14:深い愛
「私がいなくなったって、すぐに気づいた?」
「気づいたよ。でも同時にカロランの剣の魔力も感知したんだ。質屋に預けられた時。剣は特殊な箱にいれられていた。でもその箱から取り出したのだろう。すぐにあの古代魔法と古の力を感知した。勿論、カロランの剣は重要だ。ただ僕はニーナの状況を知りたいと思い、全神経をニーナに向けた」
クリスのライラック色の瞳に、私の姿が映っている。
「すると意識を失った以外の変化は感じられない。もし体を傷つけらたり、服に変化があれば。カロランの剣を無視し、ニーナを最優先した。ただ危険な状態にはないと分かったから、まずはカロランの剣を回収し、そしてここへやってきた。本当は真っ先に駆け付けたかったのに……。到着が遅くなってごめんよ、ニーナ」
そう言ったクリスは、私を抱きしめる腕に力を込める。クリスの苦渋の決断がよく伝わってきた。
カロランの剣の回収は王命なのだ。そしてその時点で私の身に危険はなかった。それをクリスは確認している。さらに私には婚約指輪があったのだから。いざとなればそれでクリスの元へ戻れた。だからこんなに申し訳なく思う必要はないのに。
「クリスの判断は間違っていないわ。最善だった。だって私はサイタニから傷つけられることも、拘束されることもなかったのだから。カロランの剣を取り戻せて、本当によかったわ」
「ニーナの身に何もなかったとしても。さらわれているんだ。僕の最愛の人が。害されることがなくても。僕の手が届かない場所に連れ去れてしまう可能性はゼロじゃない。気が気じゃなかったよ。本当に無事でいてくれてありがとう、ニーナ」
全身全霊を込め、抱きしめられたので。
ただ抱きしめられただけなのに、身も心もとろけてしまった。
抱きしめられている。それだけではない。クリスの深い愛を感じていた。とろけて当然だ。
「ところでニーナ。なぜニーナはサイタニの言葉を理解できたの? あの言語、僕は初めて聞いた」
「あ、それは……」
もうクリスに隠す必要はないだろう。既にマジパラのことも、私が悪役令嬢であることも知っているのだから。
「実はね。マジパラという乙女ゲームを作ったのは、東の国なの。といっても、私が生きていた世界では東の国という名前ではなく、日本、というのだけど。未来の日本という国で誕生したゲームがマジパラなの。そして東の国はその日本をモチーフにした国だと思うの。サイタニが話していた言葉は、その日本の方言……つまり、地域固有の言語みたいなもの。私もちゃんと理解できているわけではないわ。ただ、言っていることはなんとなく分かった……そんな感じかしら」
ゆっくり私から体をはなしたクリスの瞳は、キラキラと輝いている。
「日本……東の国は、ニーナの生まれ故郷でもあるということ?」
「そ、そうね……。時代がかなり違うけれど。昔の日本だから」
「例え時代が違っても。ニーナのルーツになる国だ。そうか……。ひょんなことから異国の地へ行くことになったと思ったけど……。ニーナにつながる国かと思うと、格段に興味が沸いてきたよ」
再びクリスは私を抱き寄せ、額や頬へキスをしながら楽しそうに尋ねる。
「ニーナ、東の国はどんな国なの?」
「そうね。クリスがプレゼントしてくれたドレスに使われていた着物という生地を使った服を、まだみんな着ていると思うわ。そのうち貴族は、ドレスを着るようになると思うけど」
「なるほど。きもの。ドレスではないんだね。……宝探しの時に食べたライスボールを、みんな食べたりしているの?」
「あれは『おにぎり』って言うの。家の中で食べるより、持ち運びに便利だから、森や山の中に入る時に持参して食べたりするかしら? あ、そうそう。ベッドはないのよ。床に敷布団というものを敷いて、そこで寝るのよ」
「え、そうなの!?」
興味津々のクリスに東の国……日本について話していると、本当に不思議な気持ちになる。そこへ向かおうとしていることも。そこにクリスが降り立つことも。
しばらくは日本についての話で盛り上がった。
「アミルとウィル、そろそろ戻って来るかな」
そうクリスが言った瞬間。
二人が揃って姿を現した。
◇
「見ての通り、父上は……国王陛下はお忍びで東の国へ行くことを認めてくれたよ。地図の端の国で、僕らからすると未知の国だ。どんな国なのか、この機会によく見ておくがいいって。自分も即位する前だったら行きたかった……なんてとんでもないことも言っていたけど」
文机に寄りかかったウィルは「まったく父上もやんちゃだよ」と肩をすくめて笑う。国王陛下はウィルと似た性格で、若い頃は無茶をしたこともあると聞いていた。きっと本当に東の国に行きたいと思っていると分かり、なんだか微笑ましくなる。
「それと国王陛下が『クリストファー、カロランの剣、よく見つけてくれた。ありがとう』だってさ」
「ウィル、あれは僕だけの功績ではないよ」
「何言っているんだ、クリス。カロランの剣の在り処はクリスがいなければ分からなかった。間違いなく、クリスのおかげに決まっているだろう。それに込められている力や魔法が何であるかも分かり、驚いていたよ」
そう言ってクリスを見るウィルの目は、明らかに尊敬の眼差しだ。同学年で同い年でも、ウィルのクリスへの情景の想いは変らない。
お読みいただき、ありがとうございます!
ウィルも一緒に東の国に行ける!
よかったね~、ウィル☆
続きは明日『大変なことに気が付く』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。
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