15:大変なことに気が付く
一方のアミルはこんなことを話し出した。
「ウィルが国王陛下と話している間、母さんとベルディムに東の国へ行くって伝えたら、お土産よろしくって言われたよ。なんでもシルクで出来た『きもの』が有名らしい」
アミルがギリス王国に顔を出していたとは思わず、この言葉にはもう驚くばかり。さすが豊富な魔力を誇るアミルだ。今日の転移だけでどれだけ魔力を使ったのか、想像もつかない。
「ひとまずサイタニに声をかけたら、僕もアミルも休むようにするから。クリスとニーナもゆっくり休んで、明朝に備えてくれ」
ウィルの言葉を合図に、文机の椅子に座っていたアミルも立ち上がり、部屋を出て行く。「おやすみ」と挨拶をお互いにして、解散となった。
するとクリスはすぐに魔法で寝間着を用意し、バスタブにお湯も満たしてくれる。
しかも。
黄色の薔薇の花びらを湯船に浮かべてくれたのだ!
さっぱりとフルーティーな薔薇の香りがバスルームに漂い、一気にテンションが上がる。
大喜びでバスタイムを楽しんだ。
用意してくれた寝間着もとても可愛らしい。
胸元も背中も露出は控えめで、代わりにたっぷりのフリルとリボン。長袖だが、そこは少し透け感があり、涼しくなっている。フワリとしたワンピースタイプで足首までちゃんと隠れていた。色もオフホワイトだが、フリルとリボンはライラック色。
クリスのセンスは完璧と、嬉しくなる。
髪をブラッシングして、バスルームを出ると。ソファの前のローテーブルには紅茶が用意されている。しかもアイスティー。氷まで入っていて驚いてしまう。
勿論、クリスが魔法で用意してくれたものだ。
「ニーナ、寛いでね。僕もすぐ寝る準備を整えるから」
「ありがとう、クリス! 薔薇風呂、とっても素敵だったわ」
「そう。それは良かった」
完璧クリスに大満足でソファに座った。
ミルキーがこちらを見上げたので、抱き上げて膝にのせると、ローテーブルに降りたがる。そこにはクリスが用意した黄色の薔薇の花が飾られていた。ミルキーはその薔薇へと近づいて行く。
どうやら薔薇の素敵な香りに心惹かれたようで、ふんふんと匂いを嗅いでいる。
一方の私はグラスを手に取り、アイスティーを口へと運ぶ。
「美味しい!」
独り言でもそう呟かずにはいられない。さっぱりとしたレモンティーで、ほのかな蜂蜜の甘みを感じる。
これは入浴後には最高!とゴクゴクと飲んでしまう。
すっかりアイスティーを飲み終え、部屋を見渡し、そこで気づく。いろいろなことに。
当たり前のようにサイタニからこの部屋を使っていいと言われ、既に入浴もさせてもらい、寝る気満々だったが。
この部屋は……ベッドは大きいが、一人部屋だ。
つまり、ベッドは一つしかない。
そして……この部屋でクリスと私は二人きり……。
え、え、え、え、えーーーーーーーっ!
心臓が突如として爆発寸前までバクバクと言い出す。
ま、待って。
ク、クリスとこの部屋で……。
失神寸前になったところで。
「ニーナ、お待たせ」
爽やか全開のクリスの声に、飛び上がりそうになる。
バクバクする心臓を抱えながらクリスを見ると……。
以前のような素肌にナイトガウン姿ではない。
残念ながら。
寝間着を着用の上、薄手のナイトガウンを羽織っている。実に落ち着いた雰囲気で、お風呂上りとはいえ、服装で心臓がどうこうすることはない。
それでも。
やはり少ししっとりした髪、血色のいい肌にはドキドキしてしまう。でもそれよりも何よりもベッドが一つ問題の方に神経が集中してしまい、変わらず心臓はバクバクしていた。
そんな私に気付いていないのか、クリスは私の横に座ると、アイスティーを口に運ぶ。
その横顔は惚れ惚れとする美しさ。神々しく、なんというのだろう。世俗とは切り離された存在に思える。
そう、そうなのだ。
この部屋にベッドは一つしかないのだが。クリスは絶対、行き過ぎた行動はしない……そう思えた。
「ニーナ、見てご覧。ミルキーが薔薇の花びらを食べちゃったよ」
「! 本当だわ、大丈夫かしら!?」
「体によくないものは食べたりしないからね。それにミルキーは霊獣だから、ハムスターが食べる物を食べるわけではない。きっとミルキーもニーナ同様、薔薇が気に入ったのだろうね」
そう言って微笑んだクリスはやはり本当に素敵。そしてその長い指でミルキーの頭を優しく撫でる姿も、信じられないぐらい素晴らしく見える。
その上でゆったりアイスティーを口に運ぶ姿も。
なんだかとっても尊く思える。
「さて。明日は未知の国に行くからね。今日はもう休もうか、ニーナ」
休む=寝る=ベッド。
ということで、当然、心臓が反応する。
一方、すっと立ち上がったクリスは、クローゼットをあけ、上の方の棚から枕と薄手の掛け布を手に取る。
「ニーナ、そのソファは僕に譲ってもらっていい?」
「! は、はいっ」
ミルキーを抱きかかえ、慌てて立ち上がると。
「そんなに慌てなくていいんだよ、ニーナ」とクリスは優しく微笑む。微笑んだまま、ソファに枕を置き、掛け布を広げた。
「ソファは……クリスの身長には小さい気がする……。私がソファで休むわ」
「その必要はないよ、ニーナ」
そう言った瞬間。
お読みいただき、ありがとうございます!
ドキドキ……
続きは明日『可愛い!』を更新します。
久々の激甘回になる予感です(*/▽\*)
引き続きよろしくお願いいたします~
【お知らせ】
7月17日(月)12時半
新作を公開します!
中編ですので、当日完結します。
17日の夜から完結に向け走り抜けます。
https://ncode.syosetu.com/n6598ih/
Q:どんな作品?
『完結●断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』という作品の第二弾として描き下ろしました。続編ではありませんが、本作をお楽しみいただいた方は、絶対に楽しめると思います。
Q:タイトルは?
意味深なタイトルなので、ぜひ公開日をお楽しみにしてください!
Q:楽しめる作品ですか?
はい! ハッピーエンドで読後感もよく、全年齢版なので安心してお楽しみいただけます!
用意していた新作3作品の一つを満を持して公開します。
ご覧いただけると嬉しいです☆

























































