10:最後はクリス頼み
すべての手筈が整った。するとウィルは……。
「あとはクリスが魔力の痕跡を感知する。これでサイタニを見逃し、カロランの剣が出国してしまうという事態は避けられるだろう」
ウィルが自信をのぞかせたが、それも当然に思えた。入出国管理局は船から降りるにも乗るにも必ず通過する場所だ。似顔絵が共有され、名前も分かっている。ここで見落とす可能性は限りなく低い。その上でクリスがいるのだ。
サイタニには間違いなく会えると私だって思える。
入出国管理局の応接室でお茶を出してもらい、待機していると、東の国へ向かう3隻の船とシンハー公国へ向かう3隻の船の乗客名簿が届けられた。
入出国管理局の管理官であるザックは、ウィルに申し訳なさそうに報告する。
「サイタニという名前の乗客はこの名簿では見つかりませんでした。三人の職員に確認させ、自分も目を通したのですが……。ただ、まだどの船も客室が余っています。乗船予約をせず、当日空いている船に飛び乗る可能性もありますが。一応、名簿をご覧になりますか?」
「ザック管理官、お忙しいところ対応ありがとうございます。それだけ確認いただいて名前がないということは。確かに予約していない可能性もありますね。念のためで、名簿を見せていただいても?」
ウィルが礼儀正しく声をかけると、ザックは「勿論です」と名簿をウィルに渡した。「ありがとうございます」とウィルが名簿を受け取ると、ザック管理官は部屋を出て行った。
すぐに皆で手分けしてサイタニの名前を探すが、ザック管理官が言う通りだ。サイタニの名前は見つからない。
「客室が余っているとはいえ、それでも数室だ。予約をとらず、当日乗り込むとは思えないな」
「じゃあ、今晩の船ではなく、明日の船で出発するんじゃないか?」
アミルの指摘にウィルは首を振る。
「明日、東の国へ向かう船は貨物船しかない。その2隻は、フィアマール(ここ)には寄港するだけで、荷物を積み込んだら即出発となる。あくまでここに立ち寄るのは荷物の運び込みと燃料や食料の補給だけだ」
するとクリスがこんな疑問を口にする。
「ウィル、もしや偽名を使っている可能性は?」
「それは……可能性としてゼロではないな。東の国で実は名の知れた者であり、身分を隠しメリア魔法国へやってきた……ということも考えられる。何せ東の国は魔法を使える人間が上陸することを恐れ、魔法国との交易を300年近く禁止していた歴史を持つからな」
「そうなると偽名だけではなく、変装する可能性もあるのかしら? 似顔絵と名前の情報ではサイタニは見つけられない……?」
さらに私が指摘すると、ウィルは腕組みをして考え込んでしまう。つまりその可能性は大いにあるということだ。似顔絵と名前でサイタニが見つけられないとなると。クリスの魔力の感知に期待するしかできなくなる。
「ウィル、大丈夫だよ。カロランの剣に込められた魔力は普通ではない。見逃すことはないから。ちゃんと僕が見つけてみせるよ」
「……すまないな、クリス。いつも最後はクリス頼みだ」
ウィルが拝む仕草をすると、アミルが「そうだ!」と大声を上げる。皆が一斉にアミルを見ると。
「サイタニは魔法を使えるわけではない。だから変身魔法を使うわけではないだろう。そうしたらあの似顔でバリエーションを作ればいいんだよ。かつらを被ったり、髭をはやしたり、化粧して肌の色を変えている似顔絵も用意するのはどうだ?」
「それはいいアイデアだよ、アミル」
クリスが笑顔になり、ウィルも力強く頷く。
こうして。
魔法を使い、サイタニ変装バージョンの似顔絵を用意した。完成した似顔絵はザック管理官に渡し、共有してもらうことにした。
「現時点でやれることはやったと思う。そろそろサイタニもフィアマールに到着した頃だろう。船の出向は一番早いのが20時だ。今はまさに嵐の前の静けさ。夕食をとるなら今しかない。少し早いが」
確かにもうすぐ17時という時間で、夕食には早い。でもその後のことを考えると腹ごしらえをするのは今しかないだろう。
それはアミルもクリスも理解しているから、ウィルの提案に従い、皆でレストランへ向かった。銀狼、ミルキー、プラジュは一緒にレストランに向かったが、国王陛下のハヤブサとイーグルは、フィアマールの上空から私達を見守ってくれている。
港にほど近いレストランを選んだのだが。意外にも肉料理が充実していた。炭火焼きした鶏肉や豚肉が出てきたが、肉自体をあらかじめハーブの利いたタレに漬け込んでいるようで、何もつけずにそのままパクパクといただける。
結構濃い目の味付けなので、添えられているフライドポテトにもついつい手が伸びてしまう。このポテト、それを見越してか薄味なので、肉とあわせて食べるのに実に丁度いい。さらにラムチョップも登場し、こちらも絶品。レモンを絞ってあっさり食べるのがたまらない。
食後には、ヨーグルトのようなデザートをいただいた。ヨーグルトと言ってもクリームチーズのようで、蜂蜜と砕いたクルミ、ココアパウダーがかかっている。味は程よい甘さでクルミの食感も抜群。
無事腹ごしらえができ、レストランを出る前に私はレストルームへ向かった。
お読みいただき、ありがとうございます!
ウィル、アミル、クリスが揃えば最強♪
続きは明日『あ、あれ……?』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































