4:激変
驚いた。
ユーリアが音もなく現れた。
ミルキーも銀狼もプラジュも、突然現れたユーリアに目が釘付けだ。
しかもユーリアの姿は……。
ダークネイビーの髪はお団子状に一つでまとめられ、着ている服は黒の地味な半袖ワンピース。闇夜に咲く大輪の薔薇の華――そんな風に思わせる真紅のドレスを着ていたのに。今はまるで別人だ。
しかも――。
「ユーリア・ブランデ。あなたが迷惑をかけた皆さんですよ。きちんとお詫びをしてはいかがですか?」
フィッツ教頭に促されたユーリアは……。
「……ウィリアム第三王子さま。同級生であるあなたに対し、禁じられた魔法を使ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。もう二度と、あなたの心を弄ぶような力、魔法は使いません」
そこでぺこりと頭を下げるユーリアを見るウィルの顔は……心底驚き、言葉を失っている。だが、なんとか言葉を絞り出した。
「反省しているなら……許すよ、ユーリア。……今後は誰かを傷つけるようなことはしないで欲しい」
素直に頷いたユーリアは次にクリスと私に声をかけた。
「クリストファーさま、ニーナさま。婚約をしている愛し合うあなた達二人の仲を壊すようなことをしてしまい、本当にごめんなさい。もう二人の邪魔は絶対にしません」
「ユーリア様。僕とニーナのこと、認めていただけたのですね。あなたの言う通り、僕はニーナを深く愛し、ニーナも僕を深く愛しています。二人の絆をあなたは壊すことできません。ですから二度と、手出しをしないでください」
クリスは。ウィルと違い、どんなにユーリアが変化していようと、気にしていなかった。それどころか謝罪するユーリアに対し、即答で、自身と私に対し、余計なことをするなと、しっかり牽制している。
ユーリアはクリスの言葉を聞き、「はい。二度と手出しはしません」と平謝りだ。
「あ、あの、ちゃんと謝罪いただけて安心しました。クリスの言う通り、私は彼の婚約者であり、私達は深く愛し合っています。もう変な力を手に入れようとしたり、誰かを貶めたりする魔法は使わないでください」
私の返事を聞いたユーリアは「はい。二度とお二人のことは勿論、他の誰かを貶めるようなことはしません。魔法は正しく使うようにします」と即答した。そして再度、クリスと私に対し、深々とお辞儀をすると、アミルを見た。
その瞬間。
ユーリアの頬が気恥ずかしそうにほんのり赤くなる。
この反応はまるで……。
ユーリアがアミルに恋をしているように見える。
でもまさか。そんなわけはないだろうと自分で自分の考えを否定した。
「セルジューク第六王子さま。あなたのおかげで、私は闇落ちせずにすみました。ありがとうございます」
これまでで一番、深々とユーリアは頭を下げる。
さらに。
「魔力を失い、無力な自分と向き合い、これまでの自分の生き方を猛省することになりました。これからは純粋な気持ちで魔法を使うようにします。魔法で悪さはしません。ですので、どうかお願いいたします。私に魔力を戻してください」
あの日の夜とは別人過ぎるユーリアの言葉遣いと態度に、驚きを通り越し、もう呆然としてしまう。フィッツ教頭の再教育の腕は……相当なものだと言わざるを得ない。一方のアミルは……。
なんだか珍しい生物を発見し、興味深く眺めている――そんな雰囲気で、一切動じることはない。落ち着いた様子でアミルは話し始めた。
「フィッツ教頭、ユーリアはこう言っているが。これはこの女の本心か?」
「セルジューク第六王子、安心してください。ブランデ嬢は嘘をつけません。嘘をついてもすぐに見破ることができますから」
フィッツ教頭は冷静にアミルの問いかけに答えた。そこで私はクリスの言葉を思い出す。
――「フィッツ教頭達は教会の人間だからね。主に対する懺悔のため、嘘をついていないか判定するような魔法も行使できる。古代魔法の一つ、聖なる力と同列と言われる『枢機卿の力』の一つとしてね」
そうか。
フィッツ教頭には嘘をつけない。嘘をつけない状況での徹底した再教育。間違いない。ユーリアは確かに更生したのだろう。
「なるほど。なら、いっか」と返事をしたアミルは、次の瞬間には「戻した」と応じる。
「ありがとうございます。セルジューク第六王子。さて。ブランデ嬢、魔力が戻ったかどうか、確認しましょう。皆さん、喉が渇いたようです。何か冷たい飲み物を用意してください」
そこでフィッツ教頭はウィル、アミル、クリスを順番に見る。
「ウィリアム第三王子。ここは古文書図書館です。霊獣の召喚は控えていただけないでしょうか」
その言葉にウィルの足元を見ると、そこにはバッチリ円陣が出現している。どうやらアミルがユーリアに魔力を戻したのにあわせ、もしもに備えていたようだ。つまり、ユーリアが魔力を取り戻した後、変な魔法を使ったら、すぐに戦える体勢に入っていた。
さすがウィルだ。魔法の詠唱はフィッツ教頭が話している最中に素早く行ったのだろう。
「セルジューク第六王子。あなたが展開した防御魔法ですが……。起動すればここにいる全員が無傷ではいられないでしょう。建物は崩壊し、この辺り一帯が砂漠に変ってしまう。……解除してください」
お読みいただき、ありがとうございます!
さすがウィル~。そしてアミルはww
続きは明日『完璧な判断』を更新します。
引き続きよろしくお願いいたします~

























































