼ばれる首都から、富士山のような山も見えるのね。
感慨深く富士山そっくりの山を眺めていると。
チリン、チリンと風鈴の音が聞こえる。
さらにはラッパの音が聞こえ、眼下を見ると豆腐売りの姿が見えた。夕餉の支度の魚を焼くような香ばしい匂いも漂っている。屋根を散歩する猫の姿も見え、遠くでカラスの鳴き声も聞こえた。
一瞬、ここがマジパラの世界であることを忘れそうになった時。
入口の方から「ニーナ」とクリスの声が聞こえた。
私が返事をすると、戸を引いて、クリスが中へ入ってくる。その後ろをテクテクと銀狼がついてきていた。
「宿の中では守護霊獣を元に戻していいと言われたからね」
「そうだったわ!」
私はネックレスをはずし、変身魔法を解く。
ミルキーは「ようやく自由に動ける!」とばかりに銀狼に駆け寄る。
クリスは窓のそばに立つ私の隣へとやってきた。
身長の高いクリスは窓枠ギリギリになるので、そのまま窓の傍へ腰を下ろす。私もそばに座りこむと、クリスが優しく私を抱き寄せる。
着物姿で後ろからクリスに抱き寄せられるなんて。いつも以上にドキドキしてしまう。
「東の国はメリア魔法国とは全く違うね。懸命に僕達の文化を取り入れようとしているけど……。勿体ないな。東の国ならではの文化はそのまま生かした方がいいのに」
「クリスは東の国が気に入った?」
「うん。ニーナの故郷だと思うと、さらに好感度が増すかな」
そう言ったクリスは。
胸元から何かを取り出した。
「この旅館の一階で販売していた。トンボ玉を使った簪だって聞いたよ。女性の髪を飾るもので。確かに着物姿の女性が髪をこれで留めていたね。これで髪がまとまるなんて驚きだけど。ニーナもつけられるかな?」
それは透明なトンボ玉で紫と青の朝顔が描かれ、銀粉も散りばめられており、実に綺麗だ。
「とても素敵だわ。ありがとう、クリス。……私は髪がサラサラだから、うまくまとまるかしら」
「僕も手伝うから。試してみようか」
クリスにサポートしてもらい、そして魔法も使いながら髪をまとめていき、そして……。
「出来たわ!」
「本当だ。街で見かけた東の国の女性みたいだ」
手鏡に映る私は。
ブロンドではあるが。髪型はまさに着物にピッタリなもの。
「……!」
ふわりと後ろから私を抱きしめているクリスの唇が、うなじに押し当てられ、心臓がドクンと大きな音を立てる。クリスの唇は柔らかく、適度に潤いがあり、うなじに触れられると……。それだけでもう全身から力が抜けてしまう。
しばらくそのままの状態が続き、もうドキドキが止まらない。
ゆっくりと唇が離れていく瞬間は、安心したような、残念なような、なんとも言えない気分になる。
「……ごめん、ニーナ。……その、なんだか……。着物から見える、この首筋は……とても……その、美しくて……」
クリスの吐息がうなじにかかり、唇が触れているわけではないのに、まるで触れているかのように心臓が大きく反応している。
浴衣や着物から見えるうなじは、男子を瞬殺するって、本当なんだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは明日『ドキドキ。夏の風物詩』を更新します。
夏と言えば・・・
引き続きよろしくお願いいたします~
【一気読み派の読者様】
>>全15話・昨晩完結<<
『婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告した』
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主人公のアンジーとルディの二人の視点で物語が進みます。
まずはプロローグとルディ視点の2話を
歯磨きしながらでも試し読みお願いします☆
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