7:本当にクリスは頼もしい
ウィルの説明を聞いたクリスは落ち着いた口調で話し出す。
「なるほど。ウィル、僕はユーリアのおかげで古代魔法について、かなり学ばせてもらうことになった。宝剣であり、勝利祈願で魔法が込められているというのなら。保管庫にいくばくかの魔力の痕跡が残っているかもしれない。それを僕が把握できれば、港でその魔力を見つけ出すことは……できると思うよ」
「そうか……!」
ウィルの瞳が輝き、クリスに尊敬の眼差しとして向けられている。そこでニッコリと笑顔で応じるクリスは、本当に頼もしい。
その後は、各自動き出すことになる。
クリスと私は店員の案内で地下にある保管庫に向かい、カロランの剣に込められた魔力の痕跡を確認することになった。ウィルはカールトンに頼み、サイタニの似顔絵を描いてもらうよう頼んだ。アミルはその間にウィンスレット辺境伯の屋敷に転移魔法で一旦戻り、事態をアンソニーとジェシカに伝えることになった。
「ニーナ、行こう」
クリスにエスコートされ、地下の保管庫へと向かう。銀狼の背に乗ったミルキーも私達の後をついてくる。
案内された保管庫はとても広く、ズラリと並んだ棚には、呪術的なアイテムから、箒やステッキなど、これが魔法アイテム?と思われる物が沢山置かれていた。
「宝剣はこちらの金庫の中で保管されていました。特別な布にくるまれ、箱に納められた上でここにしまわれていたのです」
かなり大型の金庫の中には、沢山の箱が詰まっている。だがカロランの剣が置かれていたところは、完全に空っぽの状態だ。それだけカロランの剣が、特別扱いされていたことが分かる。
クリスは空っぽの空間に手を差し入れ、何やら呪文を唱えたが……。
聞いたことのない言葉だ。ただ耳に心地よい言葉で、そうやって理解不可能な呪文を詠唱する姿は、フィッツ教頭を思わせる。
そこで気が付く。クリスが今、詠唱しているのは、古代魔法の呪文なのだと。
古代魔法の呪文を理解し、覚え、それを詠唱できるなんて……。
真剣な眼差しのクリスの横顔を見て、胸がドキドキしてしまう。
アイスシルバー色のサラサラの髪の下からのぞく、切れ長のライラック色の瞳。髪色と同じ睫毛は長く、目元だけでも実に美しい。鼻は高く、白磁のようにすべすべな肌をしている。桜色の唇は、神々が奏でる音楽のような呪文を静かに唱えている。
「……ニーナ、これはすごいよ。カロランの剣は……間違いなく勝利の剣だ。少なくとも3つの失われた力が行使されている。深い傷を治す『聖なる力』、刃こぼれを瞬時に直す『錬金術の力』、ドラゴンを使役できる『勇者の力』。さらに味方を鼓舞する言霊魔法、闇を照らす精霊魔法……。この2つの魔力の痕跡も感じられる」
そしてクリスはほうっと綺麗なため息をもらす。
「カロランの剣の捜索は後回しにしていたが……。もっと早くに対応するべきだった。無論、この剣を悪用できる人間は基本的にいないと思う。カロランの剣に使われているのは、失われた力と魔法だから。その一方で、この剣をフィッツ教頭が……教会がマークしていたのもよく分かる。彼らは少なくともいくつかの古代魔法と古の力に通じているわけだからね。それでも手出しをしなかったのは、カロランの剣が王族に伝わる剣と知っていたからだ。今回、情報を与えてくれたことには感謝しないといけないね」
「クリスはカロランの剣に込められた力の痕跡を掴めたということよね。これでフィアマールの港へ行けば、剣を見つけ出せる?」
期待を込めて尋ねると、クリスは天使のように微笑む。そして「勿論」と答える。その自信たっぷりな様子に、さすがクリスと嬉しくなってしまう。すぐに地上へと戻り、ウィルとアミルに報告することになった。
店内には従業員用の休憩スペースがあったので、そこをかりて話をすることになった。テーブルと4人分の椅子があったので、そこに腰かけて。
ウィルの手にはカールトンが描いたサイタニの絵があった。それを見る限り。サイタニは二十代前半ぐらいで、黒髪のウルフヘア。キリッとした眉に、パッチリとした黒い瞳となかなかに男前に思える。
一方、アンソニーとジェシカと話したアミルは……。
「アンソニーが、ウィンスレット辺境伯が帰宅したら、すべて説明してくれるって請け負ってくれたよ。本当は自分も一緒にフィアマールへ行きたいが、後方支援も大切だから我慢するって。ジェシカは自分では足手まといになるだろうから、屋敷で待つが、無事宝剣を取り戻せるよう願っているってさ。でも今回、別に戦闘になったりしないよな? だって金を払って返してもらうんだろう?」
「無論、そのつもりだ。東の国は、魔法使いがいない国と言われている。だからメリア魔法国を敵に回したいとは思っていないだろうしな。それにちゃんと金は払うのだから。しかもいい値に応じるつもりだ。戦闘にはならないだろう」
ウィルはそう言うと、改めてクリスと私を見た。
「サイタニを見つけ出す……というか、彼が持つカロランの剣を見つけるためにはクリスは不可欠だ。クリスが動くということは、当然、ニーナも一緒だよな? ただ、サイタニがフィアマールに着くのは今日の夕方。そこから探すとなると……。夜遅くなる可能性もある。それでも大丈夫か?」
Bonjour!
(世界の言葉でおはように挑戦)
お読みいただき、ありがとうございます!
フィッツ教頭、何気にイイ人です。
続きは明日『女心を分かっていない』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします。


























































