8:女心を分かっていない
ウィルに問われたクリスは……。
「ウィルの言うことは尤もだね。確かに夜遅くになる可能性は高い。……ニーナ、今回はアンソニーとジェシカと一緒に屋敷で留守番にする? サイタニはすぐ見つけられるだろうし、明日の朝にはまた屋敷で会えるから」
クリスが私の顔をのぞきこんだ。
ウィルもクリスも夜遅くまで活動することになり、私が疲れるだろうと気を使ってくれている。それはよく分かっていた。でも気持ちとしては……。
クリスが大魔法使いに就任すれば。私が屋敷で留守番をする機会は増えるだろう。それはもうそうしないといけない事態が圧倒的に多く、そこに選択肢はないと思うのだ。つまり、屋敷で留守番しているしかない。
でも今回は。
私が我がままを言えば、連れて行ってもらうことはできる。ついて行くか、行かないかの選択肢を与えられているからだ。それならば。「クリスについて行きたい」と答えてしまいたい。
そう思う一方で。本当は同行したいのにジェシカとアンソニーは留守番をするのだ。私だけ我がままを言うというのも……。それに今回、マジパラでカロランの剣探しをした時の知識は必要とされていないと思うのだ。だからわざわざ同行する必要性はない……。
「あー、ウィルもクリスも。女心を分かっていないんじゃないか!」
アミルが呆れた声を出し、ウィルとクリスは「!?」と驚いた顔でアミルを見ている。私もビックリしてアミルを見てしまう。
「フィアマールに行くかどうか聞かれた後のニーナの顔を見ただろう? 行きたいんだろう。クリスと一緒にいたいから。でも夜遅くなると分かっている。しかもサイタニとカロランの剣探しに、ニーナは必須じゃない。それが分かるから、ニーナは自分が留守番するのが妥当とも理解している。それでもクリスと一緒にいたいんだ。汲んでやれよ、ニーナの気持ちを。置いてきぼりされて元気がなくなるのと、同行して睡眠不足で元気がなくなるの。どっちのニーナが可哀そうだ? オレは前者のニーナを想像すると、辛い」
いつの間にアミルは……心の機微を理解できるようになったのだろう。半年足らずの間のアミルの成長ぶりに感動してしまう。
一方、今のアミルの言葉を聞いたウィルとクリスは……。
「ウィル、アミル、すまないが、3分でいい。ニーナと話す時間をもらえるかな? 二人きりで」
「勿論だ、クリス。アミル、一旦、この部屋を出よう」
ウィルが椅子から立ち上がり、扉の方へ向かうと、アミルもすぐにその後を追う。二人がいなくなると、隣に座るクリスが私のことをぎゅっと抱きしめた。
「……ニーナ。ごめん。まさかアミルにあんな風に指摘されないと気づけないなんて。いつだってニーナは僕のそばにいたいと思ってくれているのに。それは考えるまでもない。すぐ分かること。本当にごめんよ、ニーナ。僕だってニーナと離れたくない。いつだってそばにいたい。ただ、ニーナの体が疲れてしまうかと思い……。ちゃんと回復魔法をかけるから。僕と一緒にフィアマールに行くかい、ニーナ?」
急に抱きしめられ、大好きなクリスの透明感のある清楚な香りに包まれ、もう完全に私は甘えたいモードになってしまう。しかも今、二人きり。
だからクリスの背に両腕を回し、存分にクリスに抱きつき、「クリスと一緒にいたい。フィアマールにも一緒に行きたいわ」と、想像以上に甘えるような声を出していた。すると。
「……! そうだよね、ニーナ。ごめん。すぐにその気持ちに気付けなくて」と言うと、さらに私をぎゅっと抱きしめる。それでも足りなくて、「ごめんよ、ニーナ」と甘々で囁きながら、額や頬へとキスをした。瞬時に力が抜け、全身をクリスに預けてしまう。
「ニーナ……」と囁くクリスの声は、もう溺愛モードのスイッチがオンになりそうだったが。
扉を遠慮がちにノックする音が聞こえる。
「残念」と笑うクリスの顔が本当にキラキラとしていて……。既に推しフィルターが発動してしまった私は。ウィルとアミルが戻って来た後、ドキドキする心臓を鎮めるのに必死だった。
◇
フィアマールへの転移はアミルの魔法で行った。クリスはカロランの剣探しのために、魔力の温存をしようとなった結果だ。本来ブルンデルクからだと、王都への一泊を挟んで、二日はかかるフィアマールへあっという間に到着してしまった。もはやアミルとクリスがいれば、馬車も車も不要だ。
そんな瞬時にやってきてしまったフィアマールは。
ブルンデルクより、うんと熱い!
海辺の都市だけあり、サンサンと陽射しが降り注ぎ、ビーチリゾート感が半端ない。夏季休暇も終わるという時期だが、人も多く、とても賑わっている。
「ここは……まるでクカルムカ砂漠並みに熱いな。制服なんか着ていたら、汗だくになる」
そう言ったアミルは。
あの上半身の露出が激しい服へと、瞬時に魔法を使い着替えていた。そう。白のハーレムパンツに、ルビー色の丈の短い襟の立っているベストのようなあの服だ。でもその服装は、この暑さには最適に思える。
サバーハ・ルヘイル!
(エジプトの朝の挨拶。砂漠暮らしのアミルにちなみ)
お読みいただき、ありがとうございます!
溺愛モードのスイッチ入らず。残念!?
続きは明日『懐かしい!』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。

























































