31:それはちょっとホラーではないか……。
カフェテリアから教室に戻る道中で、ウィルはさらに話を続けた。
ネモフィラの花畑があるエリアが、学校の敷地に組み込まれたのは、今から9年前の5月だったという。周辺住民にヒアリングしたが、9年前の4月の時点では、その辺り一帯には歩道もあり、ネモフィラの花畑にも足を運ぶことができた。だが5月になると、途端にその辺り一帯に柵が立てられ、立ち入りが禁じられてしまう。そしてその柵は5メートル近い高さだった。子供だった私は、到底、中を確認できない。
私と彼が出会い、再会の約束をしたネモフィラの花畑は、学校の敷地に組み込まれてしまった。だが逆にそうなることで、他のネモフィラの花畑と違い、そのまま花畑は残ることになる。昔は花畑だったが、今は道路になっていたり、建物が立っていたりする場所も多い。でも私と彼が出会った花畑は、そうならずに済んだ。
さらに元々学校の敷地に新たに組み込まれたそのエリアは、庭園として整備が進められていた。そしてネモフィラの花畑はあまりにも美しかったからだろう。そのままの形で残されることになった。
まさか私が子供の頃に探し求めたネモフィラの花畑が学校にあるなんて……。
驚きだった。
多分、アンソニーもこのことを何かで知って、私が探していた花畑はここだろうと思ったのだろう。
教室に着くまでの間に、とんでもない事実を知ることになった。
ひとまず放課後、その花畑に行く約束をし、ウィルと私はそれぞれの教室へと戻る。
午後の授業は……申し訳ないが、すべて私の頭の整理のために使われることになった。
ウィルが探している『奇跡の子』と言われる彼は、9年前、ブルンデルクの地にやってきた。彼は訪れた地で、魔法に使う鉱石や植物の情報、地形、気候など多岐に渡って見て調べて回っていた。この地を歩き回る中で、今は学園の敷地内にあるネモフィラの花畑に足を運び、そこで私と出会った。
彼と私が何を話してそうなったのか、覚えていないので分からない。
だが意気投合したのだろう。彼と私は「僕が大人になったら、君を迎えに行く」という約束をした。つまりは将来結婚しようという約束だ。
彼はこの約束の証として、私が他の誰かと恋をしないように、他の誰かと結ばれないようにするため、2つの魔法を私にかけた。厳密にはものすごく複雑な組み合わせの魔法を私にかけた。ざっくり言うと魔力を抑えるための魔法と遠視になる魔法だ。その結果、目論見通り、私は彼氏いない歴年齢、縁談話もなく、成長することになった。つまり、前世同様の喪女だ。
ちなみにジェシカやアンソニーには、結構な頻度で縁談話が舞い込んでいる。
3年前。18歳となり、結婚が認められる年齢になった彼は、再びこの地へやってきた。身だしなみを整え、花束を持ち、正式なプロポーズをし、私と婚約するために。再会の地はもちろんあのネモフィラの花畑だったはずだ。だから彼はそこへ向かったが……。
花畑はコンカドール魔術学園の敷地の中にある。
きっと驚いたはずだ。
現状、ウィルから聞いた情報はここまで。
この後のことを推測すると……。
学園の敷地内には当然だが、学園の関係者以外の立ち入りは禁じられている。彼はその禁を破り、ネモフィラの花畑に向かったのだろうか?
一方の私はどうだろう。
アンソニーの話だと、一人でネモフィラの花畑を探し続けていたが、見つけることできずにいた。だから彼が禁を破り、花畑に向かったとしても、私はいなかった……行けなかった可能性が高い。でもそんなことを彼は知らず、約束が果たせず、今も私を待ち続けている……!?
まさかこの後、学園の庭園にあるネモフィラの花畑に行ったら、21歳の彼が待っていたりする、とか!?
……。
もしそうなら、それはちょっとホラーではないか……。
いや、待って。
私はネモフィラの花畑を探していたという記憶がない。さらに言えば、ネモフィラの花畑で彼とどのように出会い、何を話したのか、一切覚えていない。
彼が私の記憶を消したのなら、18歳の彼と私は会っていたことになる。
なぜ再会したのに、記憶を消すのか?
しかも中途半端な消し方。
……もしかして。
私がプロポーズを断った、とか……?
頭にきて、私から記憶を消そうとしたが、すべて消し終える前に邪魔が入った?
とにかく記憶を消しきることができないまま、彼は姿を消した……というか、ショックで姿をくらました……?
「ニーナ・コンスタンティ・ノヴァ」
突然教師から名前を呼ばれ、私は慌てて現実に思考を戻す。
「前に出て、この問題を解いて」
!! あちゃ~。
私はしまったと思いながら、椅子から立ち上がり、黒板へと向かった。
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