11:あ、あれ……?
レストルームでビックリしてしまう。なぜなら着物姿の女性がいたからだ。黒い生地に碧い色の蝶と白やピンクの牡丹の花がデザインされた美しい着物に、長い黒髪はハーフアップにしている。一目で東の国の人だと分かった。
思わずガン見してしまったが、着物の女性もまた、私をガン見していた。
この状況でスルーは何だか気まずい。だから思わず、その着物の女性に声をかけていた。
「素敵な着物ですね」
「あ、ありがとうございます」
着物の女性はハスキーボイスだ。
「あの、あなたは……その、ものすごい魔力の持ち主ですね?」
着物の女性の目線は私の婚約指輪に注がれている。
「魔力を感知できるのですか?」
「はい。魔法は使えませんが、魔力は気配で分かると申しますか」
魔力を気配で感知するなんて初めて聞いた。しかも魔法を使えないのに、それが感知できるなんてすごい。
「この婚約指輪には私を守ろうとする彼の魔法が沢山かけられているのです。あなたが感知したのはその魔法だと思います」
「……なるほど。すごいですね、あなたの婚約者は」
「はい。とても立派で尊敬できる方です」
私の言葉に着物姿の女性はニッコリと微笑む。
「フィアマールは風光明媚なので、新婚旅行で訪れる方が多いと聞きましたが。あなたは婚約者と婚前旅行ですか?」
婚前旅行……! 甘美な一言に秒で顔が赤くなる。
「い、いえ、そういうわけでは。仕事で……来ました」
「まあ、婚約者さんと同じ仕事をされているのですか?」
「そう、ですね。……私は全然、彼の足元に及びませんが」
着物の女性は「なるほど」と頷き、再度尋ねる。
「ご結婚はいつの予定ですか?」
「ちゃんとした式は来年以降ですが、秋には婚姻関係を結ぶことになっています」
「まあ、式を待たずに婚姻関係を結ぶということは……相当お互いに愛し合っているということですね。待ちきれない……ということですね」
この指摘には瞬時に顔から耳まで真っ赤になっていると感じてしまう。
「お幸せになってください」
「ありがとうございます」
そう言って立ち去ったつもりだった。だが私は……。
◇
ゆっくり目を開けると、見慣れないシャンデリアと淡いグリーンの天井が見えた。
えっと……。え? なんで横たわっているの、私?
「おっ、気づいたか?」
私を覗き込む顔を見て、「あっ!」と思わず声をあげてしまう。知っている顔だった。
「あ、あなたはサイタニさんですか!?」
尋ねる私を見て、サイタニは不思議そうな顔をしている。
でも間違いない。
黒髪のウルフヘア。キリッとした眉に、パッチリとした黒い瞳。でも眼鏡をかけ、白の黒縞模様に紺色の袴姿だ。似顔絵のバリエーションの一つの顔をしている。
「わしの名前を知っちゅう?」
!? ほ、方言……?
知っちゅう……って、知っている?ということ?
動揺しながらも答える。
「『witchcraft』というお店で、サイタニさんは買い物をされましたよね? 魔力が込められた宝剣を。その剣はこの国にとって、とても大切な物なのです。それを買い戻したくて、あなたのことを探していました」
私の返事を聞いたサイタニは「なるほど……」と頷くと。
「おまん達じゃったがか。わしを探しよったがは。みょうに剣を気にしちゅうようだと思うたき。そりゃ置いてきた」
え、えーと。
自分を探していたのは私達と言っている? それで剣は置いてきた、と言っている……?
「え、剣はどこかに置いてきたのですか!?」
驚く私に対し、サイタニに質屋に預けたとあっさり答えた。質屋からカロランの剣を取り戻すのは……そこまで難しいことではないと思える。安心し、そして……。自分が今、どういう状態なのか考えることになる。
私は早めの夕食をとるため、クリス達と共にレストランにいた。そろそろお店を出るとなり、レストルームへ行き、そこで着物姿の女性に会ったのだが……。
えっと、そこからの記憶がない。
……もしや気を失った、とか?
というか、なぜ私はサイタニさんに会えたの?
全く状況が掴めない。
ただ分かるのはここがホテルのような部屋であり、そこにサイタニがいるということだけだ。
「サイタニさん、ここはどこでしょうか? どうして私はサイタニさんとここにいるのでしょうか?」
「女子トイレで、君は変装しよったわしに会うた。君の婚約者はまっこと魔力が強い者であり、かつ君を心から愛しちゅうと分かった。その婚約者にわしゃ会いたいと思うた。そこで君を船に乗せた。魔力が強い婚約者なら、ここに来ることもできるろうきね」
どうしてマジパラの世界で方言なの……?
混乱するが、東の国という日本を想定した国が存在しているのだ。もしかするとマジパラの新シリーズには、彼も登場するのかもしれない。アンジェラやアミルというマジパラをプレイしていた私が知らないキャラもいるのだ。ここで驚いたり、動揺したりしても意味はないのだろう。
それよりも。
今の言葉を理解する必要がある。女子トレイ……変装。つまり、サイタニは女装して偽名を使い、船に乗り込んだということか。クリスが言っていたことは奇しくも当たってしまったわけだ。そしてクリスのことを私が話し、彼が魔力が強く、私を心から愛していると知ったと。で、サイタニはクリスに会いたくなった。それで……え、船に乗せた? え、ここ、船の客室ということ!?
お読みいただき、ありがとうございます!
いきなりサイタニに会えたけど……
続きは明日『3人目も?』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































